偽装
「お先に逃げた2人はもちろん、あなたも逃がす気はありませんよ」
「…え?」
天宮紗優を見ていて、ふととあることに気づく。
(そういうことだったのか、え?じゃあこれもしかして…)
俺は肩の力を抜き、その場に棒立ちする。
すこしカッコつけたセリフを吐いた後のため、多少恥ずかしかったがポーカーフェイスを貫く。
「篠原さん、榊原君、一緒に攻めましょう。彼は『祝福』を持っているとのことなので、決して油断はしないようにしてください」
「了解」
「わかった」
紗優は榊原と篠原を連れて俺に近づいてくる。
そしてある程度、距離が縮まると紗優は剣と銃をそれぞれの手に持つ。
「ところで…」
俺が少し大きめの声を放つと、篠原と榊原が武器を構え警戒を強める。
その様子を見つつ、紗優に言う。
「この茶番、いつまで続く?」
「「?」」
俺の発言の内容が分からない様子の篠原と榊原は、困惑の表情を浮かべたまま紗優へ視線を向ける。
その瞬間――
「安心してください。茶番はもうお終いです」
紗優は篠原へ剣を振り、榊原にはゼロ距離で銃を撃つ。
流石に障壁が他の武器に比べて銃に強い特性があったとしても、ゼロ距離で食らってしまえば関係がない。
二人の障壁は同時に破壊された。
「な…んで?」
「どういうことなんだ?」
障壁を破壊された現実を呑み込むことができていない二人は、そのまま転移の光によって消えていく。
1組の残った生徒は全員、天宮紗優を見ていた。
そして紗優…いや、紗優のフリをしていた彼女は俺の隣に立つ。
「すいません、賭けに出てしまいました」
「いいや、良い判断だと思うよ、結乃」
「気づいてくれてよかったです。東雲君が気づいてくれなかったら、そのまま敵になっていたかもしれません」
「怖いなそれ(すいません、最初は普通に紗優さんと思ってました)」
俺のたちの会話により明らかにされた衝撃の事実により、1組の生徒たちはさらなる混乱に陥る。
「どういうこと?え?あれは紗優さんじゃないの?」
「じゃあ、本物は?」
「私が知るわけないじゃない!」
「みんな落ち着け!」
混乱する1組の中で、一人の男子生徒が前へ出て言い放った。
「相手は二人…たとえ篠原と榊原…紗優さんがいなくても数で優勢だ。これ以上2組にポイントを渡すわけにはいかない。皆近接が得意なものは前へ出て、支援が得意なものは障壁を割られないように立ち回りながらサポートに回ってくれ」
気づけば1組のほとんどの生徒が、落ち着きを取り戻し武器を構えこちらを見てくる。
堂々とした態度や周囲の1組の反応からして、彼はサブリーダー的な男子なのだろう。
「結乃、どうする?」
「今1組全体に指示をしているのは茅場君です。彼を倒せば1組の連携は崩壊するでしょう。最も注意すべきだった榊原さんと篠原さんを最初に脱落させたのは、ラッキーでした」
「狙うは茅場ってことか。それと明石と長石逃がしちゃったんだけど…大丈夫か?」
「あの二人は呼び戻さない方がいいです」
「なぜ?」
「それはすぐにわかりますよ」
結乃の言葉に疑問を持ったとほぼ同時だった。
正面の1組の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ここまでの行動力が結乃にあったなんて、びっくりです」
現れたのは本物の天宮紗優だった。
「ここにきてようやく全クラス集合って感じかな?」
さらに追い打ちのように俺たちの背後から現れたのは、彩霞率いる残りの3組。
「うっそ…」
まさか3組までこのタイミングで現れるとは思っていなかった。
しかも最悪なことに1、3組は俺たちを囲むように立っている。
流石に結乃がいたとしても、障壁を守りつつ逃げることは不可能に近いだろう。
「うーん…私からの提案なんだけどさ。それぞれのクラスのリーダーで戦わない?3組はリーダーいないから私が出るね」
彩霞がそう提案すると、この場にいた全員の視線が彼女へ向けられる。
