やらかし②

「すげー、さすが英専(国立英雄育成専門学校の略)だな。設備がガチだ」

「最初の実習までに約2週間。待ち遠しくてしょうがなかったな」

「それな」

 

 授業が始まる2分前には、クラスの賑やかな男子達が来ていた。

 もしあのグループに近づいて「俺も入れてよ」なんて言ったら、どんな反応を見せてくれるのだろうか?

 「は?」とか「何こいつ」って言われたらダウン。  

 「いきなり何、どっか行って」は瀕死寸前。

 「何こいつキモいな」は人生終了の合図となるだろう。

 流石にあのグループに話かけるのはハイリスクすぎる。

 

「全員、整列してください」


 入り口から先生が入ってきて、俺たちに整列するように指示する。

 

「全員揃いましたね?私は2年の魔法学を担当している水野かえでです。今日からは魔法学はこの体育館で行われます。毎年、壊してしまうんじゃないのか?なんて不安に思う生徒さんもいるみたいですが、気にしないでください。体育館の壁は特殊な素材を使用しています。ここに超級のハンターがいれば、絶対に安心とは言えませんし、超人的なパワーをもっている――。っと、話がずれましたね。今日はスキル確認と魔力測定をしますので私が来ました。次回からは楠乃という1年の魔法学、そしてあなたたち2組の担任でもある先生が担当します。では、出席番号順に私の元に来てください」


 そう言って先生のもとに出席番号1番の奴が近づいて行った。

 先生の立っている場所の背後には、水晶のような物があり1番の男子が手をかざしている。

 

〈62〉


 水晶の表面に数字が表示された。

 その数は62。すごいのかどうかはわからない。


「この数字は…あなた名前は?」

「えっと、明石徹です」

「あなたの魔力量は素晴らしいですね。あなたの努力次第では卒業までに超級のハンター試験に挑戦できるでしょう」

「ありがとうございます」


 明石徹と名乗った生徒の話を聞いていた先程のグループのうちの一人が、先生に質問した。

 

「先生、その数字のすごさが分からないです」

「ああ、教えていませんでしたね。今から説明します。まずこの水晶玉のようなものは、魔力測定をしてくれる道具です。1~10の数字は魔力が一般人より少ないとされ、10~30は平均的です。30~50は平均よりも少し高く、50~60は上級ハンター程度。60~80は超級に匹敵します。80~100は国家戦略級のハンターと同等です」

「それじゃあ、魔力の上限は100ってことですか?」


 その質問を聞いた瞬間、先生はにやける。


「ふふっ、ここからは夢がある話になりますよ。この100という数値は去年、日本で一番魔力量が多いハンターさんを基準にしてるんですよ。現在は100から上の魔力値は日本では9人しかいません。そのうちハンターとして活動しているのは2人です。代表的なのはハンター協会のトップである賀茂憲明さんですね」

「へぇ、じゃあ明石ってすごくね?」

「確かに、魔力60越えだろ?天才じゃん」

「安心して下さい。努力で魔力量は変化する可能性があります。もちろん不向きな生徒さんもいるでしょうが諦めずに努力することが重要です」


 その様子を見ている間に、明石は笑顔で2番の生徒に近づく。


「次は君だよ」

「ああ…」


 おそらく明石という人物は、人とのコミュニケーションが得意なのだろう。

 まあ、賑やかな人達の中にいたから簡単に予測できるか。

 顔の良さ×魔力量が多いは陽キャの必須条件だろう(偏見)

 もしやこのクラスでぼっちって俺だけでは?


〈24〉


 2番の男子は24…平均的な魔力量だ。

 

「あ、忘れていました。スキルを持っている生徒は、こちらへ来てください」

「スキル持ち?なんで?」

「あー、スキル持ってれば魔力量あまり関係ないもんな。噂じゃこの学校、魔力量も個人評価に入っているらしいからな」

「マジかよ。下手な数字だせねぇな」

「ってか、このクラスにスキル持ってるやつなんていんのか?」

「ほら天宮さんがいるじゃない」


 先生の言葉でクラスメイトたちが、興奮気味に騒ぎ出す。

 気持ちはわからなくもない。

 なぜなら、スキル持ちとはこの世界の勝組であり、人類の最高到達点と言われる超越者となる可能性が高いからだ。

 そんな人物と友人関係を築ければ、将来的に自身のメリットになる。

 クラスメイトの一人が歩いて先生の元へ近づいた。


「あの子…」


 綺麗な黒髪を腰まで伸ばした美少女だった。

 …どこか見覚えがある。


「あなたは…天宮結乃さん」


 天宮?やはりどこかで…。


「あの天宮紗優さんそっくりじゃん。ってか名前も同じじゃね?」

「知らねぇの?双子なんだって」

「双子!?ってことは…」

「ああ、どっちも天宮家の者だ」

「うはー、俺たちの代恵まれすぎじゃね?」


 たまたま近くにいた男子たちの会話を聞いた俺は納得した。

 確かに、見た目も紗優という少女とそっくりだし、雰囲気も似ている。

 でも、どこか危うい気がするのは気のせいだろうか?


「それじゃ、あなたのスキルを教えてもらってもいい?あ、知られたくないものなら、あとでこっそりと教えてください」

「大丈夫です。知られて困るものじゃありませんので。私の能力は戦闘向きとは言えないです。先生、何か壊れてもいいものを持っていませんか?」


 先生はポケットから鉱石のような物を二つ取り出した。


「これは少々珍しい鉱石です。モンスターたちが巣くう空間の裂け目、あなたたちが言うところの『ゲート』の中で見つけました。これでもいいですか?結乃さん」

「はい、十分すぎます」


 先生の取り出した鉱石に手を添える。

 次の瞬間、鉱石が光り輝く。

 数秒後に光は消え、二つあったはずの鉱石が一つになっていた。


「あれ?一つだけ?もう一つは…って、これはすごいですね。物質の合成ですか」

「はい、私のスキルは『合成シンセシス』です」


 

 


 

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