第42話 完成

 テグリとの戦闘を終えて小一時間。現場にはユーエン王国の軍隊が処理のために派遣されていた。

「お二人とも無事で良かったです」

 カロンが志木たちの無事を確認する。

「これで、第一班、第二班、第三班の壊滅を確認しました。残る戦力がどのくらいあるのかは不明なのが少々厄介ですが」

「今、確定で判明している戦力は、突撃班長のシャクロー……だけ?」

「いえ、あと一人います」

「いるんだ」

「軍によって壊滅した第二班班長が話していたらしいのですが、鉄火中隊の中隊長がいるそうです」

「リーダーみたいな人か。まぁそりゃいるよな……」

 志木は少し苦い顔をする。

「現在、軍がシャクローと中隊長の行方を捜索していますが、状況は芳しくないというのが現状ですね」

「仕方ないわ。そもそも小規模で活動している武力組織だもの。簡単に見つかるほうがおかしいわ」

 ルーナが個人的な見解を述べる。

「しかし、中隊長はいいとして、シャクローの動きはある程度予測出来ます」

「え? できるものなの?」

「はい。シャクローはカイトさんを目の敵にしていると推測されますからね」

「あぁ、それもそうか……」

 志木は遠い目をした。

「とにかく、それまでは石鹸の製造に力を入れてもらいたいですね」

「それもそうだし、他にやることがないからなぁ」

「やることならあるでしょうよ。ナーロ語を覚えるとか」

「あーあー、聞こえない」

 そういって時間は流れていく。

 1週間後。石鹸工場では、最初に製造した石鹸がまもなく完成しようとしていた。

「サンプルとして、一つ持ってきてくれますか?」

「はい」

 熟成と乾燥を兼ねて、風通しの良い場所に置いておいた石鹸を一つ持ってきてもらう。

 志木はその石鹸を、糸を使ってさらに細かく刻む。刻んだ石鹸とタライに入った水を使って、志木は実際に手を洗ってみた。

 すると、それなりに白い泡が立ち、志木は手が洗浄されている感覚を覚えるだろう。

「おぉ、これが石鹸……」

「お袋がたまに作ってたが、こんな感じだったのか……」

 作業員から、そのような声が上がる。

「うん、いい感じ。これくらい泡立つ石鹸なら、インパクトも大きいな」

 志木も満足そうである。

「あと少しだけ乾燥させれば、石鹸の完成です。これがユーエン王国における新しい生活の基準の一つになるでしょう」

「おぉー!」

 作業員たちは、拍手して喜ぶ。

 さらに数日経って、作業員たちは次の作業へと入った。

 完成した石鹸を規定の大きさに切り分け、表面にハンコのようなもので刻印を打つ。

 そしてその石鹸を、手頃な柔らかい布で包み、商品として完成させる。

 こうして、ユーエン王国国王の名の元に製造されたユーエン石鹸が完成したのである。

「まずは約10kgの販売ですね……。この石鹸がどれだけ売れるか、それが問題です……」

「旦那が気にすることじゃねぇよ。国王陛下のお墨付きもあるんだ、そうそう売れ残ることはないと思うぜ」

「そうっすよ。異世界人の石鹸と聞けば、どんなものも売れるっすよ」

「そうだといいんですが……」

 価格は、一般庶民が購入しやすい値段に設定している。当然だが、その値段では採算は取れない。赤字の分は国庫から出してもらっている。

(もし売れ残ったり、評判が良くなかったときは、腹を切るしかないだろうな……)


Tips!:志木は、自分には何も差し出せるものがないと考えているぞ。仮に差し出せるものがあるとすれば、それは自分自身の命だと思ってるぞ。武士でもないのにね。


 ありもしない覚悟をしつつ、志木は完成品のチェックを行っていくのであった。

 そして発売当日。石鹸は合計で30kgほど出来上がった。それを市場へと運ぶ。

「さて、どれだけ売れるかな……」

 簡素な出店に、石鹸を並べる。その横で、作業員の一人が立て看を設置し、最終調整に入る。

「準備できました。あとは客が来るのを待つだけです」

「前日からの宣伝も行いましたし、人事を尽くして天命を待ちましょう」

「そうですね……」

 そして市場が賑わい出した頃。

 出店の前にちらほらと人が集まり出す。

 そして一人の女性が店に立ち寄った。

「あの、ユーエン石鹸を売ってるお店はこちらかしら?」

「はい、そうです」

「……確かに、石鹸としては安いわね。1つ頂こうかしら」

「あ、ありがとうございます!」

 こうして、女性が石鹸を購入したのをきっかけに、一人、また一人と客がやってくる。

 結果として30個ほどが売れた。

「初めて販売したにしては、売れたほうかなぁ……」

「俺らも商売はしたことないので分かりませんな」

「でも、ちゃんと売れてるんだからいいじゃねぇか。売れないよりよっぽどマシだ」

「それもそうだな」

 そういって作業員たちは笑い合う。

 それを見て志木は、なんとなく抱えていた不安が少し和らいだのを感じた。

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