戦場を走る②
結乃から教えてもらった危険人物を暗記し終えたと同時に、クラスごとの転移の準備が完了したらしい。
「それでは皆さん、クラスごとに分かれて集まってください」
先生の指示に従いクラスごとに集まった。
「それでは、沢田先生のスキルで皆さんを今年の対抗戦の行われる場所へ転移させます。転移と同時にクラス対抗戦が始まりますので、ご注意ください。それでは、沢田先生お願いします」
3クラスの前に沢田先生が立つ。
「皆さん、転移を開始します。その場を動かないようにしてください」
沢田先生が俺たちの方へ手を伸ばし、目を瞑る。
そして約3秒後、俺たちの体が発光したと同時に見知らぬ森に転移された。
「すごいな…『転移』のスキル」
「ええ…ちなみに日本には転移系のスキルを持っている方はあと2人います」
「すごいな。スキルって被るんだ」
「正確には被りはないですけどね。条件があったり、転移先に制限があったりなど様々です」
周囲のクラスメイトも転移をしたのは初めてなのか、皆周囲の様子を見ながら感心していた。
「と、もう始まっているんだな」
「はい。ここから気を付けて行きましょう」
ふと、目に結乃の障壁コアが入る。
「結乃…もしかして…リーダー?」
「はい、そのようです」
「まさかとは思うけど…俺について来ようとしてる?」
「はい、もちろんです」
「マジ?」
「はい」
硬直する俺と、少し首をかしげる結乃。
「天宮さん、流石にそれはどうなんだ?」
「そうだ。いくら天宮だからって、あまり勝手な行動はするべきじゃない」
どうやら今の会話はクラスメイトたちに訊かれていたようだ。
「そうだよ天宮さん。東雲君には悪いけど…」
「ごめんけど、あたしも同意見だね。天宮は勝つ気ないのかもしれないけど、こっちは皆勝ちにきたんだ」
男子では佐藤と浜口、女子では高山と長石が反対の意思を表明していた。
まあ、俺としても結乃は俺以外と行動するべきだとは思っているが…どうしたものだろうか。
迷っていると結乃が一歩前に出た。
嫌な予感がする…いや、これはガチで止めた方がいいやつかもしれない。
俺は結乃の肩に触れようとしたその時。
「皆、僕は天宮さんたちに付いていくよ」
そう言ったのは明石だった。
明石は俺と目が合うと笑顔を見せてくる。
おそらく結乃の行動を先読みし、最適な一手を打ったのだろう。
とてもありがたい。
「俺も明石と同じく、そっちについてくぜ」
鍵谷もこちらに近づいてくる。
まさか、こちらに二人もつくとは思っていなかった。
「天宮さん、地図は持ってるね」
「…はい」
地図の存在を始めて知ったのだが?
「僕たちは3組の方面へ移動する。僕たちと行動を別にする人たちは極力一か所に集まってもらいたい」
「確かに…その方が勝算が高い」
「俺は別行動させてもらうぜ。個人ランキング上位を狙いたいからな。他にも上位狙ってるやつがいたなら、俺と行こうぜ」
佐藤の呼びかけに、秋葉と浜口が反応する。
「俺は、佐藤の方にいく」
「個別上位狙ってるんで、こっち一択だな」
「そんじゃ、俺たちは1組の方に行くぜ。天宮、地図を見せてくれ」
佐藤は地図を数秒間見ると、浜口と秋葉を連れて森へ消えていった。
長石たちは残りのクラスメイトをまとめている。
「じゃあ、僕たちも作戦を立てようか」
「ごめんけど」
俺は明石の目を見ながら、すこしだけ強めに言った。
「作戦はすでに決めてあるんだ」
「ほうほう、いいねその目」
なぜか明石の好感度が上がった。
てっきり弱いものとして扱われているから、意見しても無視されるかもと思っていた
「ちなみに作戦ってなんだ?」
「俺が凸る」
「ん?」
「わかりました」
「んん?」
「ちょっとストップ、ごめん全然わかんない。なんで天宮さんわかってんの?」
明石と鍵谷が驚いている。
そうか、俺がどれだけ動けるか知っているのは結乃だけだった。
「俺たちの狙いは3組だ。理由は大体分かると思う」
「そうだね。1組の天宮紗優さんと出会わないためってことだろう」
