接敵
――凪視点――
おかしい。と心の中で思いながら走り続けていた。
もうすぐ森林を抜け無人街に着くというのに、美香以外誰とも会わない。
一度足を止め、近くにある周囲より少し高い木に登る。
すると、人影らしきものが視界に入る。
「ようやく3組か?」
極力音を立てずに、人影を見た地点へ移動する。
「パッと見2組の連中はいないな」
「そうだな。もしかすると2組の奴ら1組方面へ攻めに行ったんじゃないか?」
「まさかまさか、2組に強いやつとかいたっけ?」
「んー、実際見たわけじゃないけど明石は60、長石は70越える魔力量だったらしいぞ?」
「へぇー。あ、そういや聞いたわ。噂になってたもんな」
3組の男子二人が喋りながら歩いている姿を発見した。
周囲を見渡すが待ち伏せや囮の可能性は低いように感じる。
(どうする?今攻めるべきか?)
最悪なことにこの場所は無人街からとても近い。
もう少し無人街エリアから離れてくれれば躊躇なく奇襲できた。
もしそう離れていない場所に援軍がいたら、勝算は薄くなる。
自身が来た道を振り返るが、結乃たちが追いつきそうな気配はない。
(いや…弱気になるな俺)
刀を握り覚悟を決めた瞬間、二人に向かって走った。
「っ!?おい!後ろ!!」
「え?」
片方の男子生徒には気づかれ回避されたが、もう片方の生徒の障壁を割ることに成功した。
[3組の吉田健司の障壁コアの破壊を確認]
障壁コアの通知を確認し、片方の男子に目を向ける。
「くそっ!障壁が」
「ちっ、誰だ?」
どうやら相手は俺の顔を知らないらしい。
試しに1組を装ってみることにした。
「俺は1組――」
「2組の生徒だろ。俺たちに嘘は通用しないぞ。1組は天宮紗優以外は転移場所にいるからな」
「え?そうなの」
予想外の一言に驚愕した。
紗優以外の1組は転移場所に待機している。
その瞬間、これまでの情報が頭を巡った。
紗優以外は1組の転移場所に待機、だが六谷は障壁コアを破壊されている。
ここから推測するに、1組は紗優以外待機じゃなく紗優と六谷以外待機だったのではないだろうか。
そして、六谷の障壁コアを壊したのは美香の可能性が高い。
さらに、ここに来るまでに出会ったのは3組の美香のみ。
と、いうことはだ。
1組に攻めるに攻めれない状態の3組は、無人街、又は周辺の森林にほとんどすべての生徒が待機しているかもしれない。
ただでさえ最悪な状況なのに、さらに嫌な推測が脳裏をよぎる。
紗優はとっくに2組の転移場所へ到着していて、俺たち残りの2組が3組方面へ向かったことを把握し、1組全員を率いてこちらへ向かってくる。
これはあくまで推測にすぎない。
1組全体を紗優が完璧にまとめている場合の推測だ…。
(いや、意外と全然、普通にありそうだな)
どのみち最悪な状況に変わりない。
今すぐ引き返して結乃たちに距離を取るように伝えるのがベストなのだが――
突如、森に銃声が響いた。
俺は咄嗟に近くの木を盾にするように隠れ、銃声の聞こえた方角に視線を向ける。
そこには、先程まで会話していた男子生徒の走り去る姿がある。
「なんだあれ。銃を空に向けて撃ったのか?」
違和感。
普通空に銃を撃つか?威嚇のつもりだったのだろうか。
やはりおか…し……い?
(待てよ…。碌な通信機器がないこの対抗戦。遠距離である程度の意思疎通を図る目的で銃の音を利用したのなら――)
微かに耳に届いた空気を切り裂くような音。
「ん?」
耳を澄まして、音を聞き分ける。
空気を切り裂くような音は徐々に大きくなり、音の発生源も特定できた。
「上!?」
咄嗟に視線を空へ向けると、無数の矢が見えた。
おそらく走っても矢が降る範囲からは出られないだろう。
だったら、被弾を最小限に抑えるしかない。
鞘から刀を抜き、集中する。
そして、俺に迫った最初の矢を切り捨てる。
後の矢は最小限の動作で回避した。
「危な…これだけ大量に放ってんのに、威力が高すぎだろ」
こんな芸当のできる弓の使い手は、1年に1人しかいない。
突然、殺気を感じ直感で回避した。
その行動は正しかったらしく、俺が先ほどまで立っていた場所の背後にある木に握りこぶし程度の穴が開いていた。
「これは驚いた。まさかあれを避けられるとは思わなかった」
声のする方へ視線を向ける。
そこには、弓を持った男子生徒の姿があった。
「風見辰馬か」
「そうだよ。君は誰かな?」
ここで正体を隠す必要を感じなかった俺は正直に言う。
「2組の東雲凪だ」
「へぇ、君がハルの親友か。ちょっと申し訳ないけど、脱落してもらうよ。その前に少し話さないか?」
「話なら対抗戦終わった後でもいいだろ?」
風見がいくら強くても、前衛がいない弓使いの底は知れている。
「それは残念だ。じゃあ、退場してもらおう」
周囲の草木からかすかに足音が聞こえた。
