第43話 奇襲と狙撃。
詩音からきちんとした情報を得て、その圧倒的なミスリルの剣の神秘やダンジョン外部・内部の防衛力などを見て、冒険校上層部はその強大さを正確に把握して大騒ぎになっている。冒険校は、さらにその上層部である冒険省に対して働きかけているのだが、本来は冒険校は冒険省に対して働きかける力などないが、それでも校長と詩音の政治力と影響力で何とか話を聞いてもらえるようになっているのだ。
だが、そのごり押しの中、予想外の存在が動き始めた。
「全く……何だよアイツらは!この優秀で優れた俺たちを白い目で見やがって!!」
「そうよそうよ!!使えない奴らを切り捨てて何が悪いのよ!!私たち優れた冒険者こそ生き延びる権利があるのよ!」
そう、それは瑞樹たちを見捨てた剣士と魔術師である。瑞樹たちを見捨てた彼らは、冒険校には戻ったが彼らは「仲間を見捨てて逃げ出してきた卑劣な奴ら」という噂が広まっており、周囲から白い目で見られつつあった。冒険者にとって仲間を見捨てて地上に帰ってくるのは仕方ないが、それでも自分の仲間を平気で見捨てるような人間は白眼視されるのは当然である。
(瑞樹たちはちょこちょこ冒険校に顔を出していたので無事を確認していたので、救助隊は出てなかったが)ともあれ、そんな皆から爪弾きにされつつある彼らが、逆に猛烈にLVを上げて皆や先生から注目されるのは、到底我慢できないことだった。
「あんなクソ野郎が……!!何で俺が認められなくてあんなクソが先生に認められているんだ!!こんなの絶対に可笑しい!!正当な剣士である俺の方がもっともっと認められるべきなんだ!!」
「そうよ!!尻軽クソビッチが!!ねえやっちゃおうよ!!「事故」起こしちゃおうよ!!幸いここにな武器は山ほどあるし……「訓練」での「事故」なら何の問題もなくあいつらを排除できる!!」
あれあれ!あれ使っちゃおうよ!!と女魔術師はクロスボウをこっそり持ち出してくる。別に弓でもよかったのだが、クロスボウの方が目立たないし静音性も優れている。あくまで「訓練だったが間違って撃っちゃった」という事で誤魔化す気なのだ。
……実際は訓練場でもない所から相手を狙って撃てばそれは訓練でもなんでもないただの狙撃だろう、と普通の人間ならば突っ込むだろうが、今の彼らにはそんなことは気づかなかった。
(へっへっへ……。俺は天才だからな。剣だけじゃなくてクロスボウも扱えるのさ!!来たあのくそ野郎の胸辺りにクロスボウを当てればそれで終わりだ!!)
彼は冒険校の門を見下ろせる空き教室内に隠れると、そこでひたすら瑞樹が来るのを待つ。そして瑞樹が帰る際に、クロスボウで瑞樹を撃ってやればいい。
矢というのは音がしないため隠密性に優れ、狙撃として最適である。しかもクロスボウは威力も十分すぎるし、これで当たれば間違いなく死亡するに違いない。そのクソ野郎な顔を吹き飛ばしてやるぜ!とひたすら彼は校門を見ていたが、ふと通りかかった彼の尊敬する先生である詩音が通りかかったのだが、ふと顔を見上げてこちらをじっと見る。
(まさかこちらに気づいているのか……?いや、そんな事あるはずない!!)
そんな彼の考えを他所に、詩音は手にしたミスリルの剣を鞘に入ったまま、軽く振ると、衝撃波が生み出され、衝撃波は大気を切り裂きながら空き教室を直撃する。轟音と共に空き教室の窓に直撃し窓を切り裂いて破片などをまき散らしながら炸裂した。
その爆発に紛れて、剣士は必死になって破壊されたクロスボウを投げ捨てて、その場から逃げ出した。
(は、はぁ!?何で俺がこんな目に合わないといけないんだよ!!クソが!!さっさと逃げるに限るぜ!!)
煙の中逃げ去る彼を見ながら、詩音ははあ、とため息をつく。彼も自分の生徒のうちの一人である。先生である以上、ああいう不良生徒もきちんと指導しなければならないが、彼はもう一線を越えてしまっている。あそこまで行ってはもうどうしようもない。生徒を手にかけるのは流石に思うところがあるが……それも仕方ないか。と彼女は判断した。
「はあはあ……。クソが!!もうこんなところに居られるか!!こんな冒険校なんてこちらからお断りだ!!こんな所!!俺を認めてくれる所にいくぞ!!そう、俺は中国の冒険省から勧誘を受けている優れた人間なんだ!!そっちに行って俺の実力をみんなに知らしめてやる!!」
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