騎士

 静かな森を進んでいく。


「ところでこのゲートの名前は結乃がつけたのか?」

「いいえ、私はつけていません」

「ん?」


 ゲートに名前を付けるとき、大体はゲート内の雰囲気や危険度などで名付けられる。

 名づける人間は、基本的にゲートの第一発見者だ。

 

「じゃあ、だれがこのゲートの名前を?」

「教えてもらったんです」

「は?」


 その瞬間、悪寒がした。


「!?」


 何か…いる。

 誰かが俺のことを見ている。

 しかもただ見ているだけじゃない、ものすごい殺意だ。


「流石ですね。お父様はこのあたりで私を連れ、入口へ引き返しましたよ」

「天宮家の当主が…か。ところで、なんで結乃はそんな平然としているんだ?」

「私は何も感じませんから」


 涼しい顔のまま結乃は進む。

 



 数分間、歩き進んでいると前方に柱が見えてきた。

 

「ようやくか」

「はい、ここが今のところ確認できている最奥です」

「確認できている最奥?さっきの話だと天宮当主は途中で引き返したんだろ?確か超級のハンター資格を持ってるんだろ?それだと…国家戦略級ハンターがここへ?」

「いえ、私です」

「……」


 平然と答えた結乃を見たまま、俺の思考は停止しかけた。


「今なんと?」

「私です。ここまで辿り着いたのは私だけです。実は、お父様に内緒でここに来たことがあります」


 このお嬢様のメンタルに驚く。

 結乃の話では、当主やその他ハンターもおぞましいほどの殺気を感じていた様子。俺も例外なく感じている。一人だったら、すでに帰っているレベルだ。

 そんな中、結乃は何も感じない…まるで、この空間が人を選んでいるかのような…


「東雲君、気を引き締めてください。門番がいます」


 柱に触れることができないように張られた結界のような物。

 そして、唯一結界が貼られていない場所の前には、鎧を身に纏ったナニカがいた。


「なんだあれ…」


 鎧を着た騎士らしき者から放たれるオーラは、超級級のハンターすらも逃げ出すレベルでヤバい。 

 俺は東雲優凪という英雄の身近で過ごしていたから、なんとなく理解できてしまう。

 あの騎士からあふれ出る殺意、威圧感は国家戦略級のハンターのさらに上…超越者と同等だと。


「結乃、今すぐに引き返そ――」

「何処へ行く?」


 その声が聞こえたと同時に、俺たちを囲むように結界が生成された。

 

「!?」


 咄嗟に門番の騎士に視線を向ける。


「さあ、新たなる英雄の素質がある者よ。私を討ち、この『追憶ノ双生』に終焉を…」

「追憶ノ…双生?まさか、結乃」

「ええ、私はこのゲートの名前を彼から聞きました」

「詳しくは生きてこの場所から出れたら聞く」

「気を付けてください」


 結乃は少し離れた位置へ移動するのを見届けて、俺は刀を握る騎士に近づく。

 

「討ち取れ言われても、武器もってきてないんだ。何かないか?」


 俺の予想だと、この騎士みたいな奴は殺人を目的としていない。

 そして、いつでも不意打ちができる状況であったはずなのに、こうして堂々と目の前に出てきた。

 まあ不意打ちせずとも余裕で殺せる実力がある、という可能性もあるが、一連の行動から見るに殺す以外に目的があるように見える。

 だからこそ、この騎士は俺に武器を渡すはずだ。


「ならばこれを使え」


 そう言って騎士は自身の持っていた刀のような物を俺に投げてくる。

 思った以上に軽く、鞘から抜くと刀身が輝く。

 予想通りで少し安心すると同時に、渡された刀のすごさに目を見開いた。

 

「私はこれを使おう」


 騎士は近くに放置されている剣を手に持つ。


「これはかつて私に挑んで敗れた者たちの武器だ。さあ、貴様も同じ道を歩むか…見せてもらおう」


 剣を構えた騎士を目の前に、額から流れる汗を袖で拭う。

 

「これは結構ガチでまずいやつかもな」

「いざ、尋常に勝負!」

 

 

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