本当の物語はここから。

 ──土曜日の夜。


 俺はリビングでまったりTVゲームをしていた。



 今ほどオンライン環境が整備されていなかった昔は、ゲームでも友達同士の対人戦、もしくは協力系のゲームがよく盛り上がっていた。

 何しろ、一緒にゲームをやってくれる友達が隣にいるときしか、そのゲームをすることができなかったからだ。


 一人じゃ楽しめないし、友達が帰るまでというタイムリミットが丁度いい塩梅となって、より一層楽しめていたんだなと、今なら分かる。


 しかし、今はTVゲームでもオンラインが当たり前の時代。


 人間同士でしかできないゲームがいつでもどこでもできるようになった反面、やはり一緒に隣でやってくれる人がいないというのは、少し寂しい──


 なんてことを思っていると、ガチャっと玄関のドアが開く音がして、


「……おかえり」

「……ん」


 妹の凛が帰宅してきた。

 いつも通り、マネージャーさんの車で仕事から帰宅してきたのだろう。


 彼女の手にはペンと台本のようなものが握られている。

 帰りの車の中でも、次の仕事の準備に勤しんでいたのだろう。


「……」


 凛は俺と食べかけのお菓子、そしてゲームが映ったTV画面を何も言わずにじっくりと見ている。



 ……彼女の目には、一体俺はどう見えているのだろう?


 妹が平日・休日問わずあくせく働いている中、兄は家でまったりとゲームをしている。



 ──なんとも情けない。



 ただこれは弁明させてほしい。


 さっきまでは真面目に勉強をしてたんです。ほんとに。

 一段落したからゲームでもしようかと思っただけで、ただタイミングが悪かっただけ。

 ほんとにさっきまでは勉強してたんだよ?


 ……心の中で、隠れてゲームしてるのが親にバレた小学生みたいな言い訳を繰り返す。



「……」

「……」



 ……なんともいえない気まずい時間が流れている。



 とりあえず気まずいので自室にでも逃げ込むか……。


 ああ……早く柊木寮に入りたい……。


 そしたら妹の目を気にせず、思う存分好きなことができる……!



 と、その時、気まずい雰囲気をかき消すかのように──



 ──ピンポーン。


 来客の合図であるインターホンが鳴った。


 凛の方がインターホンのモニターに近かったので、モニターの前に凛が移動する。

 そして凛が「はい」と答えると、


『オレは二宮陸というものだが、我が同士、白崎凛空はいるか!?』


 なんだ……二宮か──え、二宮!?


 どうして俺の家の住所を知っているんだという疑問はさておき、今ここで一番の問題──二宮と凛を引き合わせてはならないっ!!



 でないと──俺の命はない!!


 凛の存在がバレたら、二宮含め、理数科連中からどんな目に遭うか……想像しただけでも震えが止まらない。



 ──俺は超速でインターホンに駆け寄り、返答しようとしている妹の口を抑える。


「──っ!?」

「どうした二宮! 急に来て」

『その声は白崎! 大変なんだ!』

「どした?」

『ああ……それよりも先程、まるで理想の妹のような声が聞こえた気がするのだが……』

「それは俺の母親だ。それより用件は?」

『ちょっと長くなるから上がらせてくれ』

「ちょ、ちょっと待っててくれ!」


 とりあえず通話を切る。


「……苦しい」


 俺の腕の中で呻き声を上げる凛。


「まじ急にごめんな! ……大丈夫か?」


 背後から妹を拘束する形となってしまっていた。


「……うん。別にいいけど……」


 突然強く締められたせいか、普段は透き通るような真っ白な頬が赤く染まってしまっている。


「とりあえずお前は絶対玄関に出てくるなよ。いいな! 声も上げんなよ!」


 と言って、リビングから玄関へ完璧なコーナリングを見せた後、素早く妹の痕跡が残る靴や傘などを全て片付けて、玄関のドアを開ける。


 視界に入ってきたのはいつもどおりのアニメTシャツを着た二宮。

 そしてその奥には、土曜だというのにいつものスーツ姿に身を包んだ二宮先生までいる。



 ──二宮の表情は切迫した様子で、何か緊急性を要する非常事態なことは雰囲気から伝わってくる。



「……一体何があった?」


 恐る恐る疑問を口にすると、二宮は開口一番──


「──オレたちの放送を隠し撮りしていた動画がインターネットに出回っている!!」




 ………………え?

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