However, if mic is there... でもそこにマイクがあるなら。
「もうそろそろラジオ局に着くぜ? ってまた緊張してんのか。忙しいやつだな」
「いや、まじで何話せばいいんだろうって考えたら……でも放送前に打ち合わせとかきっとあるんだよな。そこでしっかり聞けばいいか……」
「ああ、打ち合わせなんていらねえって直々に言っておいたから、その心配は不要だぜ?」
「なんでそんなことするの!?」
こいつ本当に頭がおかしいんじゃないだろうか?
「オレは何も準備してない、ありのままのソラが見てみてえんだよなァ……!」
「いやそんなん言われても……」
と、ここでラジオ局の地下駐車場に入っていく。
車内は無言のまま──車が薄暗い駐車場に停まった。
「……」
「まあソラ、そんな緊張すんなよ」
シートベルトを外した神崎が大きく伸びをして、手を頭の後ろに置いて座席にもたれかかった。
「言われてできたら苦労しねーよ」
「最後に──オレからのアドバイスだ」
神崎の声がこれまでに聞いたことがないような、真面目なものになる。
薄暗い車内の中、神崎は俺の方をじっと見つめて──
「──とにかく楽しめ。大事なのはそんだけだ」
「…………どんな深いこと言われんのかと思って身構えたけど、思ったよりも普通で逆に驚いたわ」
「お前が楽しめるようにこっちも工夫してあんだよ。そもそもお前と抜群の化学反応がありそうなパーソナリティーの番組を見繕ってやったんだからなァ」
「お、おう……」
そ、そうか。
今までの校内放送と違って、今回はゲスト。つまり俺はもてなされる側だ。
自分にプランがなくても向こうにプランがあるというわけか。
俺に合う……というのはよくわからないが、少なくともこのド素人ゲストを扱えるだけの実力の持ち主、ということだけは確かだろう。
「念のため忠告しておくが、いくら美人だからってうちのタレントだからな? 頼むから手は出すなよ?」
「……逆にそこまで余裕があったらよかったよ」
「まあ今日の構成はオレ直々に向こうに伝えてあんだよ。お前は流れに身を任せるだけでいいぜ?」
「……おっけー了解」
そいつは非常にありがたい。
向こうにプランがあるなら俺はそのレールに乗るだけでこの放送を乗り切ることができる。
「しかも普段ならこの番組は生放送だが──今回は収録だ」
「……へ?」
「今から収録する音源を使えそうなとこだけ編集して、収録後にすぐ流す手筈だ。やべえこと言っちまっても本番で切ればいい。大船に乗ったつもりでいけ」
「準備は万全ってわけだな……!」
……どうやら俺のために、意外に盤石の布陣を整えてくれているらしい。
というか、それならそうともっと早く言ってくれよ……。
まあ、よし──とにかく覚悟は決まった。
あとは俺が何も考えずにぶちかませばいいってわけだな。
自分でも何言ってるかわからんけど、ここまでぶっ飛んだ状況のせいでアドレナリンが出まくっているのか、もう何がどうなってもいいような気がしてきた。
「おそらくてめえの人生で今日以上に注目を集める日はねえぜ?」
「勝手に人の全盛期決めないで?」
……まあ確実にそうだろうけど。
「どんな結果になったっていい。オレはただ──面白えモンが見てえだけなんだからな」
ふと──それまで俺を捉えていた彼女の視線が外れた。
そしてニヤリと口角を上げて、
「それにここまでお膳立てしてやってんだから少しは楽しんでこいよ……こんな非日常、そうそう味わえねえぜ?」
「まじムカつくわお前……」
──俺は車のドアを開ける。
「……おっけ。じゃあどうなったって知らねーからな!! ──でも収録なら二宮も呼んでも大丈夫じゃね?」
「さあぶちかませよォ──思う存分暴れやがれッ!!」
──何故か質問は華麗に無視されたが、俺は自分の人生が変わる地に降り立った。
そして──
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんかかっこいい感じで車から飛び出したのに、エレベータを二人で待ってるのってシュールだな」
「言うんじゃねえよ」
なんとも締まらない形で──運命の番組が始まる。
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ユーザ名:cube@so cube!!!
柊木に散らばる妹たちよ──援護射撃の準備はいいか?
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