戦場を走る③

「この場所にいたら遅かれ早かれ紗優が来ると思う」

「東雲の言う通りだ。天宮さんがくるということは…」

「多分彩霞か風見も気づき次第こちらへ来るだろうね」


 4人で話をしていると、残りの女子2人をまとめていた長石が報告に来た。


「天宮さんたち…私たちも3組方面へ移動するわ」


 報告を聞いた結乃が小声で話しかけてくる。


「どうしますか?」

「まあ一緒に行動しても大丈夫だろ」

「わかりました。それで東雲君、少しだけ時間良いですか?」

「いいけど…何をするんだ?」





 結乃が俺に頼んだことは、地面をひたすらに掘るというものだった。

 もちろん他の人間に見つからないように少し離れた場所で。

 理由は風見のスキルの対策だと言う。

 これがどう対策になっているのかは謎。

 そして掘った土を結乃が触る。


「ありがとうございます。これだけあれば3発ぐらいは打てそうです」

「ん?何かに使うのか?」

「はい」


 そう言って結乃が手渡してきたのは、銃だった。

 

「ん?銃??」

「はい。そして、弾は今から作ります」


 結乃の左手には銃から抜いたのであろう、弾があった。

 そして右手で土に触れた。

 

「『合成』」


 一瞬、土と弾が発光し次に視界に入れたときは土はなくなり、左手に弾のみがあった。

 

「ん?」

「できました。これは対風見さん用の武器です。見た目はハンドガンですが、使用感はショットガンに近いです。弾は3発分、打ては前方に砂や石が散弾銃のように射出され、一定時間砂埃が舞うでしょう」

「え?なにそれすごい」

「私の合成は、いろいろな使い方ができますので」


 結乃のスキルは一見地味だが、使い方次第ではとても強力なものになるな。

 合成でできた弾を貰い、リロードしベルトに挿す。

 学校の体操服には帯刀ベルトのようなものも付属品としてあり、刀以外にも銃や小道具などを収納できる部分がある。

 おかげで移動にはあまり困りそうにないが…


「やはり、東雲君が先行したほうが効率がいいかもしれません」

「…結乃は俺と同じ速さで行けるのか?」

「…後半戦のことも考えると体力と魔力の消費を最小限に抑えたいので、すこし厳しいです。考えなくていいなら、ついていけます…多分」


 確かにこれから先、何があるわからない状況で序盤から消耗させすぎるのは良くないな。

 

「私たちのことは気にせず先行してください」

「いいのか?」

「はい。私は明石さんや長石さんを連れてあとを追います」

「…わかった」


 一応、残りの2組のメンバーには明石や長石、結乃といった魔力量がクラスでも特に多い3人がいる。

 そこらへんの生徒に負けるとは思えないから大丈夫なはずだ。

 




 森を進み始めて約3分、未だ周囲に人の気配はない。

 ここらで3組の人間と出会うと予想していたが……。

 まさか2組の転移地点に3組全体が最短距離で進んでいるのか?

 俺はかなり遠回りして3組の転移場所へ移動しているため、もし最短ルートで2組へ向かっているのならば気づけない。


「どうする…」


 2組の転移場所の方向から正面へ視線を戻した瞬間、目の前に見知らぬ女子がいた。


「こんにちわぁ」

「!?」


 咄嗟にバックステップで距離を取り、刀をいつでも抜けるように柄に触れておく。


「すごいですねぇ…。反射神経かな?それとも身体強化?」


 周囲を警戒していたはずなのに、こんなに接近されるまで気づかなかった。

 淡いピンクのミディアムヘアが特徴的な女子、紫色の瞳は俺を品定めするかのように、ジッと見てくる。


「あー、大丈夫ですよ?私クラス対抗戦に興味ないので…。その証拠にこれあげちゃいますね」


 そう言って彼女は障壁コアを差し出してくる。

 

「どういうつもりだ?お前は…」

「お前ってひどーい。私はのぞみ美香みかだよ。美香って呼んでね」


 見た感じ罠は無さそうだ。

 俺が障壁コアを受け取るのを確認した美香は満足そうな顔をする。


「…美香は、なんで俺に障壁コアを渡すんだ?それを渡せば失格になるぞ?それにそんな身勝手なことしたらクラスの奴らが」

「気にしなーい。別に私がいなくても3組勝っちゃいそうだし。ってさっきまで思ってたんだけどねぇ……」


 美香は顔を俺の耳元まで近づけて囁いた。


「障壁コア貰ったからって油断しちゃダメだよぉ?私がもう一つの障壁コアを持っていたりしたら、凪っち、死ぬかもね」

「……」

「あれぇ、反応しないの?面白くないー。ねぇねぇ、知ってた?障壁コアって他人のも使えるんだよ?しかも他人の障壁コアが壊れても自分は失格にならないの。あぁ、急ぎの用事があるんだよね。頑張ってー応援しとくー」


 笑顔でそう言うと、美香はどこかへ歩き去ろうとした。

 その背中を俺は引き止める。


「なあ、最後に聞かせてほしいんだけど…対抗戦に興味ない本当の理由を教えてほしい」


 俺の言葉を聞いた美香はこちらを振り向かず口を開く。


「だって…障壁なんてあっても…」


 そしてゆっくりと、こちらを振り返る。

 振り返った美香の顔を見て、俺は背筋に冷や汗が少し流れた。

 

「私、殺しちゃうから」


 恐ろしく冷たい目をこちらに向ける。


「一応私が投降して失格になると障壁コアが発動しなくなるから、隠れているね」

「俺が投降の意思を表している美香を切ろうとする…なんて考えないのか?」

 

 俺の質問に冷たい表情だった美香は笑顔になった。


「あはは!面白いね凪っち。こんな監視だらけの森でそんなことしちゃったら即失格だよ?」


 美香の視線の先にはカラスがいた。

 

(まさか…動物との視界共有できるようなスキルがあるのか?確かにそれなら、ルール違反者をすぐに特定できるし安全だ。今の美香の行動を監視していて、それでも教師側が何も行動をしないということは、ルール上ではありということなのだろう)


「じゃ、頑張ってねー」


 歩き去る彼女から視線を外し、障壁コアの通知を見てみる。

 障壁コアの通知画面では、持ち主のポイントを確認することができる欄がある。

 そこに…

 

 [望 美香 2p保有]


 と表示されていた。


 結乃は望美香を、不気味とか言っていたけど…


「あれは不気味どころじゃない。というか俺、自己紹介したっけか…」


 なぜ俺に障壁コアを渡すような真似をしたのか、気になる点は多くある。

 だが、今はポイントを集めることが優先だ。

 彼女が敵対する意思がないのなら、ありがたく使わせてもらおう。




 ※現在の得点数


・クラス

1組 6p  残り9人       リーダー1

2組 0p  残り7人       リーダー1

3組 2p  残り10人 (投降1?)  リーダー1

 

・個人 TOP5

1 ???? 6p

2 望 美香 2p

3 以下0pのため非表示





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