肉集めの続きをしない?
あれから二日がたち、7月29日。僕を取り巻く状況はすっかり一変していた。
『現在『魔物調理』を保有し、モンスターと存在消失の関連性を見出した飯田氏の家の前に来ております! 周囲は取材陣で埋まっており……』
『飯田さん! 保持存在の件についてインタビューをしたいのですが、対応いただけないでしょうか!』
『モンスターの肉について、自衛隊への委託などを検討されているのでしょうか!』
『探索者協会の謝罪会見についてコメント頂けますか?』
『Hey、Mr.IDA!I need to interview you. Please……』
なり続けるインターホンを仕方なく押した瞬間、そんな数多の声が鳴り響く。怖くなった僕は無言でインターホンを切った。
保持存在の件は、かなりの大問題となっていた。そもそもダンジョンの死者が少ないことは以前からちらほら指摘の声が上がっていた。単純に子供たちを危険なダンジョンに武器を持たせて派遣するのはおかしい、という意見もあったが探索者協会が大丈夫だから、と太鼓判を押すことで今のシステムは成り立っている。
だが、保持存在の一件でそれらは完全に崩壊した。探索者協会は嘘つきで、ダンジョンは危険まみれ。自分の隣人や親類が、死んでいたことにすら気づけない。その恐怖は国を超えて一気に話題になった。
特に一部国家では小学生レベルからダンジョンに潜ることを許可しており、あふれ出るダンジョンへの恐怖と不信感は止まらず。僕の本名は当然のごとく特定され、朝っぱらから記者がおしかける事態になっていた。
「んなこと聞かれても、僕も分からないことばかりなんだけどね……」
そうぼやくものの、世界中の人から見れば僕が一番情報を持っているように見えるだろう。
まさかモンスターの肉より保持存在の方が話題になるとは、と苦笑する。山下防衛大臣の時はあったこともなく、しかもいないことが分かっただけと言う反応しにくいものだったからそこまで気にしなかったけれど。
そんなことを思いながらしれっと回収していたシャドウファングの生姜焼きを口にほおばる。うん、これは普通に美味しい。やっぱり素材と調理方法には相性があるよな、と頷きながら完食し、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
-----------------------------------------------------------------------
飯田直人 Lv41→45
スキル:『魔物調理』《食料保存》《解体》
『麻痺毒』《麻痺攻撃》
『炎魔術』《炎生成》
【保持存在:中山徹(16%) 葛西葛(43%)】 保持存在を解放しますか? YES/NO
-------------------------------------------------------------------------
僕は迷わず保持存在の解放を選ぶ。これできっと世界のどこかで彼らが消えたことが認知できるようになっているはずだ。
因みに〖バンデッド〗は昨日時点では動きが無い。マリナが自身のチャンネルに脅迫シーンをアップロードしたり、加治姉弟に被害届を出させたりしているようだ。しかしよくそこまで面倒見るな、と少し感心してしまう部分もある。
結局真宮マリナという少女はやはりお節介焼きなのだろう。困っている人、困難に気づけない人を見ると声をかけずにはいられない。
〖バンデッド〗の件を考えると、マリナの誘いは本当に僥倖だった。もしよく分からない探索者と組んでいたら、〖バンデッド〗に売られていたかもしれないもんな。
そう思いながら探索用の装備を準備する。いつも通りの槌、ソードブレイカー、簡易の調理セット、防具一式を用意する。ついでに上から羽織るフード付きのウインドブレーカーもだ。
そして窓から体を乗り出した。流石のマスコミと言えども、窓を監視するほどのガチ勢はまだ派遣していないらしい。ベランダに出て、そのまま一息に裏通りまでジャンプする。
そして僕は今日もダンジョンへ向かう。狙いは勿論、モンスターの肉である!
◇◇◇◇◇◇◇◇
「来たわね。アヤメは珍しくまだ来ていないわ」
「了解。ってそれ何だ?」
「ヒナノちゃんたちの弁護士さんから送られてきた資料よ。関わっちゃったわけだし、変な落とし穴が無いかくらいは確認しようと思って」
「まああいつら、国と繋がりがあるもんな」
ダンジョン入り口前のカフェで、僕と同じくフードを被ったマリナと合流する。マリナは分厚い本と紙の資料を何度も比較し眉をしかめている。あんな文章、素人が読んでも分からなさそうなのによく頑張るものだ。そう思いながら彼女の前の席に座る。
因みにダンジョン内には立ち入ることが可能だ。そもそも現時点でも存在の消滅については状況証拠しかない。故にデモをやっている人の姿は見えるが、入場規制を行える状況ではないのだ。
「あれから二人はどうだった?」
「ヒナノちゃんたちは一旦マゾブレード田中さんたちに預けてきたわ。今はきっとあそこが一番安全だから。それと『ドM☆連合ver2』との同盟について、今度改めて話をしたい、とのことだったわ」
「まあ結ぶしかないわけだけど」
「話の中心であるあんたが行かないと話にならないでしょうが」
適当にコーヒーを飲み、しばらく待っていると待ち人来る。僕らと同じくフードを被った月城さんがやってくる。彼女は近づいてくると、僕の目をじっと見つめてくる。え、僕何かしたっけ。やったことと言えば唐揚げ作ってと何度もお願いされたのに創作料理や生姜焼きのリベンジを始めちゃってすっかり忘れてたことくらいだけれど……。
そう思っていたがやはり特に意味は無いらしく、月城さんは手を上げて挨拶してくる。
「おはよう飯田君、マリナさん」
「おはよう、今日もよろしく」
「おはよう。今日もこいつが暴走しないよう前衛頼むわ」
「ふふ、了解です!」
以前と方針は変わらない。今日の目的はやはり〖バンデッド〗対策のLvアップ、つまりモンスターの肉集めである!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます