第42話 冒険省大臣

 そして、当然瑞樹と姫奈から冒険校へ、そして冒険校から冒険省に上げられてきた情報を見て、幹部や事務次官、大臣政務官、副大臣などは一人残らず頭を抱える事になった。まさか日本存亡ところか人類存亡が関わる危機などという飛び切りの厄ネタに対応できる責任感を持った役人などいる訳はない。

 たかが役人がどうこうできるレベルを遥かに超えている!どうすればいいんだ!と頭を抱えるのも無理はない状況である。

 冒険省の大会議室に籠って会議を行っている役人たちは、この情報の信憑性に対して大いに食ってかかっていた。


「というかこんな情報が信じられるか!!ただの与太話だ!!LV計測不能でこちらとコミニュケーションを取れるダンジョンなんているはずないだろう!!しかも日本存亡とか人類存亡とか嘘っぱちだ!!出鱈目だ!!こんなの信用できるか!!」


「そうだそうだ!!こんな不確定な情報など信用できるか!!どうせ嘘に決まっている!!もっときちんとした正確性のある情報を持ってこい!!ダブロイト雑誌以下じゃないか!!」


 しかし、彼らがこういうのも納得はできる。確かにDが言うような機械が時々停止したり調子が悪くなるような事例は起きて、実際に多数に死者が出ている。

 多量の人数を乗せて空を飛ぶ飛行機はまだ飛んではいるが、事故が以前よりも遥かに多くなっているので、危険なので気を付けよう、ほかの移動手段で移動しようとしている人々は多くなっていたり、機械の故障などが以前より遥かに高くなっているのはデータとして確認されている。

 しかし、その程度のデータがDの情報と合致している程度でそれが真実だ、などと思えるほど彼らも単純ではない。詩音からのきちんとした情報、そして今の人類では到底及ばない神秘を秘めているミスリルの剣を見せられても、彼らの態度は変わらなかった。そんな彼らを信用させるにはもっと確実な情報、あるいは大きな利権が必要になってくるのだ。


「……つまり、情報が足りないから反対している、とそういう訳だな。

 分かった。それならワシが直接当事者たちと話し合って情報を集めよう。君たちも大臣であるワシの言うことなら信じられるだろう?」


 それは冒険省のトップに立つ冒険省大臣「田中英」のセリフだった。大会議室の椅子に座っている堂々とした彼の言葉に、官僚たちも一斉に黙り込む。官僚たちが疑問を抱いているのは、あまりにもあやふやな情報であり、こんな情報で動くなど冗談ではない、というのが本音だ。だが、大臣自身が直接動いてしかもしっかりとした情報を持ち帰ってくれば、彼らもそれを信じるしかない。そう判断した大臣は自分自身が乗り込んで話を聞くという事にしたのである。だが、そんな危険なことを行うという大臣に対して他の皆は一斉に止めに入る。


「だ、大臣!それはあまりに危険すぎます!大臣自身がダンジョン自身に入り込むなどとは……!!」


「だが、ここにいるだけでは誰もこんな話は信じんだろう。ワシが直接乗り込んで情報収集を行えば官僚も他の省庁もある程度は納得するだろう。大至急冒険校やその少年に対して話を持っていくようにしてくれ。これが嘘ならばそれでもよし。

 だが、本当ならばとんでもないことになる。今のうちに何とかしなければならないのだ。」


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 そして、冒険校にいる詩音たちは、冒険省から通達が来て思わず頭を抱えた。

 こんな情報を容易く信用するとは思わなかったが、まさか大臣が直々ダンジョンへとやってくるなど流石に予想外だったのだ。

 しかしともあれ、D自身と大臣との対面の準備を行わなくてはならない。

 そして、それは冒険校に通っている瑞樹や姫奈に対しても伝えられたが、流石に予想外の言葉に彼らもえぇ……と困惑してしまう。


「だ、大臣が来るってマジなの……?この前先生が来たばかりなのに突っ込みすぎない……?」


そんな風に驚いている姫奈や瑞樹だったが、その中でも一番機嫌が悪いのは誰か、と言われたら当然の事ながら自分の領域に文字通り土足で踏み入れられるであろうDそのものである。話を聞いた瞬間、彼女は床に寝転がりながら手足をジタバタさせて、いやいやを全力でアピールしだしたのだ。


「いやー!!絶対やだー!!私の中を脂ぎった太った政治家が入るなんて絶対やだー!!あの先生?は相棒の先生だから大人でも大目に見たけどさぁ!!政治家なんて人を騙して私腹を肥やすしか頭のない外道どもじゃん!!そんな奴らと関わり合いになるなんてやだー!!」


手足をジタバタとさせているDは大変可愛らしいが、それでも日本をどうにかするためには、外界と大手を振って交流するためには政治家の力は絶対必要である。だが、彼女は何故か政治家に対して極端な嫌悪感を持っているらしい。政治家と聞いただけでここまで拗ねるほどでは到底話を聞いてもらえるわけはない。

そんな中、姫奈は瑞樹に対して、機嫌を損ねたDを慰めろ、と瑞樹に促していく。


「GO!オタクくんGO!Dちゃんを慰めてあげて!!GOGOGO!!」


はぁ~、仕方ないなぁと瑞樹はDの頭を撫でるとでへ~と今まで不機嫌だったのがたちまち機嫌を直す。もっと構え~とDは瑞樹に懐いてくるが、Dの首の下を撫でてあげるとゴロゴロゴロ、と喉を鳴らしながら瑞樹へと懐いていく。まるで猫みたいだなぁ、と思いつつも瑞樹はDの喉を撫でていた。




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