家族

――凪(10)視点――


「はい!じゃあ家族会議をしよう」


 師匠が手を叩くと、俺と妹の優が椅子に座る。

 東雲家全員が揃った。


「さあ、今後に関わる重要な話をしよう。今日、知り合いからケーキを貰いました」


 そう言って師匠が机の上にあった大きな箱から数十個のショートケーキを取り出した。

 

「チョコレート!」

「いちごケーキ」

「すごいだろ?なんとこのケーキ、人気すぎて数か月予約待ちをするぐらいの店『めちゃあまスイーツ』のケーキだよ」

「「!!」」


 俺たちのような子供でも、その価値はすぐに分かった。

 

「食べたい?実はこのケーキ、10個あります。3個づつ配っても1個余ります。さあ、4個食べたい人」

「「はい!!」」


 全力で手を挙げたのは俺と優…だけでなく、師匠もだった。


「全員、食べたい…か。さあ、じゃんけんしようか。もちろん勝った人が4個食べれる」


 そうして、東雲家の激しい戦いが始まった。




 結果として、師匠が4個食べた。

 

「ふっふっふ、師匠に勝てると思うなよ?」

「ずるいー」

「慣れろ優、こういう人だ」


 頬を膨らませながらケーキを口へ運ぶ優、優の頭を撫でる俺。


「いいな、家族って」

「「?」」


 師匠が何かを呟いたようだが、俺たち二人の耳には聞こえなかった。


「師匠?」

「お母さん?」

 

 俺たちが声をかけると師匠は、笑顔で言った。


「凪、優。もし自立して、離れ離れになったとしても、1年に一度ぐらいは家族全員で過ごす時間を作る。約束だよ」

「やだ!離れない!」


 優が泣きながら師匠に抱き着いた。

 

「あはは、優は自立できるかわからないね」


 笑いながら優の頭を撫でる師匠。

 あっという間に優は寝てしまった。

 

「あちゃー、ケーキ食べ終わってないのに寝ちゃったか。凪、優の分のケーキ、冷蔵庫に入れといて」

「はーい」


 師匠に言われるがまま、優のケーキを箱に戻して、箱ごと冷蔵庫に入れる。


「ありがとう凪」

 

 師匠は優を布団に寝かし椅子に座った。

 

「凪は賢い子だね。だからわかってるんでしょう?私はいつまでも二人の傍にはいられない。いずれ別れる日がくる。だから、そのときは優を頼むよ」





 優は刀を鞘に納め、俺を睨む。


「あんたとここで会いたくなかった」

「……優はなんでここに?」

「お墓参り。私は一週間に一度は来てるわ」

「そうか…」

「あぁ!ムカつく!なんなのあんた?言いたいことがあるなら言えばいいじゃない!加瀬さん、木刀!」

「あいよ」


 突然、優の背後に現れた男は木刀をこちらへ投げてきた。

 

「人使い荒いなぁ」


 加瀬と呼ばれた男は、頭を掻きながら俺たちから距離をとった。


「凪、わかるでしょ?刀を構えなさい」

「優、ここでは」

「戦えないとは言わせないわよっ!」


 優が俺との距離を詰めると同時に、木刀を振るう。

 俺は大きく後ろへ下がり、木刀を避ける。

 本来ならここで一息つけるのだが――


「――はっ!」


 一瞬にして、優の木刀の切先が俺の目の前を横切った。


「くっ!」


 やはり優相手では、防御メインでやり過ごすことはキツい。


「やめた」

「え?」

「めんどくさすぎ!何なの、どこまでだらしなくなれば気が済むの!?私が本気じゃないと思ったの?それとも妹に対しては刀を振れないの?たかが一回、母さんから受け継いだ東雲一刀流ものを――」

「――優。たかが一回じゃない」


 咄嗟に声が出た。

 

「っ!?あっそ!もう知んない。木刀返して」


 俺は優へ木刀を投げる。

 受け取った優は、近くまで寄ってきた加瀬と呼ばれた男へ木刀を渡した。


「加瀬さん。付き合わせちゃってすいませんでした。用事は済んだので戻りましょう」

「へいへい、お嬢様はそれでええんか?」

「お嬢様じゃない。私はハンターです。……時間の無駄だった。あれはもう私の兄じゃない」




 優と加瀬が歩き去ったあと、俺は一人で師匠の…母さんの墓の前に立った。


「母さん、ごめん。優の事、そして母さんから受け継いだもの。どっちも俺は守れなかった。俺は…母さんみたいになりたかったんだ。いろんな人から大英雄なんて呼ばれて、慕われて。多くの人を救う…母さんみたいに…」


 思わず目に涙が溜まった。

 すぐに目元を袖で拭う。


「少なくとも」


 突然、背後から結乃の声がしたため体が震えた。

 

「結乃?なんでここに」

「今日、あのゲートの中で見た、あなたの最後の一突き。あの時の光景は忘れられません。私の幼いころから思い描いていた英雄の面影を感じました」


 最初は結乃が俺を励ますための嘘か何かだと思っていた。

 しかし、結乃の目を見てそれが嘘や冗談なんかではないと確信した。

 

 


 

 


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