第1回放送 〜伝説の始まり〜


「あーもう予定は後回しでいいわ。自己紹介だったな。旧部の白崎だ。んで、目の前にいる妹バカが同じく旧部の二宮だ。よろしく」


『おい! お前がオレの紹介するとお前がメインみたいじゃないか!』


「俺がメインになってお前の異常性を中和してやってんだよ。ありがたく思え」


『納得いかん』


「なるほど、じゃあお前の異常性を全リスナーに知らしめてやるよ。いくつか質問していくから直感で即答しろよ?」


『任せておけ。オレは自分を偽ることなどしない』


「じゃあまずは……年上の女性と年下の女性、どっちがいい?」


『女の子は年下以外あり得ないに決まっているだろう!』


「お前は昭和生まれか」


『妥協して同い年の女の子でも、自分の誕生日より後ならいける』


「妥協とは」


『すまん……これがオレができる最大限の譲歩なんだ』


「どこに歩み寄ったんだよ」


『現代社会』


「どの辺が!?……ま、まあいいや。じゃあ、その女性からは上の名前、下の名前、もしくはあだ名、どれで呼ばれたい?」


『敬称つきならなんでもいい』


「敬称……? あーなるほど。年下だから、さんづけっつーことだな」


『まあ……平たく言えばそういうことだろうな』


「へえ……ちなみにその敬称は?」


『おにーちゃん』


「平たくねえ」


『先ほども言ったが、オレは自分を偽ることなどしない』


「せめてもう少し偽ってくんない?」


『?』


「まあいいや……じゃあお前の休日の過ごし方を教えてくれ」


『ふむ……最近の日課はパトロールだ!』


「パトロール? 見守りってことか?」


『うむ。オレの家は小学校に近いんだが、交通量の多い大通りが多くてな。危なっかしくて放っておけないんだ』


「なるほど。意外に殊勝な心掛けだな。ご近所の見回りとは。そんなに地域愛が強かったのか」


『まあ……平たく言えばそういうことだろうな』


「待て。その言い方はもう不安しかない」


『何を言う! 横断歩道を渡る幼女を見守るために、蛍光色をまとう見回り隊のおじいさんと一緒に立っているだけだ!』


「不審者にしか見えねえ」


『待ってくれ! 蛍光色をまとって見回りしているおじいさんが許されて、何故同じ格好をしているオレは許されないのだ!?』


「お前も蛍光色着てたのかよ! それもそれで怖えわ!」


『オレなりに現代社会に迎合しているのだ! なのに何故許されない!?』


「いやそれは分かんねーよ! でもなんか想像してみたら、穏やかなおじいちゃんが孫目線で子供を見守るのはわかるけど、お前が同じことしてたらかなり浮くんだよ! それが現代社会ってやつなんだよ! 知らんけど多分!」


