家族②

「いきなりどうしたんだ?」

「…女の子一人相手に完敗した人を励ましに来ました」


 容赦のない結乃の口撃に一歩後退りする。


「完敗はしていない。優が勝手に始めて勝手にやめたんだ」

「優さんらしいです」

「優さんらしい?結乃は優と面識があるのか?」

「はい、最近も一緒に食事をしました」


 優と結乃は性格的にあまり合わなそうという予想は、見事に外れた。 


「帰りますよ。もう夜遅いので」


 結乃は無表情のまま俺に背を向け、歩き出した。 


「計画通りって感じだな」

「さて、なんのことかわかりません。わたしはただ優さんとあなたの様子を見に来ただけなので」

「さっき励ましに来たって…」

「ついでです」


 結乃はいつも通りの無表情だったが、どこか楽しそうだった。

 ここ最近、結乃が心を少し開いてくれた気がする。

 結乃との間にできた距離を縮めようと歩き出した瞬間、強い風が吹いた。

 周囲に花びらが舞い、幻想的な風景が現れる。


「すっご…っ!?」


 ふと、背後に人の気配を感じた。


「またか、今度は…誰…だ……」


 すると師匠の墓の前に誰かがいた。

 いや、誰かじゃない。俺が見間違えるはずのない人物、東雲優凪がいた。


「なんで…師――」


 俺が最後まで言う前に、先程よりも強い風が吹いた。

 意図的すぎる風だな、と心の中で小言を言いながら目を開ける。

 墓の前には誰もいなかった。 

 

「……幻でもみたのか…」


 今のは何だったのだろうか?

 俺に何かを伝えようとしたのだろうか?


「綺麗ですね。ところで、この地には言い伝えがあるのを知っていますか?『花舞う夜に、亡者は現世へ現れる』」

「花舞う夜…亡者は現世へ…」

「この状況、似ていますね。まあ、あくまで言い伝えで亡者を見たなんて噂は聞いたことはないですけど」


 俺と結乃は少しの間、幻想的な風景を眺めてこの場を後にした。


 

――優視点――



「バカ凪。なんなの?本当になんなの」

「優ちゃん。もしかして、お兄――」

「――もう兄じゃない」

「ワオ、ゲキオコや。優ちゃんは凪君救いたいちゃうんか?」

「……」


 加瀬さんの言葉にうまく答えられなかった私は窓から外の景色を眺める。

 そんな私を見て察したのか、加瀬さんはため息をついた。


「悪いことはいわん。凪くんのことはあきらめとったほうがええ」

「……」

「僕は飽きるぐらいいろんな冒険者を見てきた。今の凪くんのようなヤツが今どうなって――」

「――死んだんでしょう」

「正解。ある程度強くてもな、希望も目的もなんもない人間っちゅうもんは、人生長くない。まして僕らのように武器振り回す側だったら猶更や」

「凪は…」


 私の脳内にかつての凪の姿が浮かぶ。

 必死に木刀を振り、お母さんに追いつこうと鍛錬していた姿。


「優ちゃんには悪いけど、どうして彼にそこまでこだわるんか、僕にはわからん。彼は確かに年齢の割には腕が立つと思うで。でも特出してるわけやない。それについては史上最年少で上級ハンターへ至った優ちゃんが一番分かってるはずや」


 再び車内に静寂が訪れた。




※備考

 中級以上のハンター資格の獲得の条件に年齢制限がある。

 とある条件を満たした人物からの推薦があれば例外として、試験に挑むことができる。


〈過去の最年少記録〉


2013年~2021年 東雲 優凪(15)


2022年 東雲 優(13)





 



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