1章 偽りの刀

はじまり

――西暦2025年 日本――



 大通りに並ぶ武器屋や防具屋。

 ビルに設置されている巨大な液晶画面に表示されているのは、異形の生物と戦う複数人の人間の姿。

 少し歩けば普通にいる、武器を携帯した人間。

 これは日本…いや世界各国どこに行っても変わりない光景となっている。


「おっす。って、どうしたお前。死にそうな顔してんな」


 肩を叩かれ振り返ると、そこには見知った顔の男がいた。


「はぁ、ハルか」

「おいおい、親友の顔みてその反応は流石にヒドくね?」


 俺の小言に笑って対応するイケメンの正体は、親友の新田晴馬だ。

 

「ソウダナ」

「うわ、適当」

「ほら、行くぞ。学校遅刻したくねーし」

「っと、そうだな。課題やった?」

「俺がやるような人間に見える?」

「いいや」


 何気ない話をしながら、足並みを揃えて学校へと続く道を歩く。

 

「そういや、凪はクラスどうなん?」


 凪というのは俺の名前だ。

 フルネームは東雲凪、どこにでもいる普通の高校生とでも思ってくれ。


「んー、わかんね」

「わかんねってお前な…。もうクラス決まって二週間ぐらい経つぞ?そろそろ友達の一人や二人作んねーと、これからの授業苦労することになるぞ」

「そうだな。頑張る」


 親友に痛い所を指摘され、気が重くなった俺は力なく返事をした。



――同時刻 近くの駅前――



「少しいいですか?」

「どうかなさいましたか?」

「気になるものが見えたので」


 そう言って少女は自動で開けられた車のドアから降りる一人の少女。

 黒く艶やかな長い髪、宝石のような蒼い瞳の美少女が一歩踏み出す度に周囲が注目する。

 

「なんだ…あの子」

「超絶美少女じゃん」

「ってかどこかで見たことあるよね?」


 美少女が足を止めた時、その目の前では若い男性二人が胸倉をつかみ合っていた。


「そこのお二人さん」

「あ?なんだお前」

「こちとら取り込み中なんすけど」


 男たちの意識は突然現れた美少女に向いた。


「立場わきまえろよ。俺らのこと知らねーの?」


 片方の男がそう言うと、少女は笑う。


「それはすいません。生憎、私の記憶の中にあなたたちの存在はないですね。腰に差している剣、明らかに安物ですね。もしかしてハンターの方ですか?」

「「なっ!?」」


 まさか少女の口からそんな言葉が出るは思ってもみなかった男二人や、周囲の人が驚愕する。

 そんな中、少女の口撃は止まらなかった。


「使われている素材もただの鉄、剣の刀身は少し短め。作成費用を削るためでしょう。その剣じゃ、戦えるモンスターはしれています。しかも、剣の刃がボロボロ。手入れすらしていない。熟練のハンターが武器の手入れをしないというのはありえません。そこから考えるに、あなたたちは無名のハンターですね。一応、覚えられるように努力はするので、お名前を聞いても?」


 少女は笑顔のまま。

 周囲の人たちは驚きを超えて、思考が停止しかけている。

 

「テメェ!クソガキが!ぶっ殺してやる!」

「子供だからって容赦はしねぇ。大人怖さを教えてやるよ」


 男たちは腰に差した剣に手を伸ばし、鞘から抜く。


「それを抜いたからには、覚悟してくださいね?」



――数分後――



「ここらで通報が…あれ?」


 誰かが通報したのか、警察がやってくる。

 しかし、どこを見ても喧嘩している男二人は見当たらない。

 

「先輩、あれ…」

「倒れてるな…男二人」


 流石に状況が理解できなかったのか、後輩らしき警察が近くにいた一般人に訊く。


「これは…けが人ですか?」 

「え…っと、そこの子が喧嘩している二人を…倒していました」

「「は?」」


 警察二人が間抜けな声を漏らした時、倒れた二人の男の傍に立っていた少女がこちらに寄ってきた。

 

「すみません。皆さんが迷惑していたので止めようとしたのですが、剣を抜かれたので制圧してしまいました。これから学校なんですけど、お時間が必要ですか?」


 少女の口調からして権力のある家の人間だと確信した。

 下手な手を打てば面倒ごとになると判断した警官は周囲を見渡しながら言った。


「この出来事について、誰か説明できる人は居ますか?」


 複数人の人が手を挙げた。

 表情と目線からして、少女の言っていることは信憑性が高いと思った警官が少女に言う。


「いえ、大丈夫です。目撃者もこれほどいれば、こちらでなんとかしますので。学校頑張ってください」

「ありがとうございます」


 そう言って近くに停まっている車へと歩き去る少女。

 そのまま車に乗るのかと思いきや、途中足を止め地面に視線を落とす。


「落とし物ですか」


 少女が手に取ったのは誰かのハンカチだった。

 

「名前が書いてありますね…、これは…」


 警察の一人が少女に訊く。


「落とし物だったら私が預かりましょうか?」

「いいえ大丈夫です。警察の人に迷惑はかけたくないので。それに同じ学校なので、ついでに届けることができます」

「そうですか」

「お嬢様、そろそろ本当に遅刻します」

「わかっています」


 警察の人に一礼をして、少女は車に乗り込む。

 すると車はすぐに発進し、見えなくなっていった。


「なんなんだ…あの子。先輩良かったんですか?」

「お前もこの業界で生きてくなら、人をよく見ろ。今の時代、警察なんて一般人の治安維持しかできない。俺らの仕事はあくまで一般人の対応のみだ。変にでしゃばれば命はねぇ」

「先輩」

「なんだ?」


 後ろで倒れてた二人の男の身元を調べていた後輩が声をかけてきたため振り返る。

 

「この二人…中級ハンターの資格持ってるんですけど…」

「はぁ!?中級だと?」


 先輩と呼ばれた警察官の男は空を見上げる。


「はぁ、とんでもねぇ世の中だな」





「いい仕事をしました」


 少女は車の中で嬉しそうに言う。


「お嬢様、別に放っておいても大丈夫だったのでは?」

「それは違いますよ。あのような人たちはハンターに必要ありません」

「…そうですね。ところで結乃様は車じゃなくて大丈夫でしょうか」

「大丈夫でしょう。結乃はとても強いですから」


 少女は拾ったハンカチを広げ、じっと見つめる。

 

「そういえばお嬢様。そのハンカチ名前などどこにも無いですけど、持ち主に心当たりが?」

「多少はありますが、調べてもらう必要があります」

「そこまでして拾う必要があったのですか?」

「もちろんです」

 


 


※備考

 ハンター資格とは、ハンターとして活動するための免許のようなもの。


 初級、中級、上級、超級、国家戦略級の5つが存在する。


 例外として一部の国家戦略級のハンターは超越者と呼ばれている。

 日本では現在までに超越者と認定されたのは2人のみ。


 






 

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