かつて存在した英雄たちへ
Oとうふ
プロローグ
この世界にはある日突然、人を襲う異形の怪物モンスターが現れた。
そこからこの世界は一変した。
『魔法』や『スキル』というものが現実となり。また、死というものが誰しもが身近に感じるものとなった。
私が今歩いている場所はモンスターによって荒らされ、無人となった町だ。
ほんの100m進めば必ず1体はモンスターと遭遇する。
もちろんこんな場所にただの一般人が住めるはずもない。
〈ガァァァ〉
狼のようなモンスターが飛び掛かってきたため、切り伏せる。
モンスターは基本的に人間しか襲わない。
いまだに謎は解明されていないが、ある意味人間によってくるため狩るためには都合がいい。
私は刀に付着したモンスターの血液を拭き取り鞘へ戻す。
「まったく、慣れないな」
私はハンターと言うモンスターを狩る仕事をしている。
モンスターを狩るためにゲートという空間の裂け目や、ゲートが崩壊し、中から溢れてきたモンスターの処理をするため、いろいろな場所に足を運んできた。
どれだけ場数を踏んでもモンスターによって荒れ果てた街などは慣れることがない。
苦痛の表情で息絶えている死体、あちらこちらから漂う血の匂い。
この場所にはさらに腐臭もある。
決して気分の良いものじゃない。
もっと早くゲートを攻略していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
どうしようもない思いを抱きつつ、私は再び歩き始めようとしたその時。
「はぁはぁ」
弱々しい呼吸が聞こえた。
音の発生源へ視線を向けると、小さな路地の隅の壁にもたれかかっている少年がいた。
少年の手には包丁が握られていて、その近くには複数のモンスターの死骸があった。
状況から見てあの少年がやったのだろう。
私は少年にゆっくりと近づく。
「私は東雲優凪、ハンターをやっているんだけど…君、言葉は喋れるかな?」
「……」
「ふむ、無視…ね。まあこの環境じゃあそのぐらい警戒しないと今日まで生きてないか…」
この無人街は地形やモンスターの強さから、数年間放置されていた場所だ。
ここにいて生きていると言うことは奇跡に近いだろう。
少年に対しもう一度声をかけようとした時、背後に数体のモンスターが現れ、一斉に襲い掛かってくる。
「…!」
目の前の少年がモンスターを見た瞬間、包丁を握る手に力が入った。
それを見て確信した。
この子はこの環境でも、誰かを守るために行動できる素晴らしい子だと。
すぐさま動こうとする少年の肩に手を置き、行動を制止する。
「…はは、つまらない仕事のはずだったけど、まさかこんなお宝があるなんてね。私は君がとても気に入った」
少年は私の行動が理解できず、呆気に取られていた。
「だから選んでほしい。このままここで朽ち果てるか。又は――」
振り向きながら刀を振り、目にも止まらぬ速度で背後にいた複数のモンスター全てを真っ二つに切り裂く。
そして少年へ手を差し伸べ言った。
「私の家族にならないか?」
――約1年後(西暦2016年)――
私は家族が何よりも大事だ。
1年前、モンスターによって無人となった町や村を巡っていた私は、二人の幼い子供を拾い、家族となった。
男の子には凪、女の子には優という名前を付けた。
自分の名前の一部をつけるぐらい、私は二人の事をとても気に入っていたのだ。
そして、今日も買い物のため二人を店へ連れていく。
「あら!優凪ちゃん、今日は特売日ですよ」
店の常連だった私は、店員と仲が良かった。
中でも
「へぇ、それは良いことを聞いた」
「凪ちゃん、優ちゃん。二人とも、ほらこれあげる」
美知枝が二人に差し出したのは、お菓子だった。
「ミチ婆、ありがとう。ほら優、お礼」
「みちばあ、ありがとう」
ミチ婆というのは美知枝の愛称のようなものだ。
私がいつもそう呼んでいるから、子供たちも同じように呼ぶようになった。
「いいのいいの、最近この店の外にベンチができたんだ。そこでお食べ」
ミチ婆と共に店の外にあるベンチに移動し、子供たちを座らせた。
そして私とミチ婆は少し離れた場所で、二人がお菓子を食べる様子を眺めながら話した。
「優凪ちゃんは時間大丈夫?」
「全然余裕だよ。上の連中を長期休暇をもらうために少し脅したからね。それでミチ婆、以前話したこと考えてくれたかい?」
「……優凪ちゃん。本当に行くんだね?」
「流石に今すぐにではないけどね。あの子たちが12歳になったら行くつもりだよ。今度は帰ってこれるかわからない…」
「……子供たちを置いて行くのかい?」
ミチ婆のその言葉が、私の心に響く。
「ふふ、ミチ婆。もう決めたんだ。私は結局、普通のままではいられないんだ」
「12歳は子供だよ。子供には親が必要だ」
「だからミチ婆に頼んでいるんだ。私がこの世界で心から信頼できる数少ない人だからね」
そう言うとミチ婆は少し寂しそうな表情で言った。
「こんな力の無い婆さんにゃ、子守りは務まらないさ」
「安心してくれ。二人ともに私のすべてを叩き込むつもりだ。自分を、友達を、家族を……守りたいものを守れるだけの力つけて、一人でも生きていけるように」
私がそう言うと、ミチ婆は笑った。
「はっはっは、優凪ちゃんも変わったねぇ。日本中から慕われている大英雄が、母親らしいことを言うなんてね」
「まったく、私だって母親だ。…いや、どちらかと言えば師匠か?」
ミチ婆と話していると、ベンチから声が聞こえた。
「ししょー!」
「おかあさん!」
子供達の楽しそうな表情を見たミチ婆は口を開く。
「やっぱりこんな婆さんにゃ子守は務まらない。だけど私の孫なら面倒を見れると思うよ」
「あー、あの子か。確かに真面目で面倒見の良い子だね。ミチ婆がそこまで言うなら…あの子には負担になるかもだけど」
「あの子は負担になんて思わないよ」
「そうか…安心した」
私は一歩踏み出し、ミチ婆に言った。
「その時がきたら二人を…”大英雄”東雲優凪の宝物、凪と優をお願いします」
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