第34話 敵対

 それから数日ほど時間が経過する。

 志木は手が空いていたため、石鹸の配合を検討していた。

 ルーナはしきの代わりに書類を書くなど、のんびりとした空気が流れている。

「こういう感じの日常、最近味わってないなぁ……」

「何呑気なこと言ってるのよ! カイトがナーロ語が読めないせいでアタシが大変なのよ!」

「いや、それに関しては本当に申し訳ない……」

 志木は謝りつつも、石鹸のことを考える。

 ふと、志木が窓の外を見た時だった。

 数ブロックほど先にあるだろう建物が爆発し、煙を上げたのだ。

「な、何事!?」

 志木は驚いて、窓の外を見る。

 すると、2度、3度と爆発が続いた。

「なんかヤベーこと起きてる!」

「見れば分かるわよ!」

 志木は爆発を見て、居ても立っても居られなくなり、部屋を飛び出した。

「ちょっ、カイト!?」

 ルーナも書類をほっぽりだして、志木の後を追いかける。

 宿代わりにしている行政職員用宿舎を飛び出した志木は、煙が上がっている方向に向かって走る。

 しかし、日頃から運動していなかった影響か、すぐに息が上がる。

 その間に、後ろから走ってきたルーナに追いつかれてしまった。

「カイト、大丈夫?」

「だ、だい……、いやっ、無理がも……」

 ゼーゼーと荒い呼吸をする志木。

(大学の授業で、スポーツを選択してたはずなんだけど……!)

 爆発から逃れるように、人の波が押し寄せる。それをかき分け、志木とルーナはようやく現場に到着した。

 現場では多くの人々が瓦礫の下敷きになっている。

「大変だ……! 助けなきゃ!」

 そういって志木が被災者の救助に当たろうとした時だった。

 志木の視界の上から、何かが急にやってくる。志木はそれに気が付くものの、コンマ数秒ほど動けなかった。

 ガァァァン!

 金属同士がぶつかったような、ひどく鈍い音がする。

 志木の頭上には「ウォール・モノリス」が発動しており、その上にはまるで金属棒のような極太な剣があった。

「あ……」

 志木は思わず、その場で静止してしまう。

「なんや、防御魔法かいな」

 志木の頭上で剣を振るった男は、そのまま志木の防御魔法を足場にして、後方へとジャンプする。

 瓦礫の上に立つと、剣を肩に置いて志木の方を見る。

「お前さんがワイらに敵対しとる連中か?」

「そういうアンタは誰よ!?」

 志木のそばに駆け寄ったルーナが、男に聞く。

「ワイか? ワイは鉄火中隊第三班班長、ワグニーや」

「鉄火中隊……!」

 志木は正気を取り戻し、ワグニーを睨む。

「なんか突撃班のシャクローがお世話になったみたいやな。お前を討ち取りゃ、ワイも中隊で顔を利かせることが出来るわ。ナーハッハッハッハ!」

(なんか、いちいちイラつく発言してるな……)

 志木はそんなことを思った。

「ワグニー、俺は死んだことになっているのか?」

「そりゃあ、突撃班長なんて死に急ぎ野郎にしか出来ないからなぁ。……ってシャクロー! お前いたんか!」

「これだけ大規模な爆発を起こせたのは俺がいたからだろうよ」

 瓦礫の山の上に、シャクローが現れる。

 それと同時に、志木とルーナの周りには黒い装いをした人たちによって囲まれる。

「班長って、本当に班編成して統率してたのかよ……!」

 志木は黒だらけの服装の敵を見て、これを確信した。

「まぁ、一応ワイらも偉い人間ちゅうことや」

「お前らは我々鉄火中隊の障害になり得る存在。ここで死んでもらおう」

 すると、志木の周りにいた敵が、一斉に襲い掛かってくる。

『ウォール・モノリス』

 志木はすぐに、自身の周囲を防御魔法で囲む。

 防御魔法に突っ込んでくる敵は、鉄のような壁にぶち当たるだろう。

 おおよそ半分の敵は徒手空拳、もう半分の敵は剣を使って攻撃している。

 しかし志木の防御魔法の特性上、衝撃を伴う攻撃は通用しない。

「カイト、ここからどうするの?」

 ルーナが志木に聞く。

「いや……、これ以上どうしようもないんだけど……」

「あー、そうだったわね……」

 ルーナは額に手をやって、少し後悔の念を出す。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えていく。

「ここから攻撃するわ!」

 そういって地面に手を置く。

『ワキバインゲン、チヨワレン』

 ルーナが呪文を唱えると、防御魔法の外側の地面が隆起して、敵の足元を文字通り掬い上げる。

『ワニバインゲン、イカヅチオチレ』

 すぐに別の呪文を唱える。それにより、周辺の敵に対して雷が落ちた。中には直撃する者もいるようで、効果は抜群である。

「チッ。なかなかやるやん。攻撃と防御を分担しとる辺り、相当な手練れやな」

 そういってワグニーは瓦礫の山から下りる。

「そろそろワイらの本気を見せちゃる時かの……」

「そういうと思ってたよ。お前のことは好かないが、同じ目的のためだからな」

「素直になりぃや」

 そういってシャクローとワグニーは体勢を変える。その格好は、突撃直前の闘牛のような威圧感を志木たちに与えた。

「うわ……、なんかヤバそう……」

「カイトは防御魔法に集中して! 攻撃はアタシがやるから!」

 周りのザコを倒しきったルーナが、志木に指示を出す。

 ほんの数秒、静寂が訪れる。

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