第30話 戦闘

 爆発により地面にあったものがパラパラと落ちてくる。

 そんな中を、全身黒ずくめの男がゆっくりと志木たちに近づいてくる。

「お前ら、この間王都にもいたな。さては俺たちのことを付けてる連中だろ?」

「何の話よ?」

「……俺たちのことを知らないのか? なら自己紹介でもしよう。俺は鉄火中隊アイアン・カンパニーの突撃班長ことシャクローだ」

「鉄火中隊……」

「それで、アタシたちを何だと思ったのよ?」

「俺たちの計画の邪魔をしている人間だと思ったんだよ」

「計画?」

「まぁ、一言で言えば、この辺の国家を崩壊させることなんだが」

「崩壊……?」

 ルーナが言葉を選んで質問する。ルーナの後ろにいた志木とカロンは、言葉を出せずにいた。瞬時に状況を判断したルーナが、二人にしゃべらないように無言で指示を出したのだ。

(一般人を装って、敵と思われる人から情報を引き出す……。かなりの上級テクニックだ……)

 誰目線なのか分からないが、そんなことを思う志木である。

「俺たち鉄火中隊は、今の流行り病を使って国家を崩壊させようとしているんだ。王国だか帝国だかの縛りから解放されるためにな」

「聞いたことあるわね。確か懐古的無政府国家主義者とか言うのかしら?」

「あぁ、その通りだ。俺たちは政府なんていう無意味に市民を縛り付けるシステムが嫌いだ。それを破壊するためなら、どんな犠牲だって払う」

(共産主義に染まった革命家か何か?)

 クーデターでもしたいのだろうか。

「ま、そんなわけだから、一般人の