第4話 ダンジョンコアとコミュを取りましょう。

 瑞樹が自分の言葉に怒りを感じている事は、命を共有しているDには感じられた。あれ?これで怒るの?マジで?と人の心が分からないDは不思議そうに答えた。


「……あれ?もしかして怒ってる?私、何かやっちゃいましたか?てへぺろ♪」


 そんな風に自らの頭を掻きながら悪びれずもなくあっけらかんとした態度をしているDに対して、瑞樹は流石に怒りの表情を見せる。

 どうも無邪気であまり節操もない彼女は、自分自身の思う事をストレートに言ってしまう癖があるらしい。とはいえ、ストレートにこんな事を言われれば彼が怒りを覚えるのも当然だろう。そんな瑞樹に対して、Dはまぁまぁ、と自らの手で怒りを抑えようというジェスチャーを行う。


「まあまあ、そんなに怒らないでよ~。どうせ私が言わなくてもそのうち誰かが君に言っていただろうし。予行演習というか精神修行というか……。」


 そんな彼女に流石に瑞樹も怒りを抑えきれずDに対して睨みつけながら、彼女の頬を摘まんで伸ばしながら怒りを露わにしながらも自分の怒りを彼女に対して向ける。


「あのさぁ。こういう時は人間は「ごめんなさい」「すみませんでした」って謝る物なの。理解してくれたかな?」


「ひゃ~い。理解しました~。ごめんなさ~い。」


 ったくもう、と瑞樹はDの頬っぺたを引っ張っていた手を放す。彼女からしてみれば自分の思った事を言っただけなのだろうが、純粋さはそれだけで残酷になりうる。

 いてて、と彼女は摘ままれて赤くなった自分の頬を擦る。


「まーでも、マジレス?するとキミはこれからどうするつもりなの?別に置いていった奴らにガチ復讐するつもりは……少なくとも今のところはないんでしょ?だったら、キミの目的は何かな?ほらほら、お姉さんには本音で話してもいいんだよ?私はキミがどんな欲望を持っていても受け入れるからさ。素直にいこーよ。」


 そう言いながらにこやかにほほ笑むDではあるが、そのにこやかな瞳の奥は決して笑ってはいない。真剣な目でこちらを見通すような瞳で見ているのが分かる。

 ここで嘘をついたり綺麗事で誤魔化すのは、


「俺は……生き延びたい。いや、生き延びたいだけじゃない。俺は……俺は見返したい!!皆を見返したい!!奴隷や役立たずじゃないって皆に認められるような大きな功績を立てて見る目を変えたい!!そうだ!俺は役立たずなんかじゃない!!それを皆に知らしめたいんだ!!」


 それを聞いたDは、彼の心からの叫びに対して、あははははは!!と高笑いを上げる。だが、それは嘲笑などではない。それは瑞樹の心の底からの絶叫を聞いて共感した悪魔のほほ笑みそのものだった。


「何だ!じゃあやっぱり運命共同体じゃん!!そうだよ!綺麗事で覆い隠すよりも、私はそういう人々の心の底からの叫びが見たいんだよ!!うんうんいいよいいよ~。お互い本音をフルブッパで行こうよ!!そういうのを私は見たいんだよねぇ~!!」


 Dは瑞樹の心の叫びからを聞いて、心の底から愉快そうに口元を釣り上げて微笑みを浮かべる。

 どうやら彼女は「人々の心からの叫び」に対して共感や楽しみを覚えるタイプであるらしい。恐らくは瑞樹を助けたのも「死にたくない」という心の底からの願いに興味を抱いたからこそ命を助けたのだろう。

 悪趣味といえば悪趣味ではあるが、それで自分自身が救われているのだから否定することはできない。ともあれ、運命共同体である事は事実である。何とかお互い意思疎通を行って意見のすり合わせを行わなければならない。それは意見のすり合わせだけではない。彼女がどんな力を振るえるのか?どこまで力を発揮できるのか?そこまで正確に把握しなければならない。


「……そういえば、君の力ってダンジョン内部だけ?外でも振るえたりするの?」


「うーん。しっかりと根付いて地脈の力を吸い上げたりしてダンジョンが巨大化すればいけるかなー。正直外でどれだけの力が振えるのか私にも不明だしぃ~。最大限は無理でもそれなりにはいけると思うけどなぁ。」


 先ほども言ったが、ダンジョン外では彼女は最大限の力を振るうことができないらしい。それで外の世界に対して攻め込もうなんて言っていたのかこの女は。あまりにもいい加減すぎる考え方に思わず瑞樹は頭痛をこらえながらはぁ、と思いっきりため息をついた。このまま彼女を好き勝手にやらせたらどんな風に暴走するか分からない。

 しかし……彼女を育てるという事は下手をすれば人類の敵を育てるということでもある。その制御は全て彼自身にかかっていると言ってもいい。


「とりあえず私の目標についてハッキリさせとこっか!!

 私の目下の目標!!それはこのダンジョンを巨大化させて巨大ダンジョンにさせたいことです!!私は!強い!!それは事実だけど……こんな小さなダンジョンじゃ掘立小屋に住んでるような物!!もっと私にふさわしいデッカイ超巨大ダンジョンとかをバーンと作り上げたいの!!」


 しかし、よくよく考えなくてもダンジョンを攻略する立場の冒険者がダンジョン育成に手を貸すのはまずいのではないだろうか……?と思うが、それでもこうなってしまった以上は彼女に手を貸してある程度満足させなくてはいけないだろう。

 彼女が暴走して大被害をまき散らしてはこの国にも多大な被害を被るだろうし、人々も大きな被害が出る。それだけは何とか避けなくてならない。


「……で、ダンジョンを広げる方法ってどんな方法があるんだ?」


「ん~。通常の方法だと地脈接続かな?地脈からエネルギーを吸収してそれを原動力にするのがセオリーだけど、やっぱりこの国の治安機構もそんなに無防備なわけはないだろうし、こっそりとやるしかないかなぁ。ダンジョンが大きくならないと私も外界で力を振るえないからなぁ。……ああ、確か「配信」とかいう手で人間から信仰エネルギーを吸収して大きくなる手もあるけど、今の隠れてる私たちじゃ無理だし……。」


 ん~とDは自分の腕を組んで考えこむが、また新しい手段を見つけ出したように、ポンと両手を叩く。


「ああ!やっぱり他のダンジョン攻略だよ!他のダンジョンを攻略してダンジョンコアを手にしてそのリソースを奪い取る!!やっぱりこういう略奪経済が一番手っ取り早いよね!!略奪サイコー!!バンバンいこうよ!!……まあ私はダンジョンから出れないんですが。」



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