卑怯
――凪視点――
「はっ!」
彩霞が素早く距離を詰めてきて、回転斬りを仕掛けてくる。
それをバックステップで回避し、反撃をしようとするが…
「!?」
彩霞は体の回転を利用し、素早く強力な突きを放ってきたため反撃を諦め、再び距離を取った。
「やっぱり、バレてるんだ」
「流石、本物の彩霞流は迫力が違うな」
師匠は昔から技術を身に着けることが好きで、剣や刀だけではなく、弓や銃など様々な武器種の流派を学んでいたらしい。
俺と優もそんな師匠の影響を受けて、刀以外の武器もある程度使いこなせるし、知識もある。
彩霞流で警戒しないといけない技は二つ。
少し卑怯かもしれないけど、これは真剣勝負じゃない。
結乃特製の銃の残弾数は2発。
「え?」
彩霞に銃口を向けた時、彩霞の驚いた表情と視線が俺に向けられる。
一瞬迷ったが、覚悟を決めて引き金を引いた。
「ちょっ!?銃!?」
比較的近くにいた彩霞の障壁は割れてもおかしくはない。
おかしくはなかったのだ。
「嘘だろ…」
驚きのあまり声を漏らしてしまった。
彩霞の周囲に障壁はなく、無傷だった。
「東雲君って、油断しちゃいけないタイプだね。本当はちょっとムッときちゃったけど、私の技が試せたから許すね」
彩霞の周囲にはオーラのようなものが見える。
「そりゃ剣気使えるよな」
口では予想通り、みたいな雰囲気を出しているが実際のところ焦っている。
剣気、人によっては闘気や気なんて言い方をする。
定義がはっきりしていないため、専門家などが身体強化は魔力だ!いや、闘気だ!など、言い争うことが多い。
「びっくりした?私こう見えて天才、なんだよ」
胸を張り誇らしげにする彩霞から視線を外し、周囲を見る。
いつの間にか風見の姿がない。
この場から逃げるとは考えにくい。
そうなると、俺の銃を警戒して隠れながら隙を伺っていると考えるのが妥当だ。
それともう一つ、気になることがある。
ハルの姿を見ていないという点だ。
先程、風見の罠にはまって3組生徒に囲まれているとき、ハルの姿はなかった。
あの場にいなかったのは1、2人ぐらいだ。
そんな少数で何をしているのか……まあ、確実に俺たちが不利になることだろうな。
「どう?投降する気はある?私もいろんな手、使っちゃうよ?」
「それより彩霞さんに訊きたいことがある」
「時間稼ぎかな?でも、いいよ。今は余裕があるから」
なんだこの頭花畑は、と心の中でツッコむ。
「一つ気になっていたんだけど、俺が祝福を持っているって知ってるか?」
「うん、ハル君に聞いたよ。私もびっくりしちゃった。六谷君並みに動けるとかすごいね。辰馬が手こずるほどとは思わなかったよ」
「そうか。ところで、なぜ最初から二人は一緒に行動していなかった?あと、どうして彩霞は2組の転移位置の方から来たのかな?」
「…それは、別、に気分だし。2組の転移場所の方から来たのは、たまたま…だよ」
あ、この子嘘苦手なタイプだ。
そうとわかれば後は簡単。
さあ、風見…姿を見せないとこの子が全部俺に情報をくれるぞ。
完全に悪役の笑みを浮かべて、彩霞に話かける。
「そういえば、俺の情報を提供した親友…新田晴馬の姿が見えなかったな」
「3組の作戦に関わることだから教えられないよ?」
彩霞は自身満々に答える。
なぜ彼女が自身満々なのか、俺には全くわからないが…
(そうか、作戦ね)
いまだに風見は動かない。
いつでも銃を撃てるように、脳内で最短の動きをイメージする。
「そうかそうか。もしかして晴馬って、すでに俺以外の2組を見つけちゃってたり」
「そ、んなことは、ないよ」
今ので確信した。
これは結乃たちが危ない。
