終わりよければ……?
「ふう、あーすっきりした!」
「少々やり過ぎだった気もするんだが……」
絶叫マシンから降りた直後のような、地に足がついているのに謎の浮遊感に苛まれている。
怒りの赴くまま校内放送、なんて思い切ったことをしてしまったもんだ。
しかし、自分からSNSで変態発言を撒き散らしていたわけじゃないとちゃんと弁明できたし、気分は晴れやか。
放送直後は多少悪目立ちするかもしれないが、それも一過性のもの。
事態はゆっくりと収拾に向かうだろう。
「今朝のような腫れ物扱いは二度とごめんだぞ……」
「ふむ、確かにお前の見る目は今回の放送を境に変わっただろうな」
二宮がスマホの画面をスクロールしながら言う。
「もう反応あんのかよ……つーかお前! 余計なことつぶやいてねーよな!?」
二宮に掴みかかる。
「そう案ずるな。オレは何もつぶやいていない」
やれやれ、と首を振って見せる二宮。
……少々疑心暗鬼になっているのかもしれないな。
「そ、そうか。ごめんな、なんか急に疑って」
二宮の襟元をきつく掴んでいた手を離す。すると、
「気にするな。人は間違いを犯す生き物だからな」
俺の間違いを咎めることなく、朗らかに優しく笑いかけてくれる二宮。
そうか、そうだよな。
俺……どうかしてたな……。
「じゃあオレはそろそろ教室に戻──」
「──てめえがそんな優しいわけねーよなあ!!」
逃げるように立ち去ろうとする二宮の腕をがっちりと拘束する。
「てめえさっき……“オレは”っつったよな?」
「白崎……腕を離してくれないか」
「じゃあお前がさっきまで見てた画面を見せてくれ」
「……」
すると、観念したように二宮は渋々と画面を俺に見せる。
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本日のso cube!!!まとめ
リク代表(イケメンの方)
・妹にしたいランキングを画策中
・穢れなき天使と柊木の女王様、黙っていれば……の筆頭や旧部に宿る妖精などの分類作業完了
・妹じゃないという理由でお誘いを断る
ソラ参謀(イケメンじゃない方)
・手馴れたアンチ対応
・匿名でフラれる
・学校内で孤立
・闇堕ち
・cube OBを完全掌握
・OB全員を秒で土下座させる
107いいね 24リツイート 9のコメント
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「……これは?」
「おおお落ち着け!? これはオレがつぶやいたんじゃない! よく見ろ!」
「ユーザ名:リク師匠の一番弟子……?」
そういえばそんな名前でメッセージを送ってきた奴がいたような……。
しかも放送終了してからまだ10分も経ってないんだがこの反響って……。
「また放送を聞いていない奴がこれを見たら、俺のことをどう思うんだろうなあ? なあ、師匠さんよ?」
「待ってくれ! これは別にオレが指示したわけじゃない! 無関係だ!」
慌てて弁明の言葉を並べ立てる二宮。
「弟子の不始末は師匠の不始末っていうよなあ……? そういえば、お前さっき弟子を公認してなかったけなあ……?」
「き、気のせいだろう!? それに内容も別に事実でないとは言い切れない……ってその拳は一体──」
「また俺の不名誉が拡散されてんじゃねえかあああぁぁぁああ!!」
「──ぐはっっ……!!」
二宮先生仕込みの鉄拳を腹部に叩き込み──再起不能となった二宮はその場に倒れた。
「ふう、これで事件も一件落着ってとこ──」
……あれ?
そういえばまだ根本的な問題が解決してないぞ……?
そもそも昨日──何故マイクがオンになっていた?
たまたま調子が悪くて放送中になった、なんてことはありえるはずもない。
明らかに意図的なもの。
ただのいたずらか……それとも俺たちにを陥れようとした何者かの計画的犯行か……!?
その時──トントン、と後ろから肩を叩かれる。
倒れた二宮がもう復活したようだ。
「おい二宮! 落ち着いて聞いてくれ! まだ問題が──」
振り返りながら話しかけると──そこにいた二宮は
「ほう──まだ問題を起こす気なのか?」
「…………」
「確かにお前の言う通り、一旦落ち着く必要があるかもしれない。でないと、加減できないからな」
「あ、そ、その……」
「しかし残念だ──自分の大切な教え子を、この手にかけないといけないとは……」
──最悪の二宮違いだった。
いつのまに先生が……。
「昨日の放送の件で今日の昼に謝罪に来いと言った……もう一度好き勝手に放送しろなんて誰も言ってないが?」
目の前の人の皮を被ったファイターは、必殺の拳を構えて横スマフルホールド待機中。
「ちょ、ちょっと待ってください!
まずは僕の話を聞いてください! い、いいですか、僕は決して二宮先生を貶めるつもりはなかったんです。
ちょうど今から謝罪に向かおうと思っていたところで……謝罪が遅れたのも、どうすれば先生に僕の謝罪の意が伝わるかと、時間をかけて真剣に考えていたのです。
つまり、僕がすぐ謝罪に行けなかったのは、断じて逃げたかったとか、めんどかったとか、俺ばっかりに構っててどんだけ俺のこと好きなんだよ、とかそういう下賤なことを考えていたわけではなく、むしろ僕自身の先生に対する溢れんばかりの謝罪の気持ちの表れといっても差し支えありません。
僕は常々、先生はなんて澄んだ心を持つ美しい人なんだろうと思っていました。
綺麗で皆の憧れ超絶美人でありますが、あまりに恐れ多くで目も合わせることすら憚られてしまいます。
ですから、そんな可憐な先生にそんな拳は似合いません。どうか、どうか、その拳をお収めくださると僕自身、天にも昇る心地というか、じゃないと昇天しかねないというか──」
「──ごちゃごちゃうるさい。一言でまとめろ」
「死にたくないです」
──旧放送室に横たわる死体が、また一つ増えた。
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