デート?

「おはようございます」

「おはよう…。あの、結乃さん?」

「なんでしょう?」

「後ろにある車と、ボディガードさん方は一体…」


 いつも通り無表情であいさつをする結乃の後ろには、黒スーツを纏った男女が数人いた。

 いや、普通に落ち着かない。

 ってか今日、一応デートって認識でいいよな?

 今時のお嬢様って、デートの時ですらそばにボディガードを待機させるの?

 やりずれぇよ。


「ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。目的地に到着後は離れてもらいますので」

「目的地?」

「伝えていませんでしたか?あなたに土日に予定があるか聞いたとき、土日どちらも暇そうだったので、1泊2日のデートにしました」

 

 結乃の口から衝撃的な事実を告げられ、俺の頭は一瞬フリーズした。


「いやいや、ストップ。さすがに1泊はまずい。家には弟や妹が…」

「それなら心配いりません。あなたの家族のお世話係として堂島さんを送りました」


 彼女はそう言いながら、俺にスマホを渡してきた。

 何かと思い画面を覗くとそこには…


「兄ちゃんだ」

「お兄だ」

「え?ナニシテンノ?」


 弟と妹が楽しそうな表情で映っていた。


「今日からお兄デートでしょ?」

「僕たちのことは気にせずに楽しんでね」


 なんかすごい勘違いをしてない?


「あ、それと私たちのことは心配しなくていいよ。ね?ドウ子ちゃん」

「そうよ~、私が二人の面倒を見るから楽しんできてちょうだい」

「いや、あんた誰?」


 二人の背後に映ったメイド服を着た筋肉のすごいおっさん…いや、バケモノが笑顔でフライパンを持っていた。


「軽く狂気だな…」


 ビデオ通話を終了させた結乃は、スマホをポケットにしまった。


「では、車へ」


 俺が乗車すると共に、車が発進した。

 



 車内の空気は一言で言えば、最悪に近い。

 元々口数の少ない結乃は一言もしゃべらず、ボディガードたちはずっと俺を見ている。

 気まずすぎる。

 せめて、この場にコミュ力おばけが存在すれば……。

 そんなことを思っていると、車が停車した。

 そして、開いた扉から誰かが乗ってきた。


「あら?東雲くんじゃないですか」

「マジか…」

「結乃…もしかして」

「紗優、その話は後にしましょう」


 結乃の言葉で紗優は黙った。

 マジでこの状況をどうにかして欲しい。

 そう願っていると、またも人が乗ってきた。


「おはようマイシスター!って、あれ?紗優と結乃の知り合い?」


 乗り込んできた男は俺を見た瞬間、紗優と結乃の二人に訊く。


「結乃のお友達らしいです」

「え?友達…ってことは――」

「――お兄様、静かにしましょう?」

「……おーけ」


 兄すら一言で黙らせるとは、ってか空気がさらに重くなったのだが?

 

「黙っているのは窮屈ですね。東雲さん、ゲームをしませんか?」


 無言の空気を壊したのは天宮紗優だった。


「ゲーム?車の中で?」

「ふっはっは。聞いて驚くなかれ。この車の車内はボタン一つで、椅子の配置が換わるのだよ」


 天宮兄が説明をした直後、椅子の配置がゆっくりと変化した。

 一つのテーブルを囲むように配置された椅子。広い車内のおかげで、あまり窮屈ではない。


「では、東雲くん。ルールの知ってるテーブルゲーム…いえ、なんでもいいです。言ってみてください」

「オセロ、チェス、ポーカー、ババ抜きなら知ってる」

「そうですか。オセロは持っていないですね。トランプとチェス盤はあります。私と東雲くんの勝負なので、チェスが良いでしょう」

「チェスね、了解」


 こうして、車内で天宮紗優とチェスで勝負することになったのだった。



 

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