ハンター

――4限目 実習(魔法学)――


 魔法理論にて基礎的な魔法の詠唱を覚えた俺たちは、早速実践してみることになった。


「俺は楠乃勝司でーす。お前ら今日魔法学二時間もあんのか…お疲れ」


 担当教師はチャラい男だった。


「俺の魔法の先生のイメージが崩れた」

「ああ、もっと知的な先生かと」


 一部の生徒が不安を隠せずに小さな声で話していた。

 まあ見た目と口調からして不安要素しかないのはわかる。


「えーっと、さっきの魔法理論の授業でそれぞれ適性を見つけているはずだから、その属性の魔法を打ってくれるかな?じゃ、出席番号順に並んでー」


 楠乃の指示で俺たちは出席番号順に並ぶ。


「まずは明石くん」

「はい」

「君の適性は何かな?」

「風です」

「オーケー、じゃあ風魔法をあの的に向かって放ってくれるかい」


 楠乃が指差した先には的があった。

 生徒と的の距離は大体20mで、初心者が当てるとなると少し難しい距離に感じる。


「【吹き荒れる風よ、我が前に顕現し敵を薙ぎ払え】」


 明石が伸ばした手から風の刃が放たれ、見事的に命中した。

 その瞬間、周囲から歓声が上がる。


「すげぇ、あの距離の的に当たったぞ」

「流石、うちのエースじゃね?」


 周囲の盛り上がり方に俺は内心驚いていた。


(あの距離でこんなに驚かれるのか…。俺の知ってるやつらなら、腹抱えて笑うだろうな)


 そんなことを思っていると、いつの間にか俺の番が回ってきた。


「次は東雲くーん」

「はい」


 名前を呼ばれた俺は先生の元へ移動する。

 その間に俺は風魔法の詠唱を思いだす。

 【吹き荒れる風よ、我が前に出現し敵を薙ぎ払え】だったか?いや、【吹き荒れる風よ、我が前に顕現し敵を吹き払え】だっただろうか?

 ……よし、思いだした。

 

「それじゃ、君の適正は?」

「風です」

「的を狙って打ってみて」


 俺はに狙いを定めて詠唱を開始する。


「【吹き荒れる風よ、我の前に顕現し敵を薙ぎ払え】」


 俺の手から風の刃が放たれ、的に見事命中。さらには、的を砕いた。


「「は?」」


 クラスメイトたちの間抜けな声を聞いた。

 周囲を見ると呆然と砕けた的を見つめる生徒たちの姿が…。


「あちゃー…、そりゃそういう反応なるわー」


 楠乃は楽しそうな表情のまま言った。


「先生、どういうことですか?彼…東雲君の魔力量は〈9〉じゃ…」

「本当なら次の授業で話そうと思っていたんだけど…、皆気になるよな?」

「「はい」」

「だよねー」


 生徒たちの食い気味な反応を見て苦笑いしながら、楠乃は頭を掻く。


「まずは魔力量とは何かな?えーっと、そこの君」


 楠乃は一人の女子生徒を指名する。


「え?はい…。魔力量はその者が保有する魔力の総量であり、魔法の威力や規模の大小にかかわる要素です」

「うんうん。魔法の規模・威力関係している要素は?」

「…魔力量です。魔力が多ければ規模も威力も大きくなります」

「うーん正解っちゃ正解。ちなみにこれが魔法研究大学の入試試験なら減点な。魔法の威力や規模ってのは、ぶっちゃけ熟練度ってものなんだ。簡単に例えるなら水鉄砲かな?水の量が魔力量として話すぞ。例えば明石君は、魔力量が超級レベルだ。でも、それは魔力量だけの話。水鉄砲は水の量が多くても、ただ長く水を出すことができるだけだろ?水の威力は上がるか?普通は上がらないだろ。水の威力を上げるにはどうする?はい、東雲君」


 突然当てられたが、問題はない。


「水を出す部分、射出口を広くすることと、押し出す力を強める」

「ほう、やっぱ君は魔法についてある程度の知識は持っているようだね。射出口が広ければ大量の水が出る。よって範囲に大幅に変化がでる。水鉄砲の射出口は人間で言うところの魔力回路だ。魔力回路を強化させることにより、出力の上限に変化がでる。それが水鉄砲でいうところの押し出す力になる。この二つが皆よりも優れていた、というのが東雲君が魔力量の割に威力が出ていた理由だよ。魔力回路を成長させる方法は簡単。ただただ魔法をどんどん使えばいい。そのうち、それぞれに見合う魔力回路になるだろう。魔法の世界じゃ魔力10が魔力60の人間より威力が高いなんてありえない話じゃない。まあ連射や持久力に関しては努力じゃ補えないがな」

「そうなのか…、っていうかなんで東雲は威力が出てんだよ?」

「そうよね……って、あれ…確か私たちの同級生に何人かハンターの資格を持っている生徒がいるって…」


 陽キャ集団の女子生徒がそこまで言った時、楠乃が少し驚いた顔で言った。


「あれ?君たち聞いていなかったのか?今年の新入生の中に数人いるハンター資格を持っている生徒。そのうちの一人が彼だよ」


 次の瞬間、クラスメイトたちから向けられる視線に胃を痛めた。



※ 一部の優秀な学校では初級のハンター資格は持っていて当たり前となっているため、ハンター資格を持つということは中級以上を持つという意味になっている。

 









 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る