ラスボス
――凪視点――
「え…な、んで」
彩霞は震える声でつぶやく。
その間に俺は自分の障壁コアをポケットから取り出し、通知画面を確認する。
[3組の風見辰馬の障壁コアの破壊を確認]
風見の障壁コアの破壊の通知を確認すると、空中から声が聞こえた。
[3組のリーダー、風見辰馬君の障壁コアの破壊を確認しました。破壊者は2組、東雲凪。よって2組へ10p、3組へ-5ポイント加算されます。同時に、リーダーが一人減ったため、制限時間を追加します。制限時間についてはリーダー用の障壁コアに表示していますので、活用してください]
リーダー用の障壁コアにのみ、制限時間を表示するとはずいぶん鬼畜な設定だ。
リーダーが倒されたクラスは、他クラスから情報を集めたりしない限り制限時間を把握できない。
時間が確認できない不安は焦りへつながるだろう。
「まさかよりにもよって、君が美香ちゃんに…」
彩霞が何か言っているようだが、よく聞こえない。
(考え事してるのか?)
チャンスと思い逃げるため動こうとした時、彩霞に話しかけられた。
「どこ行くの?辰馬を倒したとしても、まだ私がいるよ?」
「ダヨネ」
これはもう本当にシャレにならない。
俺が打てる手をすべてうち、動揺や驚愕を誘い反応を鈍らせ、尚且つ美香の気まぐれでようやく風見一人を倒せた。
唯一俺が同年代の中で特出している対人戦と実戦の経験値を最大限活かしてこの結果なら、今の彩霞一人相手にでも確実に負ける。
彩霞は剣を持ち、こちらをじっと見ている。
(俺の現在の所持ポイントは14pあるはず。ここで負けてもTOP3に入る確率は決して0ではない…か)
「考えごとはさせないよ!」
「!?」
瞬きした瞬間を狙い、彩霞が仕掛けてくる。
ギリギリで反応できたが、咄嗟に防御したため衝撃はいなせない。
数メートル後ろへ飛ばされた俺は、自身の手を見る。
(手負いの獣が一番危険って聞いたことあるけど、初めて実感したわ)
彩霞の力は比較にならないほど強くなっている。
たとえ身体強化していたとしても、あの年の女子が出せていい力じゃない。
だが最初ほど動きにキレがない。
(かといって確実に倒せる自信は…ないな)
援軍を呼ばれる可能性を考えれば、逃げるのが最善。
というより逃げないと障壁を壊される。
決断と同時に全力で彩霞から離れるために走る。
彩霞は最初は追ってくる雰囲気があったが、障壁コアを手に取り何かを確認すると、俺とは別方向へ移動を始めた。
(とりあえず、やられずに済んだでいいのか?)
ある程度離れたことを確認し、その場に座り込む。
「めっちゃ疲れた…」
すぐに障壁コアの通知画面を確認する。
[3組の新田晴馬の障壁コアの破壊を確認]
[2組の藤本繭の障壁コアの破壊を確認]
[2組の高山英子の障壁コアの破壊を確認]
[3組の渡辺公一、朝日健司の障壁コアの破壊を確認]
[2組の鍵谷鷹の障壁コアの破壊を確認]
風見や彩霞たちがいた場所にハルがいなかった理由がようやくわかった。
一人でずっと結乃たちを監視していたんだろう。
ハルは気配を消すのが上手いから、偵察とかに向いてる。
問題は、2組と3組がかなり消耗した今、1組はほぼダメージがないという点だな。
今や2組と3組の合計人数より多い1組の動向が気になる。
誰かいてくれたら…。
そう思っていると、近くから物音がする。
刀に手を伸ばし、冷静に音の鳴る方を注視する。
(勘弁してくれ…まだ十分回復していないぞ?)
