第46話 大臣の視察

「……いや驚いたものだな……。まさかあそこまで強大な力を秘めているダンジョンを作り上げているとは……。まさに驚天動地だよ……。」


 何とかDとの会談も上手くいき、流石の田中大臣もぐったりと疲労していた。初めはまるで警戒している猫のようにフシャー!!と爪で引っ掻かんばかりのDであったが、所詮世間知らずの引きこもりが百戦錬磨の人たらしの政治家に叶うはずもなかった。田中大臣も表面上は和やかに会話を行っていたが、内心では必死になって警戒心を和らげようとしていた文字通り背水の陣だったのだ。

今回は何とか顔つなぎでうまく行ったが、それでダンジョンが生み出す資材を自由にこちらで操作できるなどと考えてはいない。

まずは粘り強く何回もDと交渉を行い、お互い信頼関係を築かなければならない。


「あのダンジョンはね、まさに『おもちゃ箱』『びっくり箱』だよ。何でも飛び出す、何でもありの場所だ。あそこをきちんと管理せねば日本が無茶苦茶になりかねん。」


 大臣が見たのは、大量の金銀がまるでただの石のようにそこらへんに山積みにされている姿。彼らからすれば金などその辺に転がっている黄色の石程度の価値しかないのだ。そんな多量の金が日本にばらまかれればそれだけで日本が混乱しかねない。さらにそれだけでなう、どうやら石油すら産出され、それらを制御し、Dのダンジョンと日本政府両方の関係を制御し、両方に利益をもたらす。それが政治家のやるべきことである、と彼は覚悟を決めているのだ。

 車の中で、彼は腕を組んで考えこむ。


「極秘資料には、宮内省では物理法則崩壊を阻止するべく色々な神秘……日本神との力を借りて結界も作っていると聞くが……あのダンジョンの結界と比べればまさに紙とコンクリ以上の差がある。何としても領地をもっと広げて防護してもらう土地を増やしてもらわねば困るな……。」


「ですが大臣。それでは日本の領土を事実上捧げるに等しいものでは……?土地を捧げるなど自らの首を絞めるようなもの。日本の国土を異世界の者に売り渡すのか?と保守派からは確実に怒号が飛びますぞ?」


「それでもやらなければなるまい。それが”大人”の役割だ。少年たちに日本の未来という重責を背負わせて、我らは何もせずに腕を組んで椅子を尻で磨いているわけにはいくまい?」


「大人には大人なりの意地がある、ということですな……。わ、分かりました。こちらも全力で各省に働きかけてみましょう。」


Dが生み出す膨大な金銀、そして食料などを放出するだけで価格破壊・価値破壊を行えるだけの十分な物量がある。しかもそれはどんどん膨れ上がることはあっても、縮小されることはない。今までは外の交流がなかったから物資は外には出なかったが、これから先、交流を行えばダンジョン内の膨大な物資が外に放出されることになる。

それらの制御を行い、価格破壊などをしないように細心の注意を払いながら放出する必要があるのだ。ダンジョン内部で生み出された物は、全て冒険省で管理するという法律が制定されている。この法律でゴリゴリにゴリ押して何とかするしかないだろうが……一省庁に日本の存亡がかかっているなど、やはり肩が重いな、と彼はため息をついた。

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