上級
――上級ハンター資格試験 実技実施日――
実技試験に利用される『ゲート』の前に到着すると、結乃がすでに座っていた。
「おはようございます」
「おはよう、結乃」
周囲には子供の気配はなく、大人ばかりだった。
「俺たち、目立つな」
「そうですね」
〈時間になりましたので、上級ハンター資格の実技試験について軽く説明します〉
そう言って俺たちの前に一人の男が出てきた。
〈私はハンター協会の田丸真司という者です。本日は、皆さんに上級ハンターにふさわしい人物かどうかを判定するために来ました。本試験の内容については口頭で説明することはほとんどいたしません。登録されているメールに試験の詳細情報を送りますので、各自確認してください。それでは、12分後に実技を開始します。開始と同時にメールは削除されるので、ご注意ください〉
周囲の大人たちがスマホを手に取り確認を始めたのを見て、俺もメールを確認した。
[上級ハンター資格 実技試験について]
本日、実技試験に使用しているのはA級のゲートです。
・合格の基準
1 期間終了まで、リタイアせずゲート内部にいたもの。(期間は約2日)
2 ゲート内のボスを倒した者
・失格の基準
1 ゲート内で一度もモンスターと交戦をしていない者
2 同じ受験者を攻撃した者
3 一度でもゲートの外に出る。又はリタイアを宣言した者
4 本試験で配布されるスマホを破壊、紛失した場合
5 本試験のサポートとして参加しているハンターを攻撃、又は指示に従わなかった場合
試験が開始する10分前に、試験に必要なアイテムを配布します。(2日分の食料なども)
試験用のスマホは、試験中皆さんの位置や、状態を確認するために用いられるので、決して破壊したり、手放さないでください。
試験中、命の危険があると判断された場合、本人の意思関係なく、近くにいるハンターがゲート内から連れ出します。
「まあ、ルール違反で失格ってことにはならなそうだな」
試験の詳細情報を読み終えたと同時に、田丸が声を出す。
〈試験開始10分前になったので、2日分の食料と武器を持参していない方への武器の支給をします。それと試験では専用のスマホのみ使用可能となっているので、私物のスマホや試験とは関係のない物はこちらが責任をもって預かります。尚、試験開始以降、関係のない物などを発見し次第減点、或いは失格にする場合があります〉
その後、俺と結乃は食料と専用のスマホを受け取り、不備が無いか確認をしていた。
「東雲君、スマホの機能についてわかりますか?」
「流石に大丈夫だ」
試験用のため、アプリはカメラ、メール、時計、そしてよくわからないアイコン…。
「何これ」
「それは緊急時に使用するらしいですよ。アイコンをタップするだけで、近くのハンターがすぐに駆け付けてくれるらしいです。使用すればリタイア判定なので合格はできません」
「へぇー」
スマホを閉じて、結乃を見ると彼女の視線は俺の刀へと向いていた。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ、その刀…優さんと同じですね」
「…この刀は昔、師匠が俺と優のために買ったんだ」
「…それで、なぜ東雲君は今日その刀を持ってきたんですか?確かにこの試験は東雲君にとって重要なものであることは理解できます。ですが、違和感を感じます」
「ん?昨日、結乃と別れた後すぐに一人の女性と会ってな。その時にこの刀を試験に持っていくように言われたんだ。理由はわからないけど、どこか真剣だった気がしたから持ってきた。名前は…確か柊――」
「――柊…」
「?」
俺の質問に結乃は考える仕草を見せる。
「その人、どこか不思議な感じはしませんでしたか?」
「確かに、初対面のはずなのに妙に親しく接してきた印象がある」
「もしかするとその人は十二天の一つ、柊家の人かもしれません」
「え?マジか」
「…あの、もしかして東雲君、十二天…把握していませんか?」
「……すんません。天宮と風見、彩霞、東雲、そして今聞いた柊しか知らないっす」
「残り7つは、『
「へぇ…え?佐野?」
頭にミチ婆や亜優さんの姿が浮かぶ。
確か二人とも血が繋がってて、苗字が佐野だったような気が…
「その話はまた次の機会にして、まずはこの試験に集中しましょう」
結乃の言葉で俺は頭を切り替える。
「特に作戦はありませんが、今回の試験中は常に二人で行動しましょう。試験に一人じゃないといけない、というルールはないので大丈夫でしょう。というより周りを見てください」
俺たちの周囲には、大人たちが話し合っている姿がある。
一人になっている大人がいないところを見るに、すべての人がチームを作り終えているのだろう。
そして、そんな状況の中俺たちに話しかけてくる大人が一人もいないとなると…
「俺たち子供は足手纏いってことか」
「そういうことでしょうね。彼らも上級になるために必死ですから」
A級ゲートは昔、数回だけ攻略したことがある。
まあ、攻略といってもほぼ師匠一人しか戦っていなかった。
それでも、ある程度のモンスターの強さは把握している。
俺と結乃が力を合わせればある程度モンスターの対処は可能だから、正直大人は居ても居なくても大きな差にはならないはずだ。
〈それでは、もうすぐ時間になります。受験者の皆さんはゲート前に集合してください〉
周囲の大人たちとともに、俺と結乃はゲートの前まで移動する。
〈直前になりましたが、今回の試験のサポーターとして超級ハンター8名が先にゲートに入っています。しかし、皆さんも知っての通りこの試験は過去に何人も死者を出しています。変なプライドは捨てて命大事にしてください。あと、合格基準に達した人には、スマホにメールが届くと思うので確認し次第ゲートから出てきてください。それでは、時間になったので試験を開始します〉
田丸がそう言うと同時に、先頭に立っていた大人がゲートに入っていった。
それに続いて、他の大人たちがゲートへ足を踏み入れていく。
「よし、行こうか」
「はい」
俺は深呼吸をし、結乃とともにゲートへ潜った。
――楠乃視点――
「おはよー」
力の抜けた挨拶をしながら、田丸真司に目を向ける。
「はぁ、久しぶりだな直人」
「真司、だいぶ老けたな」
「ハンター協会の仕事が忙しくてな。英雄育成専門学校の教師だっけ?楽そうでいいよな」
「舐めんな、クソ忙しいわ」
「嘘つけ。お前のサボりっぷり、他の先生から聞いたよ。てっきり、テキトーな授業ばっかしてると思っていたが…まさか受け持ってるクラスの生徒の推薦人になってまで上級ハンターを誕生させる情熱があったなんてな」
彼の回答からして、俺が提出した書類に目を通したのだろう。
「それ見たってことは…」
「ああ、あの賀茂代表が推薦とはねぇ。本人緊張してるだろ?」
「いいや、伝えてないから知らないだろうな」
「マジかよ。でも、その選択は正しいのかもな」
真司はポケットから飴玉を取り出し、口に入れる。
「まあ、今回は思った以上に受験者が少ないし、超級ハンターは8人も来てくれるしで過去一安全な試験になっているから、心配はいらないんじゃないか?」
「そうだといいがな」
何気ない会話をしていると、遠くから一人の男が走ってきた。
「なんだあれ?」
「あれは…は?」
真司は困ったような表情で、男に話しかける。
「どうしたんだ?君は受験者のサポートを任せていたはず…」
「緊急事態です。試験を中止してください」
「…」
男の表情からして、嘘偽りないと気づいた瞬間、俺と真司の雰囲気は一変し、緊張が走った。
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