合間のこういう話が好き。
とりあえず二宮を凛に会わせるわけにはいかないので、ファミレスで緊急作戦会議を行うことに。
「とりあえず勝手に動画が上がっていたということか」
「うむ……ついさっき、SNSを見ていて気づいたので、慌てて姉貴に車を出してもらってお前の家に行って状況確認に動いたというわけだ」
「だから先生までもいるんですね」
俺の家の住所がわかったのも、先生がいたからか。
「そういうわけだ。本来なら休日出勤はお断りだが、事情が事情なんでな」
と、腕を組みながら先生は答える。
「というか先生……ぷぷっ……」
「な、なんだ……?」
「ぷぷっ……なんで先生……わざわざスーツなんですか! 笑っちゃいますよ! 私服でよくないっすか?」
「そ、それは……」
「こう見えて姉貴はろくな私服を持っていないからな。当然男っ気のかけらもない」
姉の代わりに弟が答えると、
「……うるさい」
と先生が拗ねたようにそっぽを向く。
……意外に可愛いなこの人。
しかも弟が優勢な姉弟喧嘩を初めて見たかもしれない。
「白崎よ、姉貴はこの手の話は手も足も出ないから、今なら攻め放題だぞ!」
「──陸、何か言ったか?」
「……」
……何があったかは姉弟の名誉のために、直接の言及は避けさせていただく。
しかし、一つ言えることがあるとするならば──手も足も出ていた。
この一言に尽きる。
(白崎、やられてばっかりではシャクだ)
(任せろ。違う攻め方というのをお前に見せてやる)
(違う攻め方?)
「先生、休日に先生呼びはふさわしくないと思いませんか? ただでさえ仕事とプライベートの境界が曖昧な仕事ですし」
「突然なんだ? まあそうだが……」
「ですよね。じゃあ今日は──愛海さんと呼びますね」
「……ふえ?」
「そうだな。それがいい」
驚く二宮先生を無視して二宮が同調する。
「愛海さん、それでいいですよね?」
「……え、いや……」
「それにしても愛海さんって愛の海って書いて愛海ですよね? めちゃいい名前じゃないですよね。陸と海っていつもセットだし二宮と相性バッチリ。ねえ愛海さん!」
二宮先生、もとい愛海さんは突然のことについていけずに、顔を赤らめながら自分の名前を呼ばれる度に身体がピクっと震えている。
「あ、俺も
「〜っ!?」
「美人で憧れの愛海先生と相性ぴったりなんて嬉しいなあ!」
「〜〜っっ!?」
「愛海さん。実は僕、今まで隠してきましたけど、ずっと前から愛海さんのことが……」
「〜〜〜っっっ!?」
と、声にならない悲鳴を上げ、茹で上がったタコのように頬を真っ赤に染める先生。
「なんだ……まさか本気で……ちょっと待って、私にも心の準備が──」
「先生──さっきから俺ボケてるんだから早くツッコんでくださいよ?」
「そうだぞ。これだと白崎が姉貴を口説いたことになってしまって、あまりにも白崎が可哀想だぞ?」
「──死ぬ覚悟はできているようだな?」
……うん、ほんとは緊迫感ある感じの状況作ったほうが、盛り上がりが作れていいと思うんだけど、それよりも先生の可愛さが勝ってしまった。
ムシャクシャしてやった。でも後悔しかしていない。
──いつものように二宮先生の愛の拳が俺に振り下ろされる。
と思いきや。
──先生は俺の頭に優しく手を置くだけだった。
「……?」
突然のことに言葉を失ってしまう。
「白崎……突然の事態で不安なのは分かるが、そんなに心配しなくていい」
と、先生は目を細めて優しく俺の頭をなでる。
「……え、急になんですか」
「あまりにお前が不安そうな顔をしていたからな。落ち着かせようと思って」
「……別に落ち着いてますよ」
「いつもよりお前の顔がこわばっているのは私の目から見れば明らかだ。これでもお前の担任だからな」
「……」
らしくもない先生の愛おしげな表情とその手付きに、俺は何もできずにされるがままになってしまう。
──確かに。
突然の出来事で、少し、ほんの少しだけ不安に駆られていた可能性はわずかに、わずかながらにあったことは認めざるを得ない。
SNSで放送の反響があったぐらいでは、最初は驚いたが別にまあなんとかなると思っていた。
しかし、インターネット上に隠し撮りされた動画が投稿されたという心中穏やかでいられない事を聞けば、話は変わってくる。
さすがに、日々理数科でクラスメイトと死闘を繰り広げている俺といえども、一瞬すくんでしまう。
一切の覚悟なくして、いきなり全世界の好奇の目に晒されるというのは、なかなか整理がつかないものだ。
誰が? 一体? 何のために?
わからないことだらけで現実を直視することが怖くなって、少し日和って先生に甘えてしまった。
俺らしくもないな。
──だが、一度心を落ち着かせればもう大丈夫。
不安になることはない。
それに、人生はなんとかなるものだ。
雨降って地固まるし、災い転じて福となす。
止まない雨もなければ、明けない夜もない。
結局、上手い具合に噛み合ってなんとかなることを信じて、気楽に行こう!
「俺の顔がこわばったのは、多分きっと……先生がいつも俺に愛のムチを打つからだと思いますけどね……」
……なんか若干拗ねた言い方になってしまった。
「フッ……可愛くないヤツめ」
そんな俺を見て先生はからかうように目を細めて笑い、静かに彼女の黒髪が揺れる。
愛おしげに教え子を見つめる彼女の視線からは、柔らかな優しさが俺の心の奥にまで伝わってくる。
そんな温かな微笑みを向けられ、くすぐったくなるような感覚を覚えつつも、普段とは違う先生の意外な一面に思わずドキッとしてしまった。
──やっぱり二宮先生は生徒思いで本当に良い先生だ……。
そんな先生が付いてくれているのだ。
俺の表情も自然と晴れやかだ。
「──感動的になっているところ非常に申し訳ないのだが……何故オレだけ思いっきり殴られたのだ?」
二宮の顔も自然と
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