第5話 プリーストが仲間になった!
「……ん?」
そんな時、Dは何かに気づいたように顔を上げる。このダンジョン内部は、ダンジョンコアである彼女にとって、このダンジョンは自分自身の肉体のような物である。
そして、そんな彼女が感じ取ったのは、このダンジョンに再び人間が入ってきた事だった。このダンジョン自体が彼女自体の体のようなものならば、外から異物が入ってくれば探知できる事ぐらいはできるのだ。
「ん~。珍しいなぁ。一日に何人も入ってくるなんて。どんな人間かなっと。」
Dはそういうと、彼女の手元に光で構築された仮想キーボードや仮想マウスが展開される。それをカチカチといじると、空間に映像が展開されて侵入してきた人間の姿が映し出される。
まるで監視カメラのようにそこには一人の人影がダンジョン内部に侵入しているのが、映像で映し出される。
それは、先ほどパーティと逃げ出した女性プリーストだった。
「……あれ?これキミを見捨てた奴らの一人じゃない?何考えて戻ってきたんだろう……。まあいっか。人間って見捨てられるとめっちゃムカツクんだよね!?どうする!?処す!?処す!?」
ワクワクとした顔でDは瑞樹に覗き込むが、瑞樹にはプリーストの女性を傷つける気など毛頭ない。彼女がかけてくれた小治癒がなければ自分は確実に死亡していただろう。いうなれば命の恩人である。そんな彼女の命を奪うなどそこまで非情冷徹ではない。
「……とりあえず話を聞いてみないと何とも言えない。わざわざ戻ってきたのは事情があるんだろうから、勝手に攻撃とかしないでね。」
「は~い。おとなしくしてま~す。」
ちぇ~と唇を尖らせながら、Dはプリースト……姫奈がダンジョン内部に入り込んでいるのをモニターしている。ダンジョンコアである彼女ならば、こういう風に侵入者に対して侵入を探知してその動きを探知できるなど、冒険者である瑞樹からしたら恐るべき事だが、今はそれが実にありがたかった。
姫奈は、たった一人でメイスと盾を持ちながら迷宮内部を恐る恐る歩いていた。たった一人でダンジョンに突入するなど、まさに無謀の極みである。
「はあはあ……。せ、せめてオタクくんの遺体は回収しないと……。このままだと彼の家族に合わせる顔がないじゃん……。」
小治癒はかけたが、あの状態で生きられるはずもない。だが、例え死んでいてもその遺体は回収しなければならない。
そう判断した彼女は、同じパーティの制止を振り切り、彼の遺体を回収するために一人で飛び込んできたのだ。
……当然、プリーストが一人でダンジョンに飛び込んでくるなど自殺行為そのものである。彼女は死を覚悟してここまで乗り込んできたのだろう。
しかし、どうしたものか。これで自分が姿を現したらどういう反応になるのか今一瑞樹にとっても読み切れなかった。とりあえずお互い顔を合わせずに意思疎通できればいいのだが……。
当然、ダンジョン内でスマホなど通じるはずもない。
そんな困っている彼に対して、Dはいともあっさりと彼の悩みに答えを出す。
「え?あの子と安全に会話したいの?だったらあの子の前に幻影投影しよっか?ダンジョン内に声を響かせるより分かりやすいでしょ?まー相棒の頼みなら!特別に!やってあげましょう!!」
えっへん、と平たい胸を逸らしながら、Dはそう瑞樹に言葉を放つ。
「……ありがとう。それじゃお願いできるかな?」
ヴヴン、と微かな音を立てて、プリーストの前に対して瑞樹の幻影が投影されて、プリーストは思わず腰を抜かさんばかりに驚く。
それも当然だ。あれだけの怪我ならもう死んでいるだろう。せめて死体だけは回収しないと、決意して潜り込んできた彼女の前で、彼が魔術幻影の姿で現れたからだ。
一体どういうことだ?と混乱状態にある彼女の前で、瑞樹は声を放つ。
『……あー、何を聞いたらいいのか……とりあえず、俺を救いの来たということでいいのかな?だったら俺は無事だからもう……。』
「ご……。」
「ごめんね!!」
そう叫びながら、彼女はダンジョンの床に迷うことなく土下座した。
あまりの展開に瑞樹は思わず口を開けて呆然とした顔になるが、それでもプリーストは土下座しながら言葉を放つ。
「助けられなくて御免なさい!!私はプリーストなのに!プリーストなのにぃ!!」
土下座しながらそう言って号泣している彼女を見て、どんな言葉をかけていいか分からない瑞樹は困り果てたように、ちらりとDの方を見るがDはニコニコと笑いながら物騒な言葉を放つ。
「ん~。自分でやっておきながら土下座とか変わった生命体だねぇ。人間って全部こうなのかな?まっいいか!!君に危害を与えたんならやっちゃっていいよね!?とりあえず両手両足切り落としてみよっか!怪物に食らわせるのでもいいよね!それじゃ派手にレッツゴー!ということで!!」
「いやダメに決まってるでしょ。」
ええ~。とその瑞樹の言葉にDは唇を尖らせてぶーぶーとブーイングを飛ばす。
確かに彼女のパーティはやらかした事はろくでもないが、彼女自身は最後の最後まで自らの善性を貫こうと頑張ったのだ。
さらにいえば、彼女がかけてくれた小治癒の魔術がなければ、まず間違いなく瑞樹はDと出会う前に死んでいたに違いない。
事実上の命の恩人である彼女を無碍に扱えるほど、彼も人の心を持っていないわけではない。もしかしたら自分を釣るための演技では?とも思ったが、死んだと思ったはずの自分に対してそんなことするはずもない、と瑞樹はその考えを否定した。
「まあ……。とりあえず会いにいこうか。騙してる形跡……というか他の人間たちが潜んでる可能性もないんでしょ?」
「うん、そうだね~。まあそれに私もいるしへーきへーき。いざというときはブッ飛ばしてあげるよ!」
彼女のフッ飛ばすは本当に文字通りの意味で「フッ飛ばす」だろうからなぁ……。下手しなくてもプリーストが肉片になりかねない。きちんとプリーストに危害が及ばない感じに誘導しないと……。と思いながら、瑞樹は彼女へと会いに行った。
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