第39話 第三冒険校長「山田園」
第三冒険校校長室。そこでは中央部の机に太って頭髪が薄いどことなく温和な雰囲気を纏わせた中年男性が、せわしなく神経質そうに組んだ親指同士をこすり合わせていた。それこそが、第三冒険校の校長である「山田園」である。
彼は、詩音の報告を聞いて、あぁ~とたまらず頭を抱えて机の上に伏して頭を抱え込んでいた。
詩音の報告……つまり瑞樹たちの活躍やDの存在など自分の手に余りすぎる問題を叩きつけられてこれ一体どうするんだよ……と呆然としているのだ。
「はぁ~……。厄介な問題を持ってきてくれたねぇ君ィ……。ホントどうするのよこれ……。ワシたちの背中に人類の存亡がかかってるとかマジで勘弁してほしいんだけどぉ……。」
しかも、この問題はもはや彼の手には余る問題である。きちんと冒険省……日本政府に報告を行って対応を協議しなければならない。
それだけでもう頭痛と胃痛が同時に襲い掛かってくるのはどうしようもあるまい。
絶対「こんなの嘘っぱちだ!デタラメだ!データを持ってこい!!」と叫ぶ官僚たちの大合唱が響き渡る事を考えると今から頭が痛い……がDの言っていた事と実際に上層部で秘密裏に出ているデータが一致している以上、少なくとも校長である彼はこれを信用した。
「とりあえず冒険省については君の方が極めて強いコネがあるだろう?そちらから話を通してくれたまえ。ワシは防衛省と環境省の方から話を通してみるよ……。後は国土交通省と農林水産省と文部科学省と内閣府と……。ああもう片っ端から話を通してみないと……。こりゃ省庁根こそぎひっくり返る事になるぞ?文字通りの意味で「日本存亡の危機」「人類存亡の危機」なんて事を目の前に突き付けられたら大パニック間違いなしだからな……。」
石頭の官僚や政治家を説得して日本政府を動かし、日本を救うために行動する。
こんな人間には到底手に余ることなど誰もやりたくないのは当然の事だ。見なかった事、なかったことにして問題をもみ消す。後から言われても知らなかった、こんなことになるなんて思ってみなかったとでも言っておけばいい。いくら人間がスケープゴートを好むとはいっても、こんな人間の手に余ることを一人の人間を悪役にして晒上げることなどはしない……はずである。
だが、校長はそれでも自分なりにやれるだけのことをやらなければならない、と判断したのである。
「ワシは無能だ。何の力もないただのダメ人間で人間の屑だ。そ、それでも……。それでも少年少女の背中に人類存亡なんて重荷を背負わせる訳にはいかんと思う。そういう重荷を背負うのはワシら「大人」の役目だろう。大人でも潰れるのに、子供にこんな物背負わせて後方で楽しく暮らすなんてそりゃいかんと思うよワシャ……。」
ダラダラと脂汗まみれでそう呟く彼。それでももみ消そうとせず、責任を生徒だけに押し付けようとせず、自分もやれるだけのことをやろうとするその姿勢は、詩音からしてみればかなり好感が持てるスタンスであった。一応報告を終わった後で、彼女は
校長に向けて自らの懸念も口にする。
「後は、瑞樹と姫奈の安全確保も最重要課題です。仮称Dとの窓口になれるのはこの二人しかいません。もしこの二人が狙われた場合、仮称Dとの交渉が不可能……。または暴走する可能性も非常に高いものと思われます。至急護衛が必要かと。」
確かにそれも一理ある。校長はさらにはぁ~とため息をつきながら考え込む。だが、そこで思いついたのは、詩音を陰ながらこっそりと彼らの護衛として向かわせる事である。学園の先生である詩音が護衛というのなら、瑞樹たちも安心できるだろうし、Dが過剰な反応をした際に瑞樹たちもかばってくれるだろう。
詩音が抜けてもほかの先生たちで十分カバーを行うことができる。だが瑞樹たちの護衛は詩音ぐらいしか勤まらないのである。
「うむ……。授業を減らしてもかまわん。君ができる限り護衛してくれたまえ。空いた時間は何とかする。君が護衛につけばそうそう他の勢力にも好き勝手させられないだろうしな。全く国内どころか海外の勢力も目をつけそうで頭が痛いわい……。」
そう言いながら、彼はさらに深いため息をついた。
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