デート?③

 なぜか結乃に手を引っ張られ、付近の住宅街へ到着した。


「用事か何か?」

「用事…と言えば用事ですね」

「ほう…で、具体的に何の用事で?」

「買い物です」


 買い物…何か重要な物を買うのだろうか?

 そうだとしても、なぜ俺まで…まあ一応デートだしな。多分。


「ここです」


 俺は視線を上げ、店を見る。


「花屋?」

「はい。今日は天気が良いので」


 天気のいい日に花を買う。

 ということは誰かの見舞いか…墓参りか、それとも誰かの誕生日か?


「おお、結乃ちゃんじゃねぇか」

「はい、今日はお墓に花を添えようと」

「そう言うことか…好きな花を選ぶといい」


 口調は優しいが、体はもの凄くイカツイおっちゃん。

 おっちゃんは花に丁寧に水をあげていた。

 人は見た目によらないといういい例だな。


「ところで結乃ちゃん、そこの彼は?」

「今通っている学校の友達です」

「へぇ、友達ねぇ…。おい、ガキ。もし結乃ちゃんを泣かせてみろ。ケジメつけにお前を地獄の果てまで追い詰めてやる」


 人は見た目によるかもしれない。

 

「おじさん。彼はそんな人じゃないですよ。不良の恰好をしているのは彼の…趣味?」

「え?脱いでよかったの?じゃあもう脱ぐよ?マジで」


 『花屋』のおじさんこと花田哲太と睨めっこをしていた俺に結乃が言った。


「東雲君、あなたも花選び手伝ってください」

「え?俺も?」

「ええ」

「墓参りって言ってもなぁ…、俺花詳しくないんだよ」

「直感でいいですよ。そもそも期待してません」

「随分直球に言ってくれますこと…」


 店内に並べられている花に一通り視線を向ける。


「あれは…」


 無意識に俺はとある花を手にとった。


勿忘草ワスレナグサですね。東雲君、その花に思い出でも?」

「ああ、この花はし…母さんが好きだったんだ」

「そうですか…それはちょうどよかったですね」

「ん?それはどういう…」

「おじさん、この花と彼の持っている花を買います」





「それにしても今日はラッキーですね。まさか無料で貰えるとは思いませんでした」


 そう言いながらやってきたのはお墓…というより……


「花畑?ってか広いな」


 見渡す限り花だらけで、色も鮮やか。

 ここだけ日本じゃない、別の世界に来たみたいだ。

 だが、ここは一体……


「ここは天宮家が所有している土地なので、安心してください」

「すごいな。それで、墓参りとは?」

「この花畑の中心にお墓があるんです。そうですね…あそこを見てください」


 結乃が指さした方角へ視線を向けると、一本の木が生えていた。

 

「なんだあれ…鮮やかな紫色の葉っぱ?いや、花か?」

「あの木は名前がないんです」

「名前がない?」

「はい…」

「植えた人に聞いたりとかしなかったのか?」


 俺がそう言うと結乃はこちらを見てくる。

 

「ん?おかしなこと言ったか?」

「…この木を植えた人、あなたなら知っていると思いますよ」


 結乃はそれだけ言うと、木に向かって歩き出した。

 

「俺なら知っている?どういうことだ…」


 考えながら結乃の後を追う。

 俺の知っている人物、木…植物か何かに関係している人か?

 あっという間に木の元へたどり着く。

 

「すごい木だな。まるでこの世界のものじゃないみたいだ」 

「この木を植えた人は、このお墓に眠っています」


 そう言って結乃は花をお墓に飾る。

 視線を下げ改めて墓を見る。

 その瞬間、墓に刻まれた名前を見た俺の思考は完全に停止した。


『東雲 優凪』

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