せめて1組じゃないように、と祈っていると――
「東雲…君?」
「長石?」
「よかった、無事そうだね」
現れたのは長石と明石だった。
「二人?結乃はどうしたんだ?」
「え?東雲君と一緒じゃないの?」
俺の言葉に明石も長石も驚いていた。
「まず、そっちに何があったか聞かせてくれるか?」
長石と明石は今までの事を話してくれる。
俺の投げた木がラッキーヒットし退場した新田晴馬のことや、鍵谷が一人で3組の2人を相手し勝っただとか。
結乃が俺と合流しようとしていたとか。
結乃の『合成』で作った煙幕で3組から逃げきったことなど。
「次は東雲君の番だよ」
「ああ、こっちはそんな報告することもないけど…。風見と彩霞の二人を相手して、リーダーの風見を倒せた」
「え!?やっぱり東雲くんが風見さんを…」
「あの二人を相手にして障壁が壊されていない時点で十分すごいけど…まさか風見を倒してしまうか。僕はてっきりアナウンスのミスかと思っていたよ」
空中から聞こえていた声で、風見の障壁コアが俺によって壊されたと報告されていたのだが、半信半疑だったようだ。
「まあ運がよかったとしか言いようがないけどな。風見や彩霞がもう少し実践経験があって、尚且つ常に冷静さを維持されてたら負けていた。それより、なんでこの場所に来たんだ?俺が見えたとか?」
俺の質問に明石が少し悩みながら答える。
「それが…ここを目指せって天宮さんに言われたんだ」
「結乃が?俺たちが今いるここをか?」
「そうだね。ここは1組の転移場所からそう遠くないから、安全とは言えない場所だ。でも、天宮さんがそれをわかっていなかった、というのはあり得ないと思ってね」
結乃、まさかまだ作戦があるのか?
「とりあえず、俺はもう少し休みたい」
「私も少し休みたい、かな」
「僕も賛成だよ」
3人はそれぞれ木を背もたれにして座る。
「あぁ、そうだ。3組の残りの人について情報はあるかな?」
「んー、俺は彩霞と風見以外とはほとんど戦っていないからな」
「それなら3組の残りの人物についての情報を共有しようか」
明石の情報によると、残りの3組は彩霞と北川政、月山広幸、沼津健二の4人。
北川は基本的に戦闘せずに後方で指示を出していたという。
明石曰く北川の指示は的確で、いるだけで立ち回りで不利になりやすいとのこと。
月山は身体能力が高く、沼津は遠距離攻撃が厄介らしい。
「だいたい理解……。明石、長石…」
「ん?」
「どうした?」
俺の頬を汗が流れる。
「最悪なことになったぞ」
立ち上がり、刀を握り占める。
それにつられて、長石と明石も武器を握る。
「どういうことかな?東雲君」
「人が来る。数は9」
「9?そんな人数……まさか…」
「ああ…まあ予想通りでもあったかな」
やがて複数の足音が聞こえ始め、人影が見えた。
現在の対抗戦で9人という規模の人数を率いることのできる組は一つしかない。
「東雲君と2組の明石さん、長石さんじゃないですか。奇遇ですね」
見た目も声も結乃と同じ。
そんな人物はこの学校、いやこの世界で一人だけしかいない。
「天宮紗優」
紗優を先頭に、その背後には1組の全生徒がいる。
「明石、長石…二人で逃げてくれ」
「……勝てる?東雲君」
「あの
「でも…」
「長石さん。ここは東雲の言う通りにしよう」
「…わかりました」
二人ともこの状況で何が最善か理解したようだ。
「東雲、ありがとう。今度ご飯でも奢るよ」
「あぁ、取り消しはなしだからな」
「もちろん」
明石は短く返事をすると、長石とともに走り去った。
その間、1組に動きはなかった。
逃しても問題はないのか、それとも余裕を観戦しているお偉いさん方にでも見せつけているのか。
二人の姿が見えなくなった後、刀を鞘から抜き天宮紗優へと向け言い放つ。
「それじゃ1組、足止めさせてもらう」
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