第14話 他ダンジョンの攻略開始。

 ―――富士樹海。そこはDの作り出したダンジョンが存在する場所である。

 都市伝説では磁石も効かない場所と言われているが、最近ではすっかりそれは事実となっており、磁石どころか電波なども届かず、スマホなどと言った電子機器もほぼ無効化されてしまうほどだ。

 その中でDのダンジョンは人目……人類社会には発見されず少しずつダンジョンを広げて勢力を伸ばしているが、それでも目の前のたんこぶは存在した。

 それは、周辺に存在する複数のダンジョンである。

 富士山は言うまでもなく日本の霊脈の最大の拠点地である。だが、そこにいきなりダンジョンが出現したなら流石の冒険省も無視はできない。真っ先に攻略対象に挙げられてしまう。

 それから隠れ、勢力を広めるのに最も最適な場所、それがここ富士樹海、青木ヶ原である。

 だが、考えることは皆同じ。この富士樹海の影に隠れて成長しようというダンジョンは複数存在しており、それはDにとってまさに邪魔者以外の何物でもなかった。

 富士山からの地脈のエネルギーを吸収しているのは他のダンジョンたちも同じ。いわば一つの樹の蜜に集まる同じ種類の虫と同じだ。

 その蜜に群がる虫たちを叩き潰し、甘い蜜……もといリソースを独り占めにする。これは誰しもが望むことである。

 そのため、ダンジョンたちは怪物を出して他のダンジョンに対して強襲を仕掛けるというまさに蟲毒状態になっているのが、この富士樹海の状況だ。

 D自身も自分自身もまだダンジョンから遠出はできないため、どうしたものか、と考えてきた時に飛び込んできたのが瑞樹だったらしい。


「うーん、ここかぁ……。」


 Dのダンジョンのすぐ近く、そこには恐らく小規模であろうダンジョンの入り口……洞穴が存在していた。これを見つけ出したのは、瑞樹が操るドローン型ゴーレムである。やはりドローン型ゴーレムならば世界の修正力はそれほど力が発揮されず、外界でも普通に動かせることができるらしい。

 さらに、魔狼であるワンコもすんすん、と匂いを嗅ぎながらダンジョン入り口までたどり着くと、ぐるる……と牙を剥いた警戒態勢に入る。


「オタクくん大丈夫?ウチら罠を解除してくれる冒険者とか前衛の冒険者とかいないんだけど……。私たちだけで突撃するのは無謀なんじゃ……。」


「大丈夫。そのためにDから与えられたこの力がある。出でよストーンゴーレム!!」


 その言葉と共に瑞樹の指輪から四本脚の2mほどの大きさのストーンゴーレムが出現し、前面へと展開する。

 このストーンゴーレムと魔狼を前面に出して敵の奇襲と罠の探知を行う、さらにドローン型ゴーレムをダンジョン内でも飛ばして先行することによって先の探知をしながら進む。これが瑞樹の戦法である。


「しかし、これだとバックアタックとか仕掛けられた時にピンチに陥りかねないけど……。大丈夫?」


「何言ってるんだよオタクくん!私に任せておいてよ!!こう見えても私だって戦えるんだよ!!あんな体しか見てないクソ野郎どもとパーティ組むより頼りにされたほうが百万倍マシだよ!!」


 ともあれ、そんな風にダンジョン内部に踏み込んだ彼らだったが、その瞬間ダンジョン自体から敵意のような物が放たれたような感覚が、瑞樹たちに襲い掛かってくる。

 普段の冒険者たちが入り込んでくるよりも遥かに強い拒絶感。

 それは、やはり瑞樹自身の存在だろう。瑞樹はダンジョンコアから命を分け与えられており半分ダンジョンコアと同じといってもいい。そんな宿敵とも言える他のダンジョンコアが乗り込んできたのだ。このダンジョンが本気で敵意を出しても当然だろう。だが、それを後目に瑞樹はドローン型ゴーレムをダンジョン内に飛ばして先行させて、ストーンゴーレムを最前線に出して、魔狼を護衛につけ、ドローン型ゴーレムと視覚を共有しながら先に進ませる。

 しかし、この欠点としてはドローン型ゴーレムに集中してしまうため、ストーンゴーレムや魔狼の指示が甘くなり、周囲の注意も甘くなる。マルチタスクを行えるのが魔物使いの基本だが、それも初めての状況ではこうなるのも無理はない。ともあれ、瑞樹は武器であるクロスボウを背負いながらドローン型ゴーレムを先に飛ばして確認に入る。どうやら罠はないようだが、薄暗い中で動く「何か」を発見した瑞樹はそれを拡大するとおよそ十匹程度のゴブリンがこちらに近づいているのが見える。恐らくはこちらに対して迎撃を仕掛けるために放たれた存在だろう。


「よし、それじゃ行くぞ!!」


 そんなゴブリンたちの接近を感じ取った瑞樹は、ストーンゴーレムに指示を出して彼を前面に押し出し、対ゴブリン迎撃対策を取り始めた。


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