2章 継がれる意思
何度でも
「お兄…その顔…どうしたの?」
朝、酷い眠気に襲われながら朝食を作り食べていると、妹の舞花が心配そうに聞いてくる。
「俺の顔…ヤバイ?」
「うん。死にそうな顔してる」
「まあ、今日の試験のためにほぼ寝てないからな」
昨日、俺はクラス対抗戦にて個人TOP3に入ることができ、無事に推薦人が3人となった…らしい。
帰宅後、念の為に楠乃先生に提出するものはないかと聞いたところ、先生が全てやったとのこと。
ただ不気味な点がある。
(俺、推薦者あと一人知らないんだけど…)
本当ならクラス対抗戦でTOP3を取った後に、推薦人になってもらう予定の人に連絡するはずだった。
しかし、試験日が翌日ということもあって連絡を取り忘れていた。
だったら3人目は誰なんだ?
今は考えても仕方ない。
今度、楠乃先生に会ったら聞いてみよう。
「兄ちゃん、試験頑張って」
「応援してる!」
弟と妹の応援を受け、心が温かくなった俺は二人へ笑顔で言う。
「ありがとう、合格祝い楽しみに待ってろよ」
◇
「って、気合入れてきたんだけど…。どういうことなんだ…結乃」
「はい?」
試験会場に到着すると、結乃と出会った。
なぜ彼女がここにいるのか。
いや、聞くまでもない。
ここは試験会場、いる理由はただ一つ。
「……まさか、試験受けるのか?」
「はい、東雲君が受けると聞いたので、ついでに受けようかと」
「紗優が上級の資格持ってるから、てっきり結乃も持ってると思っていたんだけど…」
「持ってませんよ。私はハンターに興味はなかったので」
結乃はこちらを見ているが、その目はどこか違う場所を見ているように感じた。
初めて出会った時も、どこか危うい感じのする人だとは思っていた。
この際、少し踏み込んでみようと思い口を開く。
「結乃って、何か悩み事でもあるのか?」
「…?」
「いや、無いなら――」
「――どうして、そう思ったんですか?」
「え?」
予想以上に結乃が食いついてきたことに、少し驚いた。
「えーっと、雰囲気?なんとなくなんだ」
「なんとなくですか。実は悩みはあります」
「あるんだ」
「実は……少し太りました」
「……」
「……」
俺も結乃も見つめ合ったまま、時が止まったかのような静寂が訪れた。
どう反応すれば良いのか微妙にわからない質問はやめてくれ、と心の中でツッコんだ。
「……試験、受けよっか」
「……」
こうして俺たちは筆記試験に挑んだ。
〈筆記試験の結果〉
※ 300点満点 260以上で合格
[受験番号] [名前] [点数] [合否]
001 ……
……
004 天宮結乃 290 合格
……
……
018 東雲凪 265 合格
……
……
◇
筆記試験が終了し1時間が経過した頃、メールにて点数と合否が発表された。
「あ…あぶねぇ…」
「そうですね」
「結乃はすごいな290って、ほぼ満点じゃん」
「すごくはないですよ。紗優は満点でしたから」
「マジかよ」
ギリギリとは言え、無事に筆記は合格できた。
あとは、実技試験をクリアすれば上級ハンターの仲間入りだ。
「東雲君、ハンター資格は、なぜ上の級になればなるほど難しくなると思いますか?」
唐突に結乃が聞いてくる。
「…筆記が難しいって、ネットでもいろんな人が言ってたな」
「それもあります。私たちが受けた上級の筆記はかなり難しい部類に入ります」
小さい頃から師匠に連れられて、よく『ゲート』へ潜っていた。
師匠は隙あらばゲートの知識やモンスターについてを話していたため、俺も優もそこらの冒険者よりも詳しい自信がある。
俺が短期間の勉強で合格できた大きな要因だ。
「正解を言いますね。実技試験の難易度が一気に跳ね上がるんです。中級までの実技は、合格率が約30%なのに対して、上級の実技試験の合格率は毎年1桁です」
毎年1桁、1年間にどれほどの人が試験を受けているかは知らないが、100人受けたと仮定しても、合格者は10人以下だ。
これは決して簡単とは言えない。
「それが明日ね…。もちろん、結乃は試験内容を知ってるんだよな」
「もちろんです。自分の受ける試験の内容ぐらいは、覚えるのが普通ですから」
「ぐっ」
結乃の言葉が俺の胸に刺さった。
「結乃さん…教えてほしいです」
「…わかりました。明日私たちが受ける実技は、毎年同じ内容で実施されています」
「毎年同じ?」
「はい。もちろん『ゲート』自体は毎回違いますけど、試験の合格基準やルールなどは変更がありません」
「へぇ…」
「そして、実技の最終目的…合格基準は、期間終了後までリタイアせずにゲート内で過ごすことです」
「ん?」
結乃の説明からして、おそらく上級の実技は1日じゃ終わらないような気がするのだが…
「もしかして東雲君…上級の試験、一日で終わると思っていましたか?」
「…正直、思ってた」
「明日から約2日間、私たちは『ゲート』の中で過ごすことになります」
「マジか…。時雨と舞花、大丈夫か…」
「そこは大丈夫です。堂島さんに時雨君と舞花ちゃんのお世話をお願いしているので」
「……堂島さん、優秀だね…」
以前、結乃に天宮本家に連れていかれた時、時雨と舞花のお世話をしてくれた天宮家のメイドである堂島さん。
堂島さんの見た目はインパクトが強いため、最初は不安だったが、時雨も舞花も最終的に懐いていたし、大丈夫だろう。
「私はこの後用事があるので早めに帰りますね」
「ああ、また明日」
歩き去る結乃を見届け、振り返ると一人の小柄な人とぶつかってしまった。
「おっと!」
ぶつかった相手の体勢がよろついていたため、手を掴み姿勢を安定させた。
「ごめん、大丈夫だったか?」
「はい、私は大丈夫です」
綺麗な水色の髪と、すべてを見透かすような紫色の瞳を持つ女性だった。
肌は真っ白で、神秘的な雰囲気を身に纏っている。
「ん?どうかなさいましたか?」
「…いや、綺麗な人だなって…」
「ふふっ、お上手ですね。ナンパというやつですか?」
「ナンパ…」
「ここで出会ったのも何かの縁、私
「!?」
自身の名前を呼ばれた瞬間、体が硬直した。
なぜ初対面の彼女が俺の名前を知っている?
「あ、すいません。私の悪い癖なんです。凪君が名前を言うまで待ったほうがよかったですね」
「……柊さん、一体…」
「詩奈でいいですよ。お互い堅苦しいのはなしです。今日は、あまり長くお喋りはできないので、大事な事を二つだけ伝えますね。信じるも信じないもあなた次第です」
「……」
「明日の実技試験は、あなたの大事な刀をお持ちください。そして、もう一つは私が手を貸せるのはあと2回です」
「……」
まったく意味が分からない。
大事な刀?手を貸せるのはあと2回?
頭が混乱してきた。
「それでは、私はこれで」
「ちょっと待て」と言おうとしたが、情報の処理が間に合っていなかった俺は、声が出なかった。
ようやく情報の整理がついた時には、詩奈は歩き去った後だった。
望美香といい、柊詩奈といい最近不気味な人物に絡まれる。
それよりも――
「大事な刀…か」
柊詩奈は、時雨や舞花ですら知らないあの刀の事を知っていた。
「一体何なんだ」
軽い頭痛とともに、帰路についた。
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