第35話 青銅ゴーレム馬車

「おーお疲れ~。ワシの武器などが役に立って良かったわい。どうじゃ、ワシらの武器や防具は最高じゃろうが!!」


 ワッハッハと豪快に笑うドワーフ族の長老だが、実際にこの武器や防具がなければ生きて帰ってこれなかったかもしれなかったので、確かに彼の言う通り頭を下げて感謝するしかない。しかも金ももらわずに作ってもらったのだから尚更である。


「なにぃ?礼?いらんいらん。それよりワシらの武具など外界とコンタクトとれるようになったら宣伝してくれよな!全くいくらその辺に魔物が徘徊していないからといっても、あんな紙切れみたいな防具でダンジョンに入るなど正気じゃないわい!!」


「ともあれ、魔力で動くという車じゃが……。お主が見せてくれた車……内燃機関?というのはわしらでもすぐに開発するのは難しいからのぅ。そこで次善の策として考えたのは……こちらじゃ!」


 そのドワーフの言葉と共に、カツカツと足音を鳴らしながらやって来たのは二体の金属製……青銅で作られたブロンズゴーレムである青銅馬とそれに引っ張られる車輪付きの幌のついたワゴン……つまり幌馬車、馬車である。

 さすがに彼らの手でも未だ技術的な問題があったため、内燃機関を魔導機関へと変更した自動車そのものの移動式ゴーレムというのは作るのが難しかったらしい。

 正確にいえば魔導機関が車に搭載できるほどコンパクトにできなかったとの事だ。

 そこで彼らは考えた。「逆に考えよう。別に『車』の形にしなくてもいいんじゃないか?」「自分たちの親しみのある『馬車』にすれば結果は同じじゃないか?ブロンズゴーレムならば問題なく馬力は出せる、高速でも走れる、重い荷物でも息切れせずに平然と運べる。いいことずくめじゃないか!」という発想で作れたのがこの青銅馬車である。


「なるほど……確かにこの発想はなかったな……別段『車』の形にこだわる必要はないもんな……。」


「応よ!!しかもコイツは蒸気機関?とか違い燃焼による煙による大気汚染は発生しねえ!!逆に生き物とは違って排泄物もでないし疲労もしない!!D様のダンジョン内ならどこでも魔力供給が行えるから、ダンジョン内なら事実上無限に動く事ができる!!まさにダンジョン内では完璧な運搬・移動手段よ!!」


 確かに長老が胸を張って断言するのもよくわかる。現代の車は内燃機関であり、やはり有害なガスを排出する形になるのは避けられない。それはこの閉鎖空間であるダンジョン内ではまさに致命的である。空気は浄化できるものの、多量のガスが排出されて浄化が追い付かない可能性がある。ならば初めからガスを排出しないゴーレムに頼るのは筋が通っている。しかもダンジョン内ならば、ワイヤレス電力送信ならぬ、ワイヤレス魔力送信がゴーレムに行われるため、ダンジョン内から放出される魔力によってゴーレムを無限に動かすことができる。

(実際、今様々なところで労働力としてストーンゴーレムを動かしているのも同じ原理である)

 これが量産できるのなら、ダンジョン内部での移動手段、食料など様々な荷物などの運搬、鉱石採掘など不要な石や鉱石自体の運搬など様々な場所でまさしく無双とも言える活躍をしてくれるに違いない。


「……ん?ダンジョン内では?それじゃダンジョンの外では……?」


「魔力切れになったらうんともすんとも動かないただの置物になるな!!『馬』という概念に沿っているから即座に消滅やら機能停止やらはないだろうが、どれくらいで魔力切れになるかは実際外界で動かしてみないと分からん!!こんなもの外界に出して目立たせる訳にはいかんだろ?」


 うーん……それもそうかぁ、と瑞樹は納得する。もし文明崩壊してしまった際に、今までの自動車が動かなくなってしまった際に、この青銅馬車は極めて有用な交通手段になる。その気になれば時速100Km程度ぐらいなら軽く出せるだろうし、生き物として疲労もないため、魔力切れさえ気を付ければ長距離運搬も可能になる。

 乗り物だけでなく、運搬用としても極めて役に立つに違いないのだ。

こんな風に、Dダンジョン内部では独自の文化が発達しつつあった。

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