敗北の後②

「えげつな」


 結乃に連れられたどり着いた部屋には、天宮家御一行と複数のメイド、バカみたいに大きいテーブルの上には豪華な食事が並んでいる。

 これが現代貴族か。と心の中で関心していると、天宮家の当主っぽい人から声をかけられた。


「君が東雲凪君か?」

「はい…東雲凪です」

「そう緊張しなくていい。結乃の友人として、気軽く過ごしてくれ」

「ありがとうございます(え?気軽く?この雰囲気で?やばくない?マナーとか全くわからんぞ)」


 メイドに案内され、椅子に座る。

 横には天宮兄が座っていた。


「あ、今日迷惑かけてしまってすいません。えーっと」

「ああ、そういえば俺自己紹介してなかったね。俺は天宮さくら。気にしなくていいよ、困ってたら助ける。逆に俺が困ってたら助けろよ?」


 天宮兄は思っていた以上にいい人だった。

 

「私は天宮三春みはる、紗優と結乃、櫻の母です」

「で、俺が天宮豪造。天宮家の現当主だ。結乃が友達を連れてくるなんて、俺は感動しているぞ!」

「……」


 結乃は無言だった。

 家族相手でも、相変わらずの無表情だ。


「そういえばユウナの墓参りへは行ったのか?」

「はい、私と一緒に行きましたよ」


 豪造の質問に結乃が答える。

 ユウナとは、おそらく東雲優凪の愛称だろう。

 そう呼ぶということは、天宮豪造と東雲優凪は仲が良かったのだろう。


「そうか、まあわかっていたがな」

「お父様も墓参りを?」

「ああ、なぜか今日は顔を出さないといけない気がしてな。そしたら、紫色の花が置いてあってな。ユウナは花は好きだが、基本的に色しか見ていなくてな。特に紫と赤が好きだった。少し雑なところがユウナらしい。たまたまかもとは思ったが、君の名前を聞いて確信したよ」


 豪造が俺を見る。 

 その瞳には圧があり、俺は金縛りに似た状態になった。


「東雲凪…。ふむ…どうやらまだ悪夢から目覚められていないように感じるな」


 豪造の言葉で俺は心を見透かされた気がした。

 このおっさん、メンタリストいけるんじゃないのか。


「おっと、食事中にする話ではなかったな。思う存分食べていくといい。それと食後は風呂に入るといい。準備はすませてある」


 普段口にすることのない高級食材をこれでもかと使った料理を堪能し、銭湯と間違える規模の風呂で一日の疲れを落とした俺は貸してもらっている部屋へ向かう。

 その途中、豪造と会った。


「本当に、食事も風呂も何から何までありがとうございます」

「気にするな。それより、風呂上がりにおすすめの場所があるんだ」

「おすすめの場所?」

「ああ、今日ユウナの墓参りへ行ったのだろう?」

「…はい」

「そこはな、ユウナが気に入っていた場所なんだ。昼は花畑が綺麗だったろう?しかし、夜はもっとすごいものが見れるんだ。気が向いたら行ってみるといい」


 そう言うと豪造は歩き去っていった。

 天宮家の人間は何を考えているのかよくわからない。

 俺は部屋へと戻り、寝ようとした。

 今日はすでにラルドという騎士に殺されかけたせいで疲れた。

 もう外を歩く気力なんてない…


 ふと、窓の外を見れば綺麗な夜空が広がっていた。

 その景色を見ると、あの場所に行こうかと一瞬思った。


(っと、待て待て。なんで行かなきゃいけないんだ?)


 窓から目をそらし、瞼を閉じる。

 

「あー、くそ」





 結局、俺は例の場所へと足を運んだ。

 

「すごいって、自然の景色じゃなかったのか」


 花畑の地面に光源が埋められているのだろう。

 地面から出る光が適度な光度で花に当たっている。

 豪造が言ったすごいものとは、これことだろうか。


(綺麗ではあるが、そこまでだったな)

 

 特にすることもないため、帰ろうとした瞬間。


「?」


 ふと人の気配を感じた。 

 振り返り、周囲を見回す。


「気のせい…じゃないよな」


 師匠の墓がある場所、大きな木の下に人影を見つける。

 佇まいからして女性…おそらく剣術の腕は師範クラスだろうな。

相手もこちらに気づいたのか、顔がこちらを向いた。


 微妙に暗くて顔がはっきりわからない。

 まあ、雰囲気からして墓荒らしでもなさそうだし、ここはおとなしく戻るか。と、考え背を向けた俺の耳に一瞬、風を切るような音が聞こえた。

 すぐさま音の鳴った方を見ると、フードを深く被った女いた。


「誰――」

「――動かないで」


 女の手に持つ刀の刃が俺の喉元まで迫っていた。

 本来であれば、喉元に迫る刃に意識が向くだろうが、今は違う。

 

「その声……お前…」

「驚いた。まさかあんたがここに来るなんて。今更ここへ何しにきたのかしら…凪」


 女はフードを脱ぎ、かすかな光すら反射する美しい金髪と、すべてを見透かすような碧眼を露わにする。

 

「優……」


 まさか、こんな場所でが揃うとは思わなかった。


 

 

 

 


 

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