第20話 地下迷宮都市建設

「はー酷い目に会った……。全くも~。流石の私でも延々とお説教は精神的にきついって~。有機生命体の交尾ってセンシティブで触れないほうがいいって事は良くわかったよ。うんうん。私からすれば何で交尾程度でそんなに恥ずかしがるのか疑問なんだけど……。」


 はー、とため息をつきながら、ようやく説教から解放されたDはぐてーと床に寝転がっていた。Dからすれば人間たちの性的行為は犬や猫が盛っている程度の価値観でしかない。

 さらに言えば、今のこの姿は義体であり別に汚されても問題し妊娠する可能性もないのだが、まさかここまで強く反発されるとは思わなかったのである。

 まあ、それはそれとして、とDは立ち直る。


「それはそれとして!!迷宮都市開発は順調だよ!!ちょっと見て行ってね!!」


 Dがパチンと指を鳴らすと、彼らは瞬時に転移してさらに深い地下階層へと転移させられる。広大な空間に数百もの住居と空には時間によって輝く照明装置を要するその場所はまさしくジオフロントを連想させるほど広大な避難場所だった。

 巨大な半円状のドーム状の岩盤でできた広大な地下空間。そこに岩で構築された家がストーンゴーレムたちが次々と建築していった。本来はそのようにわざわざ家など作らなくても、それこそカッパドキアの蟻の巣のような地下都市を作り上げればいい。

 だが、それでは密閉感に人間たちは強いストレスを感じ長時間暮らすのには難しい。そのため、わざわざDは広大な空間を作り上げ、そこに石でできた家を作り上げるという形をとっていたのだ。

 この広大な空間は穏やかな空調による安定した気温、そして地下空間とは思えないほどの綺麗な空気が溢れているのか感じられる。これもDによる魔術により生み出された物だろう。この空洞の外壁自体に発生した二酸化炭素を吸収して酸素に変換するような空気浄化システム機能を持たせ、さらにあちこちに同じ効果がある魔術球も置かれており、多数の人間が十分滞在しても問題ないようにしている。


「魔術による空気供給・空気浄化システム!下水浄化システム!綺麗な水がいくらでも湧き出る給水システムなども完備!!発電システムは……さすがにまだだけど……うん!!というか電気自体はいくらでも出せるんだけどまだ人間社会の給電システムがよく分からなくて多分電子機器をショートさせるというか……。」


 そう言いつつも迷宮都市の天井は充分な光量を発生する照明代わりの光ゴケで覆われており、さらに魔術の光で充分に暮らしていける光量だと言える。えへん!と胸を張るDだが、家内部を見て瑞樹たちの様々な突っ込みに思わずタジタジになってしまう。


「えっ?ふ、風呂?風呂ってお湯で体を綺麗にする?ち、ちょっと待ってね。すぐに作るから……。あと周囲の壁が石壁そのままだと圧迫感を感じる?う、うーん。やっぱり難しいなぁ……。」


 まあ、もっとも彼女自身も有機生命体についての生態はよくわからないので、瑞樹や姫奈の言葉を受けて、次々と地下都市を改造して住みやすい都市へと変貌していく。Dがストーンゴーレムに命じる事によって、次々と再び家々は改造されていった。元々最悪の場合瑞樹や姫奈を匿って過ごせるための安住の地を作るためにやっていることだ。彼らの居心地のいい場所にするには当然だろう。

 Dの意思によって、岩を操作する能力を与えられた多数のストーンゴーレムたちは動き回りながらあちこちを破壊したり、その破壊された断片を運んだり、石を粘土のようにいじりながら壁や家自体という作業を行っている。

 一戸家を作成したら、また次に家を作るというオート量産体制を行っているため、一度修正したらほかの家も修正しなければならない。



「少なくとも相棒と相棒の家族たちは絶対に安全に保護してあげるからね!いざとなったら安心して逃げ込んできていいよ!!食料生産システムも開発中だし、全部私のダンジョン内部で賄えるようにするし、外界よりもここが絶対に安心な場所にするし!!安心してね!!」


「え?どこまで広げられるか?うーん、その気になれば好きなだけ?その気になれば数千万人とか億単位ぐらいは収容できるぐらいまで広げられるんじゃない?まー食糧生産システムもそこまで大規模にするとめんどくさいし……。そこまでする義理なんてないしね!!」


 その言葉に瑞樹も姫奈も戦慄した。それはその気になれば数億人を保護できる地下都市とそれを支える食糧生産を行えるという事である。

 それだけの広大な空間も「空間拡張」の魔術を使用すれば物理的拘束を無視していくらでも広げられる。ここは彼女のダンジョン内部であり彼女自身の内宇宙である。それならばいくらでも好き勝手にできるのだ。

 だが、これもあくまで彼女が言っている事であり、数億人を養えるほどの大規模な食糧生産を行えるなど実際はやってみないと分からないと言った所だろう。

 食料を無限に生み出す聖杯の元になった「ダグザの大釜」などという魔法のアイテムなども存在するが、それもあくまで粥を大量生産する物。

 遥か昔ならともかく、大量消費に慣れた日本人にそれだけ食べていけば暮らせる、と延々と同じ食事だけ与えられるのは非常にきつい。


 「えー?他の色々な食糧の大量生産?はーめんどくさいなぁ。これだから有機生命体は……。いやまあ、相棒の頼みだしやるけどさ……。」



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