この森で奇襲を仕掛けられたら、いくら明石や長石たちが強くても全滅の可能性がある。
咄嗟に近くにあった木を数本切り裂く。
「ん?んん?何をしてるの?」
彩霞が不思議そうに俺の方を見てくる。
特に攻撃を仕掛けてくる様子はなく、好奇心が働いてくれているようだ。
そして切った木を両手で持ちあげる。
「ふぅぅ!」
そして全力で結乃たちがいるであろう場所へ投げつける。
「へ?」
「は?」
姿の見えない風見の間の抜けたような声が聞こえたような気がするが気にしない。
(一本じゃ足りないよな)
二本目…三本目と、次々木を投げ飛ばしていく。
四本目まで投げ終わり、彩霞の方を向くと彼女は呆然と俺を見ていた。
「俺を倒さないといけないんじゃないのか?」
「…ハッ!そうだね!」
彩霞は慌てて剣を構える。
この戦闘で最も警戒すべきなのは、風見の弓だ。
もちろん彩霞の剣が危険じゃないわけじゃない。
一撃でも食らえば俺の障壁はお陀仏だ。
(ん?障壁が破壊される…。そうか…二人相手に戦ってもまず勝ち目はない。思い出せ、戦闘じゃ卑怯な奴が盤面をひっくり返すんだろ)
自分に言い聞かせた直後、右の樹の上からかすかに音がしたため前進し、彩霞に一気に近づく。
そして――
(彩霞流『
彩霞流の最難関とされる技で、彩霞流の奥義技といっても過言じゃない『幻失秘刀』を披露する。
「えっ!?」
予想通り彩霞は驚いた。
おかげで、彼女の動きが一瞬だけ遅くなる。
でも、その一瞬で十分だ。
『幻失秘刀』特有の予測困難な突きが彩霞を貫きそうになった瞬間、背後から気配を感じた。
「やっぱり、ヒーロー気質の奴は読みやすい」
気合で地面を強く踏み込み、バックステップする。
そして、気配を感じた方向にある木の上に視線を向けると風見が弓を構えている姿が見えた。
すぐさま風見の乗る木を切る。
倒れる木の上で、風見は他の木へ飛び移ろうとしていた。
そこに結乃特製の銃を撃つ。
「なっ」
射撃に気を取られた風見は地面に倒れた。
こんな絶好の機会を逃すわけにはいかない。
ポケットからある物を取りだし左手に握り、開いた片手で刀を風見に振り下ろす。
「させない!」
「ぐっ!」
距離はかなり離れていたはずなのに、気づけば正面に彩霞がいて俺の障壁は破壊されていた。
「くそっ!」
予測はしていたが、対策はしていなかった。
いや、対策できるようなものじゃなかった。
風見と彩霞の二人を相手にしている時点で、それはわかりきっていた。
「ナイス唯」
「辰馬もね」
二人は正面でハイタッチをしている。
そして、風見がこちらに近づいてくる。
「いい戦いだった。ごめん、東雲。お前の事、噂だけで決めつけていた部分があったんだ」
なんかいい物語にして終わらせようとしている風見に言う。
「謝るのは俺の方だよ、風見。俺は卑怯な奴だ」
俺は左手を目立つように動かしながら壊れた障壁コアを落とす。
落ちていく障壁コアにうまく二人の意識を向けさせたと同時に、風見へ全力で刀を振り抜き障壁を破壊した。
※ 備考
彩霞流や出雲流など、剣術によって動きはかなり変わってくる。
流派によっては剣気を応用し、斬撃やライトセーバー的なものを出したりする技があるという。
※ 剣気
人によっては闘気や気など様々な呼び方をする。
学園の授業にて剣気の習得は1年後半からとなるので、現時点で使える1年生は少ない。
剣気は魔力がない者には扱えないとされているため、一部では魔力が属性魔法のように性質を変化させた姿の一つが剣気じゃないのかと、言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます