第19話 報酬とお説教

 そして、機能が停止したダンジョンから外に出た瑞樹たちは、そのままDのダンジョンへと向かっていった。

 ダンジョンコアはそのダンジョンの頭脳体と言ってもいい。それが奪い取られたダンジョンは完全に停止してしまい、モンスターたちも発生するエネルギーも停止されて自然消滅していく。そして、ダンジョンも次第に自然消滅(あるいは力を失ってただの迷宮)になるのだが、それは普通の状況である。瑞樹たちが鹵獲したダンジョンコアは、少し違う末路を迎えることになった。

 徹底的に幻覚魔術や木や草などでカモフラージュされたDのダンジョンの入口。そこには以前には存在していなかった数台の砲身の先がちらりと見えていた。

 これはダンジョン内部に時々存在する魔導砲台の先端である。

 ダンジョン外に対して大した干渉のできないDは、ならばダンジョン内から外部に対して攻撃を仕掛けられる武器を配備すればいい、と判断したのだ。

 そこで彼女が選んだのは「魔導砲台」である。外界の人間を信用していない彼女は、いざとなったらそもそもダンジョンに入らせずに砲撃で殲滅する予定である。さらにD的には隠れながら徹底的に要塞化していく気満々だが、それで人類社会と一発の砲撃だけで完全敵対するのは勘弁してほしいので、万が一の時には自分と相談してくれ、と言っているが、それだけで瑞樹的には胃が痛くなってくる。


「相棒もプリちゃんもお帰り~!何事もなかった?無事で何より!こんなところで相棒たちを失うとか嫌だからね~!!」


 まるで懐いた犬のようにDは瑞樹たちの元へ手を振りながらやってくる。その背後に左右の振りまくってる尻尾が見えたような気がするのは気のせいではあるまい。

 ともかく、瑞樹は手に入れたダンジョンコアをDへと手渡す。その瞬間、ダンジョンコアは怯えたように光を放つが、Dは気にする事なく、ねっとりとそのダンジョンコアを手で撫でると頬すりする。


「んー。まだ熟しきっていないけどちょうどいい感じに地脈との融合はしてるっぽいから、繋いだ地脈もダンジョンも何もかも全部私の物にしちゃおう!やっぱり蛮族方法は手っ取り早くリソースを増やせるからいいよね!!」


 そう言いながら彼女がパチン、と指を鳴らすと床から円柱状のアクリルケースのような透明の素材で出来たシリンダーが生えてきて、そこにDはダンジョンコアを乗せる。

 それと同時にその円柱内の床から無数のケーブルがせり出してきてダンジョンコアに張り付き、さらに透明のジェルか何かがその円柱内に入りこむ。それはどことなく、「シリンダー内部に入っている人間の脳髄」を連想させるものだった。


「んーと、それじゃこっちをこうしてと……。シリンダーの中に入れてケーブルを接続してサブシステムに接続して、と。え?ダンジョンコア人格消去プログラム?なにこれ……。知らん……。こわ……。と、とにかくこれを走らせればいいんだよね。ぽちっとな。」


 よく分からないスイッチを押すと、そのまま無数のケーブルを通して、ダンジョンコアに情報が流れ込んでいるらしいのが光の流れで確認できる。

 一体何してるの?と瑞樹が聞くと、Dは明るくあっけらかんと答える。


「んーとね。洗脳!!ダンジョンコアってダンジョンの中心部、脳みたいな感じだからね。その脳を洗脳して私の言いなりにするんだよ!!こうしてリソースを全部私が回収する!まー仕方ないよね!!洗脳したら私の「切り札」を出すための触媒にしてあげるから安心してね!!」


 うーん弱肉強食。というか同じダンジョンコアなのにその扱いはいいのか……?と思わくもないが、ダンジョンコア同士には人間とは異なり同胞意識というのはほとんどないらしい。単にリソースを食い合うだけの排除するべき敵でしかない、というのが共通の意識らしい。

 それはともかく、Dは自分のためにダンジョンを攻略したご褒美を上げないとなぁ、と頬に指を当ててうーん、と考えこむ。


「とりあえずダンジョンを攻略したご褒美とかあげないとね!ええと……確か有機生命体の雄って雌と交尾するのが大好きなんだっけ?私のこの体でよければ交尾してもいいよ!どうせ義体だし!妊娠もしないし汚れても問題なし!まあ正直交尾とかよく分からないからこの体を好きにしても問題なし!そーれ交尾!交尾!!」


 Dはそうにこやかに言いながら自分の服を脱ぎだそうとするが、いきなりとんでもない素っ頓狂な事を言い出した彼女に対して慌てて姫奈は止めにかかる。

 姫奈や瑞樹に対して傷を負わない&吹き飛ばさないようにリミッターをかけて今の彼女は普通の人間程度の力しか出せないようになっているため、あっさりと脱ぎ掛けたのを姫奈に止められてしまう。


「ち、ちょっとDちゃんダメだって!!こんな所で脱いだり男性にそんなこと言ったらダメ!!男の人はケダモノなんだからそんな事言ったらすぐに襲い掛かってきちゃうよ!!そもそも性行為を交尾と言ってる地点で……。」


「……えっ!?プリちゃんも相棒と交尾してるんじゃないの!?雄と雌って出会ったらすぐ交尾するもんでしょ!?違うの!?な、何かプリちゃんお顔がめっちゃ怖いよ!?何で!?雄と雌が交尾するのは自然で恥ずかしい事じゃ……。」


 ゴゴゴゴと凄まじい威圧感を放った姫奈は、Dの首根っこを掴むとそのままズリズリとダンジョン内部の別室へと連れていく。プリーストでありギャルではあるが貞操概念の強い姫奈は、Dの性意識を改善させるため本気の無限説教が始まったのだ。

 何時間も正座で座って延々と無限説教を聞かされるDも、流石にこういった精神攻撃にはダメージをうけるのか、ひーんと泣き顔になりながら、説教から解放されてよろよろになりながら、先ほどの言葉を撤回する。


「よく分からないけど交尾が人類の間ではセンシティブな物だってのはよく分かった。んもーめんどくさいなぁ。よく分からないしセンシティブだから人類の交尾の話題に触れないのが一番だね!うん!!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る