(流石『十二天』の一つ、風見家自慢の長男だな)
魔力9の弱い生徒相手にも全力ってわけか。
本命は俺を囲むような位置取りをしようとしている3組の連中だ。
俺は腰の銃を確認し、薄ら笑いを浮かべる。
「悪いけど俺も今回ばかりは、退場できない理由があるんだ」
「退場できない理由?」
先手必勝という言葉は実に素晴らしいものだ。
そう思いながら素早く銃を手に取り、銃口を風見へ向ける。
「――結乃、使わせてもらう」
引き金を引いた瞬間、砂と無数の小石などが風見へ向かって放たれる。
彼は咄嗟に障壁を展開した。
「っ!読まれたかっ!皆、今すぐ攻撃を!」
周囲の木陰から3組の生徒の姿が現れ、こちらへ武器を持って突撃してくる。
(1…2…3…4…5人か。ハルの姿はない)
本来なら絶好のポイント稼ぎのタイミングなのだが、風見のある物を見て状況が変わった。
結乃特製の銃の攻撃を防ぐために展開された障壁、その時たまたま視界に入った風見の障壁コアは結乃の物と同じ装飾がされていた。
「狙うはリーダーだろ!」
思い切り大地を踏み、風見の元まで接近する。
「なっ!はっや!」
風見は矢を手に持ち、対抗しようとするがその行動は間に合わない。
俺の抜いた刀が風見の黄色に変色した障壁に直撃す――
「危ないっ!」
「!?」
突如として現れた女子生徒は、俺に剣を振るってきた。
「嘘だろ…」
不意打ちに近い形だったため、完全に防御することができず、障壁にダメージが入ってしまった。
障壁が黄色に変色したことから、一撃すら警戒しなければならない。
しかもさらに最悪な情報がある。
「今のは彩霞流『
「ん?もしかしてうちの流派の人?」
「いいや、昔親に彩霞流を教えてもらったことがあるだけで、正式には学んでいないよ。ある程度知識があるだけだ」
彩霞唯は驚いた表情でこちらを見てくる。
「へぇ…。辰馬…下がって。えーっと、名前教えてもらえる?」
「東雲凪だ」
「東雲君ね。とりあえず、うちのリーダーがお世話になった分のお返しをするね」
彩霞がそう言って剣を構えると、周囲の生徒たちが俺に近づいてくる。
「皆、東雲君は私に任せて、プランBでいこう」
彩霞の言葉を聞いた3組の生徒たちはこの場から消えていった。
(流石に俺一人に全員のヘイトは集中させてくれないか)
人が減ってもすることは依然変わりない。
ここで風見を脱落させる。
最悪、風見の弓術で2組が全滅する可能性だってある。
最優先で倒したいのだが…
「こっち見なよ。私だって、あなたの敵だよ?」
風見を見ていた俺の視線の先に、彩霞が立った。
「一筋縄じゃ行かないよな」
――結乃視点――
「東雲早すぎだろ」
「そうだね。そろそろ追いついてもいいころだと思うんだけどね」
私たちは現在、走って3組の転移場所へ向かっていた。
この学園に入学している生徒は、ほとんどがハンターになるために訓練してきた優秀な人たちだ。
そのため、身体能力も高いため予想より早めに移動ができている。
先程、障壁コアの通知に3組の脱落者が表示されていたため、東雲君が接敵した可能性が高い。
「急ぎましょう」
「なに…あれ……」
長石が空を指さしそう言ったため、全員の視線が空へ集まる。
私たちの進行ルートの少し先の上空に、無数の何かが見えた。
はっきりとはわからないが、何か棒のような……
「まさか…」
「天宮さん?」
「最悪の事態になりました。東雲君はおそらく風見さんと接敵しました」
「嘘だろ」
「不味いね。ここで東雲君がやられでもしたら、2組の戦力が減るだけじゃなく、風見君のヘイトが私たちに来る可能性が高くなる」
長石さんの言う通りだ。
2組で風見さんの射撃を安定して回避できる人物は、東雲君であることに違いはない。
今ここで風見さんのヘイトが私たちへ向くことは2組の敗北を意味する。
気が付けば、皆が心配そうに私を見てくる。
「ようやく戦況がつかめてきました。皆さん、冷静に聞いてください。この先、ほぼ確実に風見さんと彩霞さんがいます」
「なんでそんなことが分かるんだよ」
「あとで理由は話します。その前にいい案があるので、聞いてください」
・クラス
1組 6p 残り9人 リーダー 天宮紗優?
2組 2p 残り7人 リーダー 天宮結乃
3組 2p 残り9人 (投降1?) リーダー 風見辰馬
・個人 TOP5
1 天宮 紗優? 6p
2 望 美香 2p
3 東雲 凪 2p
4 4以下は0pのため非表示
※ 備考
学生、特に1年生の最初で魔法を扱う生徒の数は少ない。
主な要因としては魔法に対する知識の不足による火力不足。
魔法の基礎学習は高校生より始まる。一部の家などは例外で、幼少より英才教育として魔法を習得させている。
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