第45話 人たらし大臣と瑞樹

 そして、ついにDと外部……日本政府が繋がりつつあるのを見て、瑞樹は心の中で思わずガッツポーズを取る。

 Dには悪いが、「のし上がりたい」「偉くなりたい」と考えている瑞樹にとっては今の状況はまさに最良であった。このDのダンジョンはまさに何でもありの宝箱のような物である。そして、この宝箱の”鍵”は自分自身だ。そうなれば、上層部も自分自身を最重要人物として扱ってくれるはずである。だがしかし……。


(し、しかし……。まさかここまでお偉いさんと面会するとは……。)


 そう、今校長室で面会を行っているのは、山田校長と冒険省の大臣である「」である。大臣の圧倒的なカリスマによって部屋の空気は支配されており、瑞樹も目の前にいる偉い人間に対してガチガチに緊張してしまっている。

 それも当然である。今まで誰にも注目されずに底辺で3K仕事をしていた彼がいきなり大臣と面談するなど、緊張しないほうが難しいだろう。しかし、ここで大臣に対して大きなコネを作れるのは大きな進歩である。大臣がDの力の強大さをきちんと把握すれば、大臣とDとの間を繋ぐ自分は重要人物になれるはず……。とそんな風に考えていた際に、大臣はいきなり瑞樹に対して予想外の行動を取る。


「頼む!瑞樹くん!!私に力を貸してくれ!人類のために!日本のために!!どうか!!」


 いきなり土下座をしてきた大臣に対して、瑞樹は思わず腰を抜かしそうになった。まさか殿上人である政治家が自分に対してこんな事をするなんて全く予想外だったのだ。大臣は情報を集める事で日本が危機的状況にあるという事を正確に把握しているのだ。彼自身も色々動いているが、それでもこのままでは日本という枠組み自体がなくなってしまうと判断した彼からしてみれば、Dの凄まじい力とそれに対する伝手である瑞樹はまさに救いの蜘蛛の糸そのものであった。

 日本を守るためなら土下座ぐらいなら平気でする。それだけ気合の入った男が彼なのである。


「わ、分かりました!分かりましたから!あ、頭を上げてください!!」


(流石人たらしとも言える政治家……。子供をコロッと手のひらの上で転がすのは簡単か……。)


 校長はそう冷静な判断を行うが、ここで彼らの関係がこじれてしまってはそれこそ日本の未来が詰みかねない。特に生徒を悪意で騙しているという訳でもない、というから大目に見ようか……。と思いつつ、彼らに会議を続けましょう、と椅子に座らせて、会議を再開させていった。瑞樹も自分より遥かに上の権力を持つ政治家に土下座をしてまで頼み込まれては文字通り「飲み込まれて」しまっていた。

 いわゆる「人たらし」の能力を持つ政治家、それこそが彼の真の力である。

 相手を説得するためなら、初手土下座も平気で行う。自分が汚れることも日本を守るためならプライドを捨てることも厭わない。それが彼の誇りだったのだ。


(し、しかし、彼だけに全てを任せておいては大人の役割が廃るというもの。こ、このワシでもやれるだけのことはやらなければならんな……。)

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