はじまり②
――凪視点――
入学して二週間が経過した今でも、俺は友達と呼べる存在がクラスにいない。
原因など追究する気にはならない。
なぜならば追及するまでもなく、自覚しているからだ。
入学以来、俺はクラスでの友達作りに失敗している。
唯一話せる同中(同じ中学)の奴らは見事に別クラス。
まるで誰かが意図的に俺を孤独にしようとしているかのようだ。
あまり喋り上手ではない俺は、寝るという選択肢を取るしかなくなり、結果今日までクラス内で交流のある人物はいない。
「すみません」
教室に入って早々、うつ伏せで仮眠をとる俺の耳に聞き覚えの無い声が聞こえた。
「え!?
「落とし物を届けに来ました。えーっと、『東雲凪』という人がいると思うのですが…」
天宮さんの口から『東雲凪』という名前が出た瞬間、教室内の生徒の大半が固まる。
そして、落とし物をした張本人たる俺は寝ているフリをする。
俺は人間を見る目には多少の自信を持っている。
そんな俺が一目見ただけで、関わらない方が良いと本能が警告する人物『天宮紗優』に接点を持とうと思うだろうか。
否。断じて否だ。
「東雲君はなぜ寝たふりをしているのでしょうか?」
何故か一瞬で見抜かれた。
このまま続けてもいいが、後のことを考えるとあまり得策ではない。
ため息を抑えながら顔を上げる。
「天宮さん。俺に何か用事?」
印象が悪すぎるな俺、と心の中でツッコむ。
「登校中にあなたのハンカチを拾ったので、届けに来ました」
そう言って天宮さんは、俺のハンカチを広げた。
まさか落としていたとは…、まったく気がつかなかった。
「わざわざありがとう。それにしても、なんで俺のハンカチを?」
「困っているだろうと思いまして」
「まあ、確かにこの後困っていた可能性が高かった」
「役に立てて良かったです」
そう言って天宮さんはハンカチを差し出してくる。
俺は手を伸ばしハンカチを取ろうとした。
その瞬間、天宮さんの手が少し動き、俺の手の平に当たった。
「それでは、私は教室に戻りますね」
「ホントありがとな」
天宮さんの姿が見えなくなり、俺は再び机に伏せる。
先程の手の動き、少し違和感を感じた。
気のせいだといいのだが、なぜか嫌な予感がしてしょうがない。
というより、なんで彼女は名前も書いてないのに俺のだと断定できたのだろうか?
――天宮紗優視点――
ハンカチの持ち主である東雲凪という男の子に会った後。
私は彼の手の平に触れた手を見つめた。
「少し学校生活が楽しみになりました」
一瞬触れただけでもわかるほど、彼の手はとても硬かった。
おそらく私が今まで出会ってきた誰よりも硬い手。
「臼井さん」
近くにいた同じクラスの
「天宮さん?どうかしました?」
「少し良いですか?」
臼井と共に人気のない屋上へ移動する。
すると、臼井の態度は一変する。
「珍しいですね。お嬢様が学校内で私に声をかけるなど」
「ええ、そうね。少し気になる男子生徒に会ったの」
そう言うと臼井は目を見開く。
「それは素晴らしいこと、なのでしょうね。今まで男に興味を持ったことのないお嬢様が、まさか今日になって…」
「勘違いしないで?少しその人の手を触って、興味が湧いたの」
「え?ついにお嬢様が発じょ――」
「臼井!?何言ってるの!?」
思わず素の自分を出してしまうほど、動揺してしまった。
「はぁ、いつもそれなら愛嬌もあるのに…」
「マジメな話なの!」
「それで、その男子生徒の手が魅力的だったので、身元を調べて欲しいと?」
「…もうそれでいい。その生徒の名前は東雲凪」
「東雲…」
東雲という苗字を聞いた途端、臼井が考える素振りを見せる。
「どうしたの?もしかして知り合いだった?」
「いえ、知り合いではないです。…東雲一刀流というものを知っていますか?」
「もちろんです。日本の大英雄の流派を知らないなんてありえない。東雲という苗字は偶然かと思っていたけど…もしかして、その東雲一刀流と関係がある人物なの?」
「お嬢様の話を聞く限り、可能性は高そうです。それでは、私は調査班の方に連絡をしますので、お嬢様は先に戻っていてください、長居はバレる危険があります」
「わかった…じゃない。わかりました」
私が喋り方を戻したのを見た白井が、残念な物を見るような視線で見てくる。
「お嬢様…やっぱ愛嬌――」
「っ!?しつこい!」
少し強めに屋上の扉を閉め、私は教室へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます