ネタにマジレスは厳禁
衝撃の事実に、ただ叫ぶことしかできない。
……まさか自分たちのなりすましが現れると思ってもいなかった。
「まじか……!? な、なあそれって色々大丈夫なのか? 例えば俺たちの名前を使って不名誉な発言とかされたらやばいんじゃ……」
──そう。
この物語は俺たち旧部と、その名を騙る正体不明の敵対者との苦闘を題材とした物語──
「心配するな。犯人はもう分かっている。というか自白してきて、昨日泣きつかれた」
──そんな物騒な物語ではなかったらしい。
はやる俺を見て、二宮は笑う。
「これは旧部の先輩たちが勝手に盛り上がって悪ふざけで作ったものらしい」
「は?」
「試しにつぶやいてみたら姉貴にバレて制裁を頂いたらしい。昨日連絡があってこのアカウントを一方的に譲ってきた」
「なんだそりゃ……」
……わざわざ回跨ぎでそんなネタ仕込むなよ。
危うく、なりすましという根深き社会問題にメスと一石を同時に投げ入れる本格社会派ジャーナリズムミステリー小説が誕生するところだったぜ……そっちの方が面白そうとか言わないで?
冗談はさておき。
冷静に考えれば旧部OB以外の人が、引退式の日の俺たちが映ったプロフィール画像を持っているはずがない。
先輩たちの誰が主犯格なのかは特定しておきたいところだが……
「まあ……先輩たちならお世話になったから別にいいか」
短い間ではあったが、放送室で先輩らと過ごした4月から6月の3ヶ月間はとても楽しかった。
なかなかインパクトのある先輩たちだったので、あの頃は今までの人生で一番刺激的な日々だったかもしれない。
「ってことは先生が俺の画像を使うのを許可したってのはお前の嘘か」
「嘘とは人聞きが悪い。ジョークと言ってくれ。先輩たちが勝手にやっただけだ」
こいつ……。
「じゃあ、ソラってのも先輩たちの悪ふざけか。それなら……なるほど理解したわ」
理解したはいいが、だとしたら全く納得いかない。
「オレは大地の”陸”だろう? お前の漢字は?」
「いや、まあ、凛とした空で“凛空”だな……」
「だからソラなんだろう」
「被ってるからって、俺の方が変えられたの納得いかねえ……!」
イカレている方の名前を改名してほしかったところだ。
「フッ、まあオレはcubeの代表らしいからな!」
「なんで俺がお前の参謀なんだよ!? おい、そのスマホよこせ。そのプロフィール、名前から変更してやる」
二宮のスマホに手を伸ばすが空を切る。
「やめろ! オレたちのリスナーが混乱するだろう! 一度定着したものを変更するのはよくないんだぞ!?」
「定着って別に今すぐ変えればバレないだろ」
そんな作成してまもないアカウントなんて別に大したことないだろう。
早いうちに訂正しておくべきだ。
「お前舐めるなよ! 今のフォロワー、半日で200人を余裕で超えているんだからな!」
「半日で、にひゃく……!? うちの学校って一学年で400人だから……昨日の放送聞いた2人に1人がフォローしてんじゃねーか!?」
昨日作ったばかりの、学校内の人間しか分からない身内ネタのアカウントだぞ……?
明らかに不思議な力が働いているとした思えない。
「どうりで今日の登校時にジロジロみられるわけだ……!!」
しかし明らかに好意的な反応には見えなかったが……。
「そーいや、先輩は試しにつぶやいたらバレたっつってたな?」
「そうだが?」
「どんなつぶやきか見せてくれよ」
「いいだろう」
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本日のso cube!!!まとめ
代表リクの姉は腹筋がバキバキ。
代表が女性に求める3要素
妹 児童 幼女
参謀ソラの好み
恋愛対象:6歳の幼女
求める雰囲気:初々しさ
求める身体的特徴:瑞々しさとあどけなさ
413いいね 30リツイート 7のコメント
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「どうだ? すごい反響だろう?」
「なんでこの部分切り取ったんだよ!? お前はともかく俺がめちゃめちゃヤバい奴じゃねーか!!」
「おいおい、ネタに決まってるだろう?」
「いやネタとしても悪意しかねーだろ!?」
二宮はありのままだからいいものの、俺の部分は悪意そのものじゃねーか!
……先輩たちが悪ノリでテンション上がっている光景がありありと浮かぶ。
これは看過できない。
先ほどは先輩たちだから許すと言ったが、これは絶対に許してはおけない。
ヤツらにはお灸をすえてやらなければならない。
「いや、つーか、何だこの反響の数……」
そもそものリスナーの数である3年生400人を越えている。
──これは何か絶対おかしい……。
まあ色々言いたいことがあるが、確かに放送した内容から逸脱してはいない……色々言いたいことはあるが!
「安心しろよ白崎。みんなネタとして分かって拡散しているはずだからな」
「そう、だよな……?」
まあ確かに放送を聞いていた人からすれば、ネタとして認知されているはずだ。
こんなヤバい内容なのにみんなが遠慮せずに拡散しているのが何よりの証拠。
まともな人間なら、こんなふざけた内容の投稿に反応するなんておかしい。
ならば、さほど問題は深刻ではない──
いや、待てよ…………?
「……だからか! 俺が今日露骨に敬遠されたのは!」
──今朝の謎が解けた。どうやら俺は最悪の誤解をされている。
「どういうことだ?」
「放送を聞いていない1、2年にはこれが──ネタじゃなくてガチに見えてんだよ!!」
俺の悲痛な叫びが早朝の公園に響く。
早朝の公園に立ち尽くす2人の男子高校生を、遠くからママさん方が不思議そうに見ているが、今はそれどころではない。
「……どういうことだ?」
「どうせこんだけ反響あるってことは、柊木生でSNSやってるやつは大体これ知ってんだろ?」
「知っているやつは多いだろうな」
「でも1,2年には当然何のことか分からない。とんでもない発言してるけどなんか柊木生が盛り上がっているから、何か面白いことがあったんだと興味が湧く。プロフィールを見れば旧校舎で何やら放送されていたことが分かる。でも放送の音源とか残っているわけねーからな。だとすれば──」
「3年に聞く、というのが自然な流れであろう」
二宮が言葉を継ぐ。
「そうだ。でもこんな悪ノリして盛り上がっているところに『ネタですよね?』とか『これガチで校内放送に流れたんですか?』とか聞かれたら、お前どうする?」
「まあ……音声もなく、全部説明するのも面倒で興がそがれるからな……『ガチで流れたけどなにか?』と答えるだろうな。何しろ嘘は書かれてない」
「そうなんだよ! 別に嘘じゃないから大体の奴が余計悪ノリしてそう答えるに決まってんだよ!」
「なるほど。そして放送を聞いていない1,2年もこれがでっち上げじゃなくてリアルの内容だと知って、つい拡散したくなる……その結果がこの反響具合というわけか」
「ああ……」
このツイートのスレッドを開く。すると、
『これは本当に旧校舎で流れたのでしょうか?』
という問いかけに対して、
『柊木の後輩どもよ。この内容、ガチだからな?』
『ああ、嘘偽りないことを3年生全員が保証する』
『これがお昼休みに流れたんだぜ? 笑えるだろ?』
という大層親切な方たちが布教活動に専念している。
こんなものを何も知らない人が見れば、このアカウント画像に映っている俺たち二人はどう見えるだろうか?
答えは明白──ただの性犯罪者予備軍の二人組にしか見えないだろう。
しかもアカウントを運営しているのが本人じゃないとは誰も思うまい。
俺は自分の性癖を公然と垂れ流すことに一切の抵抗がない変態にしか見えないはずだ。
おそらく俺と親しい奴はともかく、顔見知り程度の人間は、今まで大人しかった奴が急に本性露わにして暴れ出したみたいな感じに映っているに違いない。
そら、バスで誰も近寄らないわけだよ……っ!!
「お前は元々頭おかしいで通ってるから別に被害ないからいいけど! どうしてくれんだよ!?」
「待て。その認識は初耳なんだが」
「知るか! あのOBども全員ぶっつぶしてやる! ちっ、くそがあああああ!!!」
俺の悪評を広めた、あのOBどもをみすみす許すわけにはいかない。絶対にだ。
──どんなふうにヤツらを痛い目に遭わせてやろうか……!!!
俺は沸き起こる怒りに身を任せ、俺はベンチに置いていたカバンを片手でひったくり、颯爽と自転車に飛び乗る。
「ほら、早く学校行くぞ二宮ぁぁ!!」
「お、おう!」
「ボサッとしてんなよ!! 置いてくぞ!!」
「う、うむ」
「ほらぁ!! さっさと行くぞぉ!!」
「……せめて荷台じゃなくてサドルに乗って言ってくれないか?」
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