戦場を走る

「皆さんおはようございます。1年生全員での授業は初となりますね。今日はこの学校の恒例の行事であるクラス対抗戦の日です。皆さんにとってこの行事はとても重要なものになるでしょう。それでは、今年のクラス対抗戦のために来ていただいた方たちの挨拶です」


 校長がそう言うと前に出てきたのは――


「皆さんこんにちは、ハンター協会の現代表の賀茂憲明です。本日は皆さんのクラス対抗戦を見に来ました」

「え?」

「あれって…」

「おいおい、マジかよ」


 ハンター協会の現代表。

 日本で2人しかいない国家戦略級と認定された、最強のハンターの一人。

 

「それともう一人、毎年このイベントに欠かせない人が来ています」


 賀茂憲明の横に、見覚えのある――


「ミチ婆?」


 思わず声が漏れた。

 周囲の何人かがこちらを見てくるが、今はそれを気にしているどころではなかった。

 ミチ婆も俺に気づいたのか、こちらを見て微笑んだ。

 その隣でこちらをジッとみてくる賀茂の顔が少し怖い。


(まさか、目を付けられたか?)


 噂に過ぎないが、賀茂は礼儀にとても厳しいらしい。

 説教を半分覚悟したのだが、話が終わるまで特に何事もなかった。





 ようやく校長の話が終わったと、気を抜いていると結乃が目の前まで歩いてきた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 結乃はじっと俺の顔を見てくる。

 その顔はもちろん無表情。

 何を考えているのかさっぱりだ。


「東雲君、楠乃先生と何か企んでいますか?」

「あー(なんでバレた?)」


 結乃の雰囲気からして確信しているっぽいし、隠すようなことでもないため正直に話した。


「いや、上級ハンターの資格が欲しくなって、それで楠乃先生に頼んだんだ」

「上級ハンターですか。確かに楠乃先生は推薦することができますね。ですが、あの人が簡単に推薦するとは思えませんし、なぜこのタイミングで東雲君が上級ハンターを目指すのか、理解できません」


 楠乃先生の性格を理解しているな。

 

「ああ、確かに条件は出された。クラス対抗戦で個人TOP3に入ること。上級ハンターの資格が必要になったのはお金の問題だ」


 半分真実で半分嘘だ。

 確かに東雲家は現在、裕福とは言えない。

 収入源は俺で、中級ハンターが入れるゲートの攻略報酬だけなため、週一でB級ゲートを攻略しないといけない。

 さらに来年には時雨と舞花が中学生になるため、学費の面で完全に金欠状態になる。

 

「そうでしたか。必要なら私がお金を貸しましょうか?」

「結乃、いくら仲が良い友達だとしても、簡単にお金の貸し借りはしちゃいけないぞ?」

「?…わかりました。それにしても学年TOP3ですか…」


 結乃は俺の体を見ながら考える素振りを見せる。


「結乃的にはどう?いけそう?」

「今年じゃなければ可能性はあったと思いますよ」

「…マジ?」

「はい。東雲君の様子からしてクラス対抗戦についての情報は持っていないようですね。私で良ければ教えますよ」

「頼む」


「わかりました。クラス対抗戦はルールは多くありません。この後配られる障壁コアという道具が発動すると、所有者を守るように障壁が展開されます。その障壁が壊れた場合、失格となり観戦席へ移動となります」


 結乃は一から丁寧にいろいろ教えてくれた。


〈クラス対抗戦のルール〉

・詳細

 対抗戦開始とともにクラスごとに転移が開始される。

 転移は3クラスとも、離れた位置になるように設定されている。

 対抗戦中はチームを組むことは必須ではないため、個別行動も可能。

 クラスの中から最も実力のあると思われる生徒(各クラスの担任が決定)は〈リーダ―〉用の障壁コアを所持し、リーダー用の障壁コアを破壊した場合のポイントは10とする。

 リーダー用の障壁コアが破壊されたクラスは-5となる。


・クラスランキング 

 試合終了時に〈クラスの残り人数〉×1+〈クラス内メンバーが破壊した障壁の数〉×2+〈クラス内メンバーが破壊したリーダー用の障壁コアの数〉×10


・個人ランキング

 戦術、知識、戦闘、協調性の4つの視点でみられポイントが付与される。


 戦術 奇襲など戦闘においての立ち回りを評価 

    最大5


 知識 地形や天候など、その場において有効に活用できるものをうまく利用したか  

    最大5


 戦闘 戦闘能力を評価

    最大5


 協調 チームで行動したりする場合の指示の正確性などを評価

    最大5


 この4つのポイントに、破壊した障壁コア(リーダー用も含めて)の数のポイントを足し、個人ランキングを表示する。


・失格行為

1 自分用に配布された障壁が破壊された場合

2 障壁コアをなくしている相手を意図的に攻撃した場合

3 同クラスメイトを意図的に攻撃した場合

4 投降の意志を表している生徒への過剰な攻撃など

5 障壁コアをなくした場合も破壊されたときと同様、失格となる



「と、いう感じです」


 結乃がいてくれて助かった。

 

「ちなみに、2日前に私が説明したクラス対抗戦の詳細は、学校用のアカウントに連絡が来ているはずですよ」

「…ごめん、見てなかった。で、今の話を聞いた感じ俺でもワンちゃんがありそうなんだけど…」

「東雲君がTOP3に入る確率を大きく下げている要素が二つあるんです。一つは個人評価の協調性」


 確かに…。

 俺はクラスに馴染めていないままだ。

 しかも、今回に関しては俺は個人のランキングのTOP3を狙いに行くわけだから、団体行動は得策とは言えない。

 となると、最大のポイント数が-5となるわけだ。


「そして問題の二つ目です。今年の1組と3組にいる一部の人物が、戦闘能力が極めて高いんです」

「一部…1組は予想はつく。紗優だろ?」

「そうですね。それとあと一人」

「まだ紗優並みのがいるのか?」

「いえ、紗優と張り合える人物は3組にしかいません」

「とんでもないな…3組」

「だから東雲君、今から私が言う危険人物の情報をすべて覚えてくださいね」

「了解」


※備考 1学年全体&結乃が思う危険人物 


1組 

1  天宮 紗優 魔力量98 出会わないように立ち回ってください。100%出会ってしまうと思いますけど、頑張ってください。

2  柏木 沙耶 魔力量23 

3  茅場 和夫 魔力量66 

4  榊原 光彦 魔力量44 

5  篠原 瑞樹 魔力量71 彼女は魔法の扱いに長けています

6  白井 里香 魔力量20 白井は私と紗優の護衛のため生徒に紛れています。実力は正直、紗優と互角ぐらいあります。流石に皆の前では本気はないと思います。 

7  内藤 寛太 魔力量33 

8  仁科 結子 魔力量55 

9  山城 小豆 魔力量44 

10 六谷 健  魔力量10 彼は身体強化系の『祝福』があります


2組 (ほかのクラスが思う危険度メモ)

1  明石 徹   魔力量62 危険

2  秋葉 頼一  魔力量24 ふつう

3  天宮 結乃  魔力量74 要注意

4  鍵谷 鷹   魔力量30 ふつう

5  佐藤 茂   魔力量45 ちょい怖い

6  東雲 凪   魔力量0(9) 誰?弱い

7  高山 英子  魔力量49 ちょい怖い

8  長石 あゆみ 魔力量70 ちょい危険

9  浜口 力哉  魔力量34 ふつう

10 藤本 繭   魔力量44 ちょい危険?


3組 

1  朝日 健司 魔力量22 

2  彩霞 唯  魔力量32 彼女は十二天の一つ『彩霞家』です。できるだけ交戦を避けてください。交戦した場合、剣術に注意してください。

3  風見 辰馬 魔力量59 彼も十二天の一つ『風見家』です。できるだけ交戦しないようにしてください。彼には卓越した弓術と『スキル』があるそうです。

4  北川 政  魔力量43 

5  月山 広幸 魔力量36

6  新田 晴馬 魔力量66

7  沼津 健二 魔力量61

8  望  美香 魔力量92 魔力量が異常な子ですが、情報がありまんせんでした、不気味です。注意してください。

9  吉田 健司 魔力量35

10 渡辺 公一 魔力量29 


 


 

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