ハンター②

 俺こと東雲凪はハンター資格を持っている。

 別にこれは隠していたことではない。

 単純に話すような関係の人間がいないから、誰にも認知されていなかった。

 それが入学数週間後の今日、バレてしまった。


 学校が終わり一人帰路につく。

 俺の親友たるハルは交友関係が広く、今日は友達とカラオケに行くらしい。

 まったくもってそのコミュニケーション能力を俺にも分けて欲しい限りだ。

 靴箱から自分の靴を取り出し、校門を通過する。

 その途中、俺に対する陰口が聞こえてくる。


「おい、あいつ…」

「ああ、おそらくあいつだ。魔力9のくせにハンター資格持ってるらしいぜ」

「確か中級だっけか?」

「マジ?じゃ、俺も中級とってくるわ」

「あまり大きい声だすと聞こえるぞ」


 丸聞こえですとも小童どもが。と、言ってやりたいがそうもいかない。

 ここで悪目立ちするのは避けるべきだ。


「東雲君」


 物凄く聞き覚えのある声…これは天宮さんだな。

 天宮…結乃……、あれ?天宮……

 俺の脳内にとある一場面が再生された。


『それで、俺に用事?』

『はい、放課後でいいので少し付き合ってください』


 ……まずい。

 普通に忘れて帰ろうとしてた。


「あ、天宮さん」

「天宮は二人います」

「結乃さん」

「正解です」


 相変わらず無表情、だけど俺が名前を呼ぶ瞬間だけは少し嬉しそうだ。


「相変わらず良く見分けられますね。それで、今からお帰りですか?」

「はは…まさか、結乃サンを待って――」

「――忘れてましたよね?」


 無表情だからこそ、見つめられると怖い。

 無言の圧に耐えかねた俺はすぐさま謝る。


「ごめん、完全に忘れてた」

「正直でいいですね。それじゃあ、行きましょうか。周囲の視線をこれ以上集めたくはないでしょう」


 そう言われて俺は周囲を見渡す。

 すると、チラチラと俺たちを見てくる生徒たちが多…いや、めっちゃいるなホントに。

 足早に学校から距離を取り、結乃に訊いた。


「それで、聞きたいことがあるんだろ?ハンター資格のこととか」

「それもあります」


 天宮結乃が何を考えて俺に接触をしてきたかが不明なこの状況。

 どれが最善なのか判断に苦しむ。

 しかし、こんな純粋(?)な目を向けてくる少女の誘いを断る…そんなことは俺にはできそうにない。


「じゃあ近くにゆっくりできる店が…」

「じゃああなたの家で」


 結乃と言葉が被る。

 

「え?」


 思わず間抜けな声を出してしまうほど、理解不能な言葉が聞こえた。

 流石に幻聴だろうと思うことにしよう。


「結乃さん…どちらに行こうと?」

「あなたの家ですが?」


 そんなナチュラルに言えることじゃなくね?

 こんなすんなりと男の家に…しかも、今日初会話した俺の家に来ようとしている?

 怪しい…とても怪しい。

 




 道中、別の場所を進めたりしてみたが、全く効果はなかった。

 おかげ様で俺の家の前までノンストップだった。

 

「ここが俺の家だ」


 そう言いながらインターフォンを鳴らす。

 

「はーい」


 中から元気な子供の声が聞こえると同時に、玄関の扉が開かれた。


「あ、お兄――え?」

「シグ兄、どうし――あれ?」


 目の前には固まるマイブラザーシスター、隣には相変わらずの無表情な結乃。


「オッケーお前ら、何も言うなよ」




 二人が何か言う前に、天宮を自分の部屋に連れ込んだ。


「東雲君に弟や妹がいたなんて知りませんでした」

「あー、血はつながってないけどな」

「血はつながっていない?」

「ああ、拾い子なんだよ。二人とも」


 俺の言葉を聞いた結乃は考える素振りを見せた後、訊いてくる。


「そう言えば、ご両親は――」

「――いないよ。この家には俺と弟の時雨と妹の舞花の3人だけだ」

「おおよそ理解しました。あなたがハンター資格を持っている理由を」

「察しが良いことで」


 突如、天宮結乃から放たれる雰囲気が一変した。


「短い時間でしたがあなたと過ごして確信しました。これから私はあなたに頼み事をします。これはあなたにしか頼めないと思ったからこそする、頼み事です」

「え?そんな重い頼み事なら断――」

「――私と友達になってください」

「……Oh、マジか」

 

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