第2話 融合したのは最強のダンジョンコアでした。


 ―――それは、とある異変から始まった。世界中、特に日本に『ダンジョン』と言われる謎の建築物が発生するようになったのだ。

 しかも、このダンジョンは内部からこの世界以外の外世界異質生命体……すなわち「怪物」が存在し、その怪物を吐き出す事から大問題化することになった。

 ダンジョンから湧き出す無数の怪物たちを迎撃する自衛隊たちの活躍により、社会情勢はある程度安定されていた。

 だが、戦車など大型の兵器を迷宮内に持ち込めない以上、自衛隊はダンジョンから溢れ出す怪物たちを迎撃・殲滅する事を専門にしていた。

 だが、生まれて育ったダンジョンから怪物を吐き出す事を迎撃はできても、自衛隊がダンジョンに潜り込んで攻略してダンジョンコアを破壊する専門技術家が必要とされた。

 そこで必要とされたのがダンジョン内部を探索する『冒険者』たちも誕生するようにはなっていたが、当然彼らは命をかけた非常な危険作業であることは変わらず、迷宮内部で命を落とす事も珍しくなかった。

 そして、そんな中『冒険者育成学校』で育てられた『冒険者』たちもダンジョン内部へと探索する……こともあるのだが、当然学生である彼らが潜れば失敗することも当然ありうる。そして、これもそういうパターンであった。

 ともあれ、傷から回復した彼……瑞樹は目の前の銀髪のにこやかにほほ笑む美少女について言葉を放つ。とにかく、目の前の女性と話して情報を収集しなければならない。


「俺は……俺は神無月瑞生(みずき)だ。よろしく頼む。」


「オッケー!ミズキね!!よろしく!!まあ、キミと私は命を共有した相棒みたいな物なんだから、少しは仲良くしなくっちゃね。まあそれでも?言ってみれば運命共同体みたいな物なんだから、私のお願いも聞いてほしいな~。」


 Dと言ってる目の前の彼女の発言を解析すると、やはり自分は彼女と生命を共有することで生命力や傷を回復させたらしい。そして、生命を共通したということは、嫌でも自分は彼女と運命共同体となったという事だ。口調からすると、彼女はダンジョンコアであり、人間の感情や思考などとは異なる思考形態で存在している。

 もし、彼女が日本に侵攻しようとすれば大変なことに……。


「そうだね~。とりあえず!バーンと派手なことをやりたいな!!このニホン?って国を侵略なんてのはどうかな!侵略!侵略!大侵略だよ~!!イエーイ!!私がニホン?を支配したら君にも分け前をあげるよ!綺麗な女の子たくさんのウハウハハーレムチート生活!!好きなだけ豪華な生活をさせてあげるよ!これなら不満はないでしょ!人間なんてちょろいもんだし!」


 ……大変なことになりかかっていた。瑞樹は思わず何言ってるんだコイツ、という顔をしながら頭を抱えそうになってしまう。

 いかに強いと言っても単体で日本という国家に戦いを挑める訳がない。

 それは現代人である彼は骨身に染みついている感覚だ。もはや世界は単体の存在でどうにかできるほど単純でできてはいない。

 ……だが。


(何なんだよこのLVは……!!頭おかしいんじゃないか……!!)


 そう、彼女と半融合した瑞樹には、彼女のLVがある程度が把握できていた。

 瑞樹から見た彼女のLVは軽くLV900をオーバーして計測不能へと到達していたのだ。これは彼が計測できていた分であって、実際はそれ以上の可能性がある。

 つまり、まったくもって底の知れない文字通りの怪物そのものであるという事なのだ。こんな存在が暴走したらどうなるのか、何を考えてこんな存在が自分と融合したのか、彼は冷や汗をかきながらごくり、と唾を飲み込む。

 こんな存在が暴れまわったらどうなるか分からない。何とか口先三寸でおとなしくさせる必要がある、と彼は何とか口を開く。


「あー、えーと……。いきなり攻め込むのはまずいんじゃないか?情報もなしにいきなり外に出たら予想外の被害を食らう可能性が高い。まずはじっくりと腰を据えて、情報収集を行いながら力を蓄えていく……とかどうかな?」


 それを聞いたDは、瑞樹の言葉に我が意を得たり!とパァア!と明るい表情で瑞樹の言葉にうんうん!と思いっきり首を上下に頷いていく。


「そう!それだよ!キミと融合したのもそれ!!この体を作ったのも、キミを助けたのも、私がこの世界での情報収集用の偵察端末になってほしいからだよ!!

 人間って無償で助けるのは信用されないけど、代価で助けるのなら信用できるんでしょ?私は情報収集の偵察端末が手に入る!キミは命が救われて生きることができる!これってウィンウィンの関係ってヤツでしょ?私有機生命体の心とかよく知らないけど。」


 ……とにかく、少し話しただけでも理解できた。この子はまるで人間心理、人間というものを理解していないのだ。何もかも全て聞きかじったような知識でしかない。

 こんな存在がなんの束縛もなしに日本に飛び出してしまっては、日本に多大な被害に与えるし、誰も幸せにならない絶望の未来が待ち受けているだけである。

 ……ならば、俺が!何とかするしかない!!と瑞樹は決意した。

 自分と融合した存在を「情報収集用の端末」といつでも切り捨てられる存在と位置付けているのは、命を共有していると言ってもこちらが死んでも向こうにはそれなりのダメージしかない、という事なのだろう。それでもこれだけこちらに好意的なのなら(理由はわからないが)ある程度はストッパーになることはできるだろう。

 瑞樹の必死の説得を受けて、Dはうーんと頬に指を当てて深く考える。


「うーん、そうだねぇ……。まだ私のダンジョンも定着したばかりだし……。外だと完全な力振るえるか分からないし、情報も必要だし……。キミの言う通りだね。」


「ともあれ、キミと私は文字通りの意味で運命共同体、言うなれば『相棒』って事だよ!!よろしくね相棒!!」


「……分かった。だけど、俺を相棒というなら俺の言う事も聞いてくれないと困るからよろしく頼む。いや、本当にマジで。お願いします。本当に本当にマジで。」


 にぱー!!と明るい笑顔を見せるDに対して、瑞樹は自分の手を差し出して、握手を行った。彼女のその手は人間のように柔らかくはあったが、非常に冷たかったのが、瑞樹の印象に残っていた。


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