「それと、3組が1番個別に狙いやすいからだろ?」
「おそらくだけど、3組の要注意人物である彩霞と風見のどちらかはこちら側へ来る。来るとしてもおそらく最短距離で」
「それなら多分だけどこっちに来るのは風見だと思う」
「私も鍵谷さんと同意見です。2組が転移したこの場所は森ですが、他のクラスはまた別の環境にいます。1組は草原、3組は無人街です。風見さんの強みの弓術は草原では真価を発揮しにくい。その点彩霞さんは草原でも問題なく全力を出せるでしょう」
確かに、個別評価の中に戦術がある以上、闇雲に凸ることは悪手だ。
しかし俺は慎重に行動はしない方がいい。
楠乃先生の出した条件の達成にはやはり個人行動が最適だ。
「それより、さっきの凸るってどう言うことだ?東雲君には申し訳――」
「――この際、俺も隠し事はなしだ。実は俺には祝福がある」
「「!?」」
「結乃は反応ないんだな。祝福のことは言っていなかったはずだけど」
「薄々勘づいていましたから」
「祝福、もしかして魔力9と関係があるのか?」
「ああ、俺の祝福の内容は、最大魔力量を失う代わりに身体能力の向上だ」
俺は視線を結乃へ向ける。
結乃は少しこちらを見た後、口を開いた。
「東雲くんの言っていることは事実です。私の実際に確認しました」
「だから常人ではできないこともできる」
「確かにそれがあるなら…」
「そうだな」
二人とも納得してくれたらしい。
「そんじゃ、東雲に凸は任せて…俺らは何すればいい?」
「俺は最速で3組の転移場所へ行く。結乃たちは最短距離でくる風見か彩霞を避けて転移場所で合流しよう。ところで武器は?」
「あそこに色々な武器があります」
結乃が指差した方向には色々な剣や弓、槍や斧があった。
「あの武器は全て刃が無いんです。安全のためですね」
「へぇ、銃もあるんだ」
俺は刀を手に取り、結乃は剣と銃、明石は複数の短剣と剣、鍵谷は大盾と斧を持つ。
「鍵谷、お前重装備だな」
「あぁ、俺は魔力による身体強化が得意だからな。基本的に魔法より物理メインだ。そう言う明石こそそんないっぱい短剣が必要なのか?」
「まあね」
二人の会話を聞きながら結乃を見る。
「私は弥郡流銃剣術を扱うので」
察して先に説明してくれた。
「いろんな流派があるんだな。よし、それじゃあ行動を開始しよう」
そう言った瞬間だった。
「?」
ポケットに入れていた障壁コアが震えた。
「ん?何これ」
「どうやら急いで行動した方が良いようですね。東雲君、障壁コアには基本的に3つ機能があります。1つが自動防御、2つ目が任意障壁起動。障壁コアに付いている二つのボタンのうち四角い方を押すと障壁が出現します」
「へぇ、便利。じゃあ丸い方は?」
「押してみてください」
結乃に言われボタンを押す。
すると障壁コアの液晶部分に文字が表示された。
[2組の秋葉頼一、浜口力哉、佐藤茂の衝撃コアの破壊を確認]
[1組の六谷健の障壁コアの破壊を確認]
「まさか、これって」
「リアルタイムのキルログ、ってことか」
優勝を目指している2組からしてみれば絶望的な情報だな。
3人の表示が同時だったことから、同時に障壁コアを破壊された可能性がある。
彼らは1組の方へ向かっていた。
と言うことは…
「紗優がこちらへ向かっている可能性がありますね」
「…そうだな」
最悪なシナリオが見えてきた。
※現在の得点数
・クラス
1組 6p 残り9人 リーダー1
2組 0p 残り7人 リーダー1
3組 2p 残り10人 リーダー1
・個人 TOP5
1 ??? 6p
2 ??? 2p
3 以下0pのため非表示
※障壁コア
形はスマホのようになっていて半分から上が液晶、下に二つのボタンと魔力石が埋まっている。
障壁は半透明の水色をしている。ダメージによって色は変化し、水色→黄色→赤色の3段階がある。
リーダー用の障壁コアは、少しだけ装飾がされており、目のいい人ならば遠くからでもわかる。
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