『なぜお前がヤケになっているんだ……そこまで言うなら逆にオレから質問させてくれないか?』


「へ? まあ……別にいいが」


『じゃあ聞くが……義理の姉と義理の妹──どっちに甘えたい?』


「んー、俺は義理の姉かもしれん。色々と甘えたい」


『白崎! お前正気か!?』


「質問が正気じゃねえ」


『いちいち突っかかるんじゃない。とりあえず一旦呑み込んでオレの質問に答えてくれ。いいか? 今から口答えは無しだ』


「ったく、しゃーねーな」


『相手は20歳年上か、10歳年下、どちらがいい?』


「二択が極端すぎると思うんだが」


『口答えはなしだ』


「じゃあ……まあ……10歳年下かな」


『10歳年下って6歳、つまり小学1年生だぞ? ……お前正気か?』


「だから質問が正気じゃねえんだよ!」


『では、相手に求める雰囲気は初々しさ? それとも幼さ?』


「…………まあ、強いて言えば初々しい方か?」


『むむ! お前はそっち派か……あれだけ色々言っておいてそっち側か……』


「てめえ……」


『ラスト、相手に求める身体的特徴は瑞々みずみずしさ? それともあどけなさ?』


「…………」


『なるほど……分かる! 分かるぞ! 今のお前の気持ちが!』


「……一応聞いとく」


『回答に困るほど両方捨てがたいってことだろう?』


「ちげえよ。つーかどっち選んでもアレな雰囲気出る質問やめろ」


『何のことだ?』


「最初以外、どっち答えてもイコールじゃねえか」


『だから何を言っている?』


「は? いやだって……え。お前まさか、そんな明確な定義づけができるくらい……いや、もう考えんのやめよ……」


『?』


「あーもう疲れた。次の質問でこの放送やめるぞ。もうお前のやばさは十分伝わっただろ。もうお腹いっぱいだわ」


『よし、どんと来い!』


「これからお前が理想の女性に求める要素を3つ挙げろ」


『普通の質問だな』


「ただし──その理想の女性は二次元でも三次元のどちらでもいい」


『ほう、珍しいな! なかなか趣向を凝らしたいい質問じゃないか』


「だろ? お前向けに質問をちょっとひねってみた」


『ああ──まさか三次元も含めていいとは』


「勝手に逆にひねらないで?」


『念の為、誤解のないように言っておくが、オレが好きなのは妹だぞ?』


「誤解しかないんだよなあ……」


『だが三次元もちゃんとオレのストライクゾーンのぎりぎり内角高めに入っているぞ』


「なんで打ちづらいインハイなんだよ」


『ただし、オレのことをおにーちゃんと──』


「そのまますっぽ抜けてデッドボールになれ……で、3要素は思いついたか?」


『……よし! 3つの要素を挙げるぞ!』


「聞かせてくれ。まずは一つ目」


『妹』


「アウト」


『児童』


「ツーアウト」


『幼女』


「スリーアウト人生終了ゲームセット。次回はおまわりさんの本拠地、取調室に乗り込んでの3連戦を生放送。両者の熱い攻防が期待できるかと」


『……あーそういうことか分かったぞ!』


「は?」


『野球の次の回と次の放送の次回をかけていたんだな!』


「なぞなぞじゃねえ。つかゲームセットだっつってんだろ」


『最終回のサヨナラという劇的幕切れをリスナーは求めているのだぞ!』


「なるほど。というわけで今回の放送が最終回でこれにてサヨナラです」


『いい感じに締めようとしないでくれ! 確かにちょっと上手かったが! このまま終われないんだこっちは!』


「お前はもう終わってるから安心しろ。……まあいいや、実は放送の最後にとっておきのサプライズを用意している」


『ほう! そいつは楽しみだ』


「間違いなく劇的幕切れってやつだ。……もう着いたみたいだな。よし。(スタスタ……)」


『どうした、何のつもりだ? 扉の前に立って』


「と、いうわけで! スペシャルゲストの登場です!(ガチャ)」


『──っ!?』


〈……〉


『……おい。なあ白崎……お前いつから、というかいつの間に……』


「いやー、せっかくなんでー、僕は席を外しますよー。あ、ゲストの方は二宮の向かいにどうぞー」


〈(スタスタ……)〉


「というわけで、楽しんでください──の水入らずで!(ガチャ)」


『……あ、姉貴……ど、どどどうしてここに?』


〈なあに、私の可愛い弟が放送をやっていると聞いて、わざわざゲストに来てやったんじゃないか〉


『そ、そうなのか。し、しかし。もう、放送、終えようかと……』


〈そんなに怯えてどうした? すまんが、放送をちょっとしか聞いていなくてな〉


『へ? そ、そうなのか?』


〈ああ、だから申し訳ないが、どんな話をしていたのか、いまいち話の流れが分かっていないんだ〉


『そ、そうか! ふう……それならもっと早く言ってくれよ!』


〈いやあ、すまないな──、そんな話しか聞いていなくてな〉


『……(ガタガタガタガタッ!)』


〈そんなに震えてどうした? やけに楽しげに話していたみたいじゃないか〉


『……』


〈……陸〉


『……はい』


〈放課後、職員室に来い──そう、白崎に伝えておけ〉


『はい……え?』


〈来ないと痛い目にあうとも付け加えておいてくれ〉


『や、白崎に?』


〈そうだ。しっかりとあいつは叱っておかなきゃならん。そうだろう?〉


『い、いや……そ、そうなんだよ! 白崎が悪いんだよ! 姉貴も分かってくれたんだな──』


〈──お前は夜、私の部屋に来い〉


『……』


〈学校内では、やりすぎると色々問題になるからな。……いいな?〉


『……』


〈返事〉


『……はい』


〈それでは私は午後の授業の準備があるのでこれで失礼する(スタスタ……ガチャ)〉


『……』


「(ガチャ)いやーどうだった? 俺からのビッグサプライズは? 劇的幕切れだっただろ?」


『オレ……』


「ん、どした?」


『オレ、来世は幼い妹がいる家庭に新たに生まれるんだ……』


「いや死ぬなよ。まあ骨だけは拾ってやる」


『じゃあその骨……近所の小学校の校庭に埋めといてくれないか?』


「こええよ……つーか二宮、妹がいる家庭に生まれてやり直すって、お前はそれでいいのか?」


『いいんだよ!』


「そうか……まあお前が望むならいいのか……」


『……何が言いたい?』


「いや、なんつーか……」


『……なんだよ、歯切れ悪いな。思っていることを素直に言ってくれ』


「その、当たり前のことなんだけど……」


『?』


「妹がいる家庭に新たに生まれたら──その瞬間に妹から姉にクラスチェンジするけど?」


『嘘……だろ……』





────────────────


「ヘイ、ブラザー!」

『オレたちの放送を聞いてくれた妹たちよ、恩に着るぞ!』

「ブラザーだっつってんだろ……笑ってくれたらフォロー・評価・コメントでもなんでもいいからよろしく頼むぜ!」

『妹からの反応がおにーちゃんのモチベーションにつながるのだ!』

「やっぱコメディ系は反応がないと不安になるんだよなあ……』

『短編ならまだしも、長編だと永遠にスベり続けるという』

「怖いこと言うなよ……」

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