現代無能冒険者、最強のダンジョンコアと命を共有して魔物使役スキルで迷宮災害侵攻に立ち向かうようです。

名無しのレイ

第1話 死にかけてダンジョンコアと融合しました!

「はあ……はあ……。ぐ……。し、死にたくない……。死にたくない……。」


 薄暗い迷宮内部、革鎧を身に着けて血まみれになっていた一人の青年は、血みどろの手を壁に当てながら歩いていた彼は、ついに冷たい床に倒れ伏した。

 彼の名前は「神無月瑞樹」一応冒険者ではあるが、前線で戦う人間ではなくいわゆる「荷物持ち」の職業の冒険者だった。

 傷口からどんどん血が流れだして、体が冷えていく中、青年は冷たくなっていく自分の肉体を感じて、ついに自分自身の「死」を覚悟した。

 そんな風に血まみれで床に転がっている青年に対して、コツコツと、軽い足音を立てながら「何者」かが彼に近づいてきたのが感じられる。


「ん~?何か死体が転がってる?どうせならリサイクルでダンジョンの素材にしちゃおっか!!え?もしかして生きてるの?うーん、現代人にしてはしぶといねキミ。」


「ちょうどいっか!ねえ、キミ生きたいかな?生きたかったらお姉さんの言葉に「うん」っていえば助けてあげるよ。まあ命は私と共有になるけど、死ぬけどマシでしょ?有機生命体の死ってよく理解できないけど。まあいい情報収集源になりそうだし!!」


「よし!いい子!それじゃ、自己紹介しよっか!!ええと、私の名前はね~。」


 ―――そのある意味悪魔の問いに、彼は何も考えずに頷いた。


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「おい!この無能が!荷物持ちのくせに荷物も持てないのか!しっかりしろよ!!明かりもきちんと照らせよこの「無能」が!!」


 リーダーの戦士である少年の声がダンジョン内部に響き渡った。

 筋肉質で大柄の彼にこつかれているのは、一人の荷物持ちの青年である。

 パーティー皆の荷物持ちである彼は、食糧や水、各自の荷物を抱えながら必死でダンジョンの中を歩いていた。


「ほーんと、スキルも持たない能力もない「無能」は困ったもんだよねー。強くて優れてる私達を見習ってほしいわ。」


「その通り!このパーティーは皆スキルも職業適性も高い優れた人間……優れた冒険者だけのパーティーなんだ!!何のスキルも職業適性もない「無能」は本来及びじゃないんだよ!!」


 そう言いながら、戦士の少年は胸を張り、そんな彼に対してピアスやネイル、魔術師の杖を派手にデコレーションしている魔術師の少女はきゃーカッコいい!と黄色い声を上げた。

 ここ現代社会の日本では、発生したダンジョンを攻略するために、迷宮攻略高校、迷攻高が急速に普及し、ダンジョンを攻略する若い冒険者たちが急速に増えていた。

 その中でも正面切って魔物と戦う勇敢な戦士の人気は高く、女性にモテるのが普通だった。

 反対に嫌われていたのは、いわゆる「無能」何の力も能力もない弱者男性たちである。

 彼ら弱者男性たちは、冒険者たちの荷物を運ぶ荷物持ちとして「無能」のレッテルを貼られ追いやられていた。

 この少年「水無月瑞希」もそんな弱者男性荷物持ちの一人だった。


「何せ俺はレベル7に到達して戦士系スキルもある戦士だからな!未だにレベル1の無能とは格が違うよ格が!!」


「そうだよね!さっすがー!!無能くんとは格とカッコよさが違うよねー!!」


 ギャル魔術師と戦士たちはそんな風に仲良く荷物持ちを露骨に見下してバカにしながらダンジョン内部を歩いていた。

 だが、それでも彼はレベルアップのために耐えるしかなかった。彼らのいう事は事実ではある。何のスキルも能力もない自分では、荷物持ちとしてコバンザメのようにくっついて経験値のおこぼれをもらってLVを上げるしかない。

 LVさえ上がればあんな奴らからの悪口を言われない。彼は歯を食いしばって耐えるしかなかったのだ。

 そんな彼に対して、おずおずとプリーストの少女が水筒と共に声をかけてくる。


「うーん、オタクくん大丈夫?あの軽薄男、我がリーダーながらあれはないわぁ……。オタクくん一生懸命頑張ってるじゃん。」


 そんな声をかけてくるプリーストに対して、戦士は鋭い口調で彼女を制止する。


「おい!そんな荷物持ちに声なんてかける必要ない!甘い顔したら付けあがるのがこいつらだからな!!」


 その戦士の言葉に、プリーストは渋々と彼の近くから立ち去っていった。


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「おい役立たずの荷物持ち!お前は俺たちの盾になれ!!」


「そうよそうよ!!アンタみたいなゴク潰しの役立たずがアタシたちの盾になれるのよ!光栄に思いなさい!!ほら、さっさと逃げるわよ!!」


 ダンジョン内部、そこで何人かの冒険者が纏まったパーティが内部分裂を起こしていた。予想外に強い敵に対して、傷を負ってしまった荷物持ち兼照明持ちの少年を見捨てて、自分たちの囮として逃げ出そうというのだ。

 だが、そんな非人道的行為に対して猛烈な抗議を行ったのは、パーティの中の僧侶……プリーストと言われる治癒魔術を使用する僧侶の女性だった。

 彼女は、傷を負った青年に対して回復魔法をかけようとしつつ、そんな彼らに対して抗議を行う。


「ちょっと待ちなさいよ!!アンタらオタクくん見捨ててさっさと逃げ出すの!?信じらんない……!!人の心とかないのアンタら!?前々からクズだろくでなしだと思ってたけど心の底からクズなんだね!このクソ野郎!!」


「うるせぇ!!こんな役立たずのクズと正式な冒険者の俺たちじゃ生きてる『価値』が違うんだよ!!『やむを得ない犠牲』って奴だ!!さっさと来い!!プリーストのお前がいなくなると俺たちが困るだろうが!!」


 そういうと、パーティの戦士である青年はプリーストの女性の腕を掴んで無理矢理連れて行こうとする。それに対抗しようとするプリーストの女性だが、魔術師の女性の束縛・麻痺の魔術で肉体を麻痺させると、そのまま無理矢理彼らは全力でその場を離脱していった。


「アタシに触るな変態!!マジキモいんだけど!?ぐ……。せ、せめてこれだけは……《小治癒》ッ……!!」


 プリーストの女性は、麻痺した体を無理矢理動かしながら、血まみれの青年に対して、小治癒の回復魔術をかけていく。それで多少なりとも青年の傷口は回復して小さくなっていく。だが、それでも完全に回復するまでには至らなかった。

 そして、後に残されたのは、傷口から血を滴らせながら必死で歩く青年のみ。傷口から溢れる血を手で押さえながら、彼は必死になってただ歩く。

 そして、多量の出血を行ってしまった彼は、ついに力尽きて床に倒れ伏した。



 そんな中、倒れて意識を失った青年は、頭をぺちぺちと軽く叩かれる衝撃を感じ、その衝撃に耐えかねた彼は思わず目を覚ますが、彼が感じていた痛みが見る影もなかった。そして、恐る恐る目を開けてみると、銀髪の綺麗な髪をツインテールにした、まるで人形のような純白な肌と銀色の瞳をした、まるで人形のような綺麗な少女はぺちぺちと青年の頭を叩きながら、面白くなさそうに呼びかけていた。


「お~い。お~い……。あっ!起きた!ねえねえ。体に変なところない?とりあえず命を共有して回復魔術はかけたけど、私有機生命体に回復魔術かけたのは初めてだから、きちんと病院?って場所?に行って体を見てもらった方がいいよ。人間の肉体構造とかよくわからないしね~。」


 彼が目覚めた瞬間、その少女は何か楽しいのか、にこにこと無邪気な子供なような笑みを浮かべながら、何やら物騒な事を口走っている。

 そんな不自然なほどにこやかに笑う、銀髪の少女を目の前にしながら、彼は思わず傷口を撫でるがそこには傷口すら存在していなかった。

 痕跡は床に流れていた血や壁にべっとりついた血の手形ぐらいである。

 さらに、失われたはずの血や体力までもが完全に回復しているのが感じられる。そんな異常な状況に首を傾げる彼に対して、銀髪の少女はにこにこしながら言葉を放った。


「うん!それじゃ自己紹介といこうか!全くもう、私が自己紹介する前に気を失うなんて有機生命体ってやっぱり軟弱というか複雑な構造だよね~。ちょっと失礼だよ。」


 ぷんすか、と頬を膨らませながら手足をジタバタさせるのは、非常に可愛らしいが、彼女は今まで異様な事しか言っていない。その異様性は同じ人類ではなく、形は似ているが全く違う異世界の生物だと感じさせた。


「それじゃ自己紹介!私は……とりあえず適当に『D』とでも言っておくわ!まあ正直名前なんてどうでもいいけどね!!どうかな?人間の美意識とかよく分からないけど、結構可愛いと思うんだけどな~。しかし、こんな服とか下着とか布切れを着るとか人間とか良くわからないわね……。」


 そんな彼女に対して、彼は恐る恐ると問いかける。つまり、彼女の口振りからして、彼女は人の姿はしているが人間ではない、と言う事だ。その彼の問いに答えるように、Dと名乗る彼女は朗らかに笑いながらブイサインを繰り出した。


「うん、そうだよ!私人間じゃないもん!!私はね、簡単に言うと『ダンジョンコア本体』だよ!!えへんぷい!そのダンジョンコアが作り上げた対人類コミュニケーション女性体ってやつ。まあ、適当な操り人形とでも思ってくれたらいいよ。

 しかし、君も運がよかったね。死んでいたら死体を吸収してダンジョン拡張用の原材料にしようと思ったんだけどね。……あれ?人間的にこれってまずかった?」


 不思議そうに小首を傾げる銀髪の美少女。こうして彼らの物語は幕を開けた。

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