彗星のごとく現れた二人


「え………………凄くね?」



 やばい。

 突然の事態に頭がついていかない。


 今、何がどうなってるんだ?


「しかもな、この受賞の仕方がめちゃくちゃ圧倒的なんだよな!」


 イッチ先輩がOBの方を見ると、


『お前らまじで凄いんだぜ? 彗星のごとく現れた謎の二人組だってもう業界騒然よ?』

『このコンテストって期間が1ヶ月間あるんだよ。バズるためにもみんな、1ヶ月間の頭から継続的にコンテンツを発信したほうが圧倒的に有利なんだ』

『なのにコンテストの締切前日に、たった1本の動画で他の奴らを全員ゴボウ抜きよ!」

『今、SNS上で他のエントリー者やそのファンからは阿鼻叫喚の嵐で、めっちゃ恨まれてるからな?』


「お、おう…………なるほど? う、うん……まあ、まあな……」

「白崎がキャパオーバーするとはこれまたレアだな」

「ちゃんと動画を投稿する前に、俺らが陸に共有したcubeの公式アカウントに載せてたお前らの顔が映った画像はちゃんと別のやつに差し替えておいた」

「ほう。急に画像を差し替えてほしいという依頼はそういう意図があったわけだな」


 うんうんと二宮が頷く。


「今のところお前らのプライバシーの情報は柊木生の外には出回ってない。さすが名門進学校なだけあってモラルがちゃんとある」


 その前にあんたらのモラルを問いただしたい。


「あんま状況がよくわかってねーけど……このコンテストと二宮のさっきの狂喜乱舞と、どう繋がるんですか?」

「それはな凛空、このコンテスト受賞者には当然、特典というものがある」


 イッチ先輩が得意げに言う。


「特典?」

「まあそもそも、このコンテストは将来インフルエンサーになりたいやつらのためのコンテストだから、バズる事自体が目的だから特典は正直あまり重要視されてない……ちなみにお前らはそんなインフルエンサーの卵たちをぐちゃぐちゃに踏み抜いたことになる」

「……」

「で、柊木芸能学園が主催しているので、今回の特典は柊木芸能学園に関連が深いものだ。分かるか?」

「いや、全然……」


 ……柊木芸能学園二関連が深いなんて言われても、俺はたまたま凛が芸能科に通っているから存在を知っているだけで、それ以外は何も詳しくない。


「イッチよ! ここはオレに言わせてくれ!!」

「おう陸! 言ってやれよ!」


 ん、待てよ?


 二宮のここまでの喜びようから察するに……。


「なんと、今をときめく柊木芸能学園現役女子高生声優──神月凛を生で拝めるのだ!!!」




 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……毎日会ってんだよなあ。




「神月凛がやってるラジオに出演できるなんて、凛たん推しにとって最高のご褒美だろ?」

「当たり前だ!! 見るがいい! オレが着ているこのアニメキャラを演じているのも凛たんが演じた妹キャラだ!」


 二宮が胸を張りながら、Tシャツを誇示する。


「もし会ったら、まずは凛たんのサインをもらわんとな……! 家宝にするぞ……!!」


 サインなら家探せば大量に出てくる。学校の教科書とかプリントとかそれはもう大量に。


「神月凛って顔出ししてないからな。陸の興奮する気持ちは非常にわかる」

「なるほど、だから後輩思い……というか、二宮思いってわけなんですね」

「何言ってんだよ凛空? お前も裏で凛たん推しなのも知ってんだからな?」

「……は?」


 ニヤニヤと笑うイッチ先輩。

 他のOBたちもニンマリとやたら温かい笑みを浮かべている。


「なんだ白崎、それなら早く言ってくれればいいものを! 同志だったのか!」



 それは断じて違う。むしろ──その逆だ。



 俺はあいつが出ている作品は見ない、というか見れない。


 共感性羞恥というか、どうしても気になってしまって作品が頭に全く入ってこないので、極力目に入れないようにしている。


 例えば先日、とある漫画のアニメのティザーPVが公開された。

 その作品は俺が昔から推していたラブコメ作品であり、アニメ化を今か今かと待ちわびていたものだった。


 自分が昔から好きだった作品のキャラたちが動く姿を見たとき、涙が出るほど嬉しいものだったが──直後にヒロインの口から妹の声が聞こえてきた時、俺は膝から崩れ落ち、その涙は違う意味になった。


 あれはまじでガン萎えした……。


「だって凛空、部室(旧放送室)で皆でアニメを見る前には、必ず出演声優を確認して神月凛が出てるかチェックして、出てるやつは絶対席を外してただろ?」

「だから好きじゃなくて嫌いって俺よく言ってたじゃないっすか!?」

「凛空、俺たちはお前を決して馬鹿にしたりしない。強がらなくてもいいんだ」


 イッチ先輩は子供を諭すような優しい眼差しを俺に向け、それにOBたちも続く。


『あれだろ? 好きな女の子に嫌いって言っちゃう感じだろ?」

『あそこまで徹底的に見ないようにしてるのは、明らかにおかしいもんな』

『もはや、人目のつかないところでじっくりと自分の好きな声優の声でムフりたかっだんだよな?』

『さっき会えるって聞いたときは黙ってたけど、正直飛び跳ねるぐらい嬉しんだろ?』


「凛空……俺達の前だけでも、正直にならないか?」


「そうですね──家で何百回と会ってるんでなんとも思わないです」


 ──なんて言えるかよちくしょう!

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