第13話 ケーキと世界の終末

 そんな事を色々行っていると、姫奈は手にしたケースをDたちに見せながら声をかけてくる。その中には保冷剤と共に保冷魔術がかけれたケース内部に収められたチョコレートケーキが入っていた。

 そして、魔法瓶の中に入れていたコーヒーを紙コップに入れながら、二人へと手渡してくる。


「オタクくんもDちゃんもお疲れ~。ちょっと休もうか。ほらほら、Dちゃんもおいでおいで~。美味しいケーキだよ~。」


 姫奈はにこにこ笑いながら、Dに対して紙皿の上に乗せて使い捨てのスプーンを乗せたチョコレートケーキを差し出されるが、Dはちっちっと指を振る。


「はぁ~?ケーキぃ?ちっちっち……。あのねプリちゃん。私は有機生命体じゃないんだよ?この体に食料や飲み物なんて不要。ダンジョンコアから直接供給されるエネルギーで活動してるんだよ?気持ちは嬉しいけど、別にそんな物食べても意味ないというか……。」


 まあまあまあ、まあまあまあ、と姫奈はDに対してスプーンを手にしてDの口にチョコレートケーキの一欠片を入れた瞬間、Dはスプーンを加えたままもごもごと口を動かすと、ぱぁっ!と顔を輝かせて叫ぶ。


「う、うま―――い!!何これ!?舌に衝撃的すぎるんだけど!?これが「甘味」って奴なの!?プリちゃん最高だよ!!金なら払う!いくらでも持ってこいだよ!!」


今までの態度を一変させて、Dはスプーンを掴むと瞬時でチョコレートケーキを食らいつくし、紙コップに入ったカフェオレを飲みながらううむ、とうなり声を上げる。

どうやらチョコレートケーキという激しい「甘味」は彼女に余程衝撃を与えたらしい。そもそも、彼女の肉体は別に飲食はしなくても活動できるように構築されている。そんな彼女を虜にした砂糖は薬物と同じぐらいの中毒性がある、という研究結果もある。今まで「甘味」など全く知らなかったDはすっかりその虜になってしまったのだ。


「ううむ……。人類なんて滅んでくれても構わないと思っていたけどちょっと話が変わってくるかなぁ……。これ作るにも「ここあ」とか「砂糖」とか色々材料も必要だし、やっぱりアレかぁ。私も『井の中の蛙大海を知らず』って奴かぁ。こんな有益な物があるなら人類社会を滅ぼすなんて勿体なすぎるよ!せめて文明だけは残しておかないと!!」


ナイス姫菜と瑞樹は心の中で親指を立てる。今まで彼女的には「人類や文明などどうでもいい」と無関心だったが、彼女が文明を保護するモチペを作ってくれれば、少なくとも彼女が人類社会に対して大侵攻を行う可能性は低くなるはずである。

そんなDは腕を組みながらうーむ、と考えこむ。


「うーん、少し前の私なら「物理法則の壊滅に合わせて人類どもが大混乱に陥った隙に大侵攻を行えばいい!それまで力を蓄える時!!」という方針でいこうと思ってたんだけどなぁ……。人類文化保存のために行動しなきゃダメかぁ……。

人間どもなんて相棒とプリちゃん以外皆死に絶えても問題ないと思うんだけどなぁ……。」


えっ?とDの言葉に瑞樹は驚いた顔をする。物理法則の崩壊とか何やら物騒な言葉が聞こえてきて思わず聞き返す。

その瑞樹の疑問に対してんーととDは小首を傾げて答えを返す。


「えーっとね。別世界からダンジョンコアが漂流してくるだけじゃなくて、別世界の物理法則もこの世界に流れ込んでくるの。異界同士の物理法則が融合してこの世界の物理法則が崩壊……少なくとも大規模な変化は行われるね。

 多分色々な影響が出始めているんじゃないかな?色々やばい前兆は出てると思うんだけどね~。多分政府お得意の隠蔽してるんだよ。間違いないね。」


 思わず冷や汗をかいている瑞樹に対して、Dはさらにうーんと、と自分の人差し指を唇に当てて考えこむ。


「えーっと、もう前兆は出てきてるはずだよ~。例えば今異常なほど飛行機の墜落事件が起こったりしてるでしょ?機械の不調だなんだかんだ言ってるけど、他の理由があるんだよ。多分「別世界からの物理法則」がこの世界に流れ込んできてるみたいね。そうなれば「この世界の物理法則」と交じり合って物理法則がめちゃくちゃになる可能性が高いわ。特に別世界……幻想世界の法則とお互いの世界法則がぶつかり合って機械関係が皆うんともすんとも言わなくなる可能性高いっぽいわねこれ。」


 まー世界中の機械が停止するぐらいで人類全滅しないでしょ!頑張れ人類!!後多分色々モンスターも沸いてくるだろうけど頑張れ頑張れ!!と無責任にワハハと笑い飛ばすDだが、瑞樹たちは思わず顔が真っ青になる。

今人類は機械文明によって守護されていると言っても過言ではない。無数の機械によってこの現代社会は成り立っている。

 それらが全て停止してしまったらどうなるか?全ての原子力発電の運転をしている機械が停止してしまったらどうなるか?それこそ人類自体が絶滅するようなカタストロフィになりかねない。そうなればどうなるかは溢れているカタストロフィ小説やエンターテインメントのように人類は転がり落ちていくことだろう。

(Dが嘘をついている可能性もあるが、正直こんな嘘をついて何のメリットもないのにそんな事をいうとも思えない)

瑞樹は慌てながら何とかする手段はないか?とDに必死に問いかける。


「どうにかできる手段?あるにはあるけど……人間どもは受け入れないんじゃないかなぁ。つまり、私のダンジョン所有領域をどんどん広げて『結界』を作ればいいんだよ。私のダンジョン領域……『結界』内部なら機械も普通に動くようにできるし、空気組成も土組成も何もかも普通のまま過ごす事ができるようになるよ。

 でもねぇ。これだと私に生存権を握られる事になるでしょ?あのクソザコ人間どもがそんなの絶対認めないかなぁ~って。」


はぁ~めんどくさ、とDは顔をしかめるが、瑞樹の方を見て、パァァとにこやかな笑顔を見せる。


「まー大丈夫大丈夫!!そのために相棒たちを匿う迷宮都市何かを今作り上げてるんだからさ!!私の中に入れば安心安全!!他の人間どもが苦しむのを高見の見物していればいいんだよ!!……とはいう物の、文明社会をなくすのはちょっと惜しいかな~。仕方ない。最低限は文明社会を残せるように私も働きますか~。

まあそう簡単に物理法則の変化は起きないから、のんびりとやっていきますか~。」


めんどくさそうにはぁ~とため息をつくD。まさか食べさせたケーキが人類文明救済の救い手になるなんて、と瑞樹も姫奈も思わず大量の冷や汗まみれになりながら、予想外の事態に意を痛めていた。

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