秘密のゲート攻略会議

――凪視点――



「おはようございます」

「おはよう。ところでなんで部屋直撃すんの?」

「さぁ、朝食の準備ができているので行きますよ」

「スルーね」


 結乃は無表情で歩き去っていく。

 彼女はいつも無表情だ。

 

(小さいころのトラウマ?もしくはそういう病気か何かなのか?)


 関わりを持って一か月にも満たないが、結乃が表情を変えるところを見たことがない。

 最初はあまり気にしないようにしていた。

 天宮家の人たちも結乃の無表情っぷりも慣れていたようだし、問題はないのだろう。

 だが、しかし…俺がめっちゃ気になってしまう。





 朝食を終え、俺は部屋へ戻ろうとしていた時だった。


「東雲凪くん」

「ん?…あぁ、紗優さん」


 紗優が背後から声をかけてきた。


「昼すぎあたりに帰りの車が家の前に来ます。準備しておいてくださいね」

「ああ、分かった」

「……」

「……」


(いや、気まず)


 普通会話終了したら歩き去らない?

 一応天宮家に泊めてもらっている立場で、歩き去っていくのはどうかと思っているから紗優が去るのを待っているのだが…。


「東雲くん少し私と出かけませんか?」


 紗優が上目遣いを目の当たりにした俺は硬直する。


「ハイ」


 思わず返事をしてしまった。

 

「じゃあライン、交換しましょう」

「マジか」

「嫌ですか?」

「いや全然」


 そう言って俺たちは連絡先を交換した。

 

「それでは、集合場所についてはメールで送りますね」

「了解」


 そう言って歩き去る紗優を確認し、改めてラインに追加された友達『天宮紗優』の名前をじっくり見た。

 

(なんだろう…これが高校生の青春か)


 静かにスマホの画面を閉じ、部屋へ向かった。

 




 いつでも帰れるように荷物をまとめ終えた俺は、紗優から送られてきた場所へ向かっている。

 『花田花屋』、物凄く言いにくい店名だ。

 名前の通り花屋なのだろう。


 歩き出して早9分、見覚えのある道にたどり着いた。


「あれ…ここの道、結乃と一緒に来たな」


 以前、花屋に寄ったときもこの道を通っていた。

 というより、さっきから通っていた道は、昨日通った道だった。


「嘘…俺の方向音痴ひどくなってる?いや、この場合鳥頭になってんのか?…ん?ってことはこの花田花屋って昨日の場所なのか?」


 昨日の記憶を思い出しながら進む。


「迷わずに来れましたね」

「俺を何だと思っているんだ?」

「方向音痴でしょ。昨日、自身の部屋へ戻るのに10分以上かかっていましたね。それも同じ場所を徘徊してました」

(見られてたのか)


 ちなみに紗優が目撃したその徘徊は演技でもなんでもなく、ガチである。

 原因は天宮家が広すぎる点だな。


「それで、なんで花屋なんだ?」

「それは後で話ますね」


 紗優が店の前に立つと、聞き覚えのある声がした。


「おぉ!紗優ちゃん、久しぶりだな」

「お久しぶりです、花田さん」

「結乃ちゃんが昨日顔見せてくれたから、もしやと思って……」


 嬉しそうに話す花田哲太と目が合った。

 すると徐々に笑顔が消えていく。


「テメぇ、まさか二股してんのか?」

「いえ、してません」

「ハハハ、良い度胸――」

「――大丈夫ですよ。彼と私はお付き合いしていません。結乃のほうは知りませんけど」

「いや結乃の方もただの友達ですね。本当の本当に」


 それでもまだ疑いの目を向けてくる花田に、紗優が言った。


「彼にも手伝ってもらおうと思っているんです」


 その言葉を聞いた途端、花田は紗優を見る。


「本気かい?」

「ええ、本気です」


 数秒間、紗優と花田が見つめ合う。


(なんだ、この空気。また面倒事か?)

 

 様子を見ていると、花田がため息をつく。


「はぁ、紗優ちゃんが言うなら仕方ねぇな。おい、お前店に入れ」

「…はい」


 


 



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