それもそのはず、彩霞の提案で最もメリットがあるのは間違いなく2組で、1、3組にメリットは存在しない。
「それは1組にメリットがありません。唯も理解しているでしょう?」
紗優が首を傾げながら意見する。
「そこは大丈夫だと思うよ。あくまでリーダーどうし戦うだけで、その他の生徒は自由に戦ってていいよ」
「………」
紗優は考える素振りを見せる。
「もしかして、紗優ちゃん私に負けるのが怖かったりする?」
「はい?」
紗優の声はいつも通りだったが、雰囲気が一変した。
「彩霞さんの思い通りになりそうです」
小さく結乃がそう言うと、紗優が口を開く。
「わかりました。クラスのリーダーどうしで、勝負をつけましょうか」
「紗優は意外と好戦的なので、相手が同等か格下であると判断していれば、ほぼ100%でああいう提案にはのってきます」
紗優の意外な一面を知って少し驚いた…いや、そこまで以外でもないか。
「それでは私はリーダーとして戦います」
「勝てそうか?」
「少し厳しいですね。今のところクラスポイントで2組はダントツで1位を走っています。彩霞さんも紗優もそれは理解しています。おそらく、二人とも私の隙を常に意識するでしょう」
確かに結乃が勝つことは相当厳しい。
勝てれば2組の優勝はほぼ確定…。
負ければクラスポイントが大幅に下がるだけでなく、俺の個人ランキングTOP3も危なくなるだろう。
「だから東雲君。できるだけ、他クラスの生徒を削ってください」
「わかった」
常に最悪な状況を考えて行動するなら、−5pされても大丈夫なように最低2人は倒さないといけない。
「3組はもちろん彩霞さんだとして…2組は結乃でいいんですね?」
「もちろんです」
紗優と彩霞の元まで歩いていく結乃を見届け、俺は残りの1組と3組を見る。
3組の残りの生徒についての情報はある程度あるが、1組に関してはまったく知らない。
結乃が言っていた危険人物ももういないから…ここからは戦って情報を集めるしかないな。
「じゃあ、リーダーたち決着を待つ間、私たちは削り合いといきましょう」
3組の北川の言葉と共に、1組と3組の全員が武器を構える。
この場にいる2組は俺のみ、そして1組と3組は現状トップの2組を落とすという共通の目的がある以上、難易度はハードなんてものじゃない。
[残り時間が半分となったため、追加ルールを設けます。現在ポイントを保有している生徒を倒した場合、そのポイントの半分を倒した生徒へ付与します。障壁を破壊した際のポイントである2pについては変更はありません]
あ、これマズイ理解した瞬間、周囲から多くの視線が俺に向けられていることに気づく。
今この場所で最もポイントを持っている人間は俺。
そして、唯一の2組の生徒として孤立しているのも俺。
「すまん結乃、これは無理だ」
俺は全力で逃げた。
後ろから1組と3組全員が追ってくる。
1組は紗優の指示をちゃんと守っていた様子だったため、個人ランキングに興味はあまり無い印象を受けたのだが、気のせいだったらしい。
「すいません」
右耳に突如聞き覚えのある声が聞こえたと思った瞬間、物凄い力で俺はどこかへ押し飛ばされた。
「ぐっ!」
まさか不意打ちを食らうとは思っていなかった。
でも障壁が割れていないところを見るに、俺を飛ばした人間の目的は障壁を壊すことでは無いのだろう。
着地後すぐに動けるように空中で体勢を整える。
「っと」
無事に着地した直後、俺は周囲を確認する。
(今のは誰の仕業…いや、思い出した。あの声の人物を俺は知っている)
正面からこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
俺はその方向に向けて言った。
「まさか白井さんがそんな積極的だとは思いませんでしたよ」
姿を見せたのは、天宮家のメイドであり、紗優と結乃の護衛を任せられている白井里香さんだった。
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