第40話 詩音、Dのダンジョンに入る。

そして、ついに詩音は瑞樹に連れられてDのダンジョンに入っていく。

Dのダンジョン外部を見ながら、詩音は思わず目を見張る。あちこちに上手く隠れたり魔術的な幻影魔術などで隠蔽されてはいるが、それでも無数の魔術砲台があちこちに隠蔽されているのが詩音には感じ取られる。

それらが本気に戦力として無数の魔術弾をバラまいたらまさに魔の暴風と言わんばかりの魔術弾の暴風となって全てを薙ぎ払うだろう。それから見ても、このダンジョンが凄まじい力を所有しているのが明らかにわかる。

個人的には強い詩音ではあるが、それでも「戦争」をひっくり返せるほど強くはない。やはり、これだけ見てても瑞樹が言っていることが正しいとよくわかる。


「……で?アンタが相棒の「先生」ってヤツなの?」


 Dは瑞樹の後ろに回ってふしゃー!!と髪を逆立てながら詩音を威嚇する。

 正直、Dが本気で威嚇したらLV20に満たない彼など、その威圧感で瞬時に潰れる(物理的に)しかねない。そのためD的には威嚇したい、威圧感を出したいのを無理矢理抑え込んでいるのだろう。

 だが、それに対して詩音は涼しい顔で受け流しているが、本音では冷や汗ダラダラだろう。まさかDがこれほどの怪物だとは思わなかったのだろう。

 人類最強である自分が必死になっても手も足も出ない怪物に対して、平気で普通に会話をできる瑞樹は自分の生徒といえどやっぱりどこかおかしい、と思いつつ、彼女は手のひらの汗を密かに拭っていた。


「先生だか何だか知らないけど……私は相棒と姫ちゃんの顔を立ててこうやって面会してるんだからね。そこのところを忘れないでほしいな!!何ならシュオールに任せてもよかったんだからね!!」


「はい、感謝しています。貴女と直接会話ができるのは瑞樹……貴女のいう相棒のおかげだときちんと把握しています。私は別に貴女たちに危害を与える気はありません。ぜひ友好関係を築いていきたいと思っています。」


 だが、そんな詩音の言葉を、Dはふん、と鼻先で受け流す。「大人」は全て嘘つきだ。こちらを……相棒を騙していいように利益をむさぼりつくすために利用しているにすぎない。そんな風に偏った思考をして警戒しているDに大人である詩音の言葉は中々届かない……がこちらにも姫奈から教えてもらった「切り札」があった。


「まあ……まずはお近づきの印にこれをどうぞ。毒など入っておりませんので。」


 そう言いながら、詩音は冷凍材の入れられた高級チョコケーキをDに差し出す。

 いかに何もかも生み出せるDのダンジョンといえど、未だに砂糖も生み出せないし、お菓子技術を持ったパティシエも存在しない。甘いものに弱いDにとってはまさに垂涎の品物であった。目がハートになって口から涎を垂らしそうな顔になったDを見て、姫奈は密かに親指を立て、それに対して詩音も密かに親指を立てて返す。

 そのチョコケーキに思わず飛びつきそうになったDだが、ぷるぷると頭を振って誘惑にうち勝とうとする。


「いや!私は騙されないよ!!絶対この中には毒とか入ってるんだ!!いやでも……よくよく考えると……別に毒なんか入っていても私には効かないじゃん!!私人間でもないし生き物でもないし!なら食べなきゃ損じゃん!!」


 Dは自分自身に毒など効かない事を思い出すと(そもそもそんなもの入っていないが)いただきまーす!とスプーンを手にしてチョコケーキをガツガツと食べ始める。

 それを見ながら、姫奈と詩音はお互いにぐっ!と親指を突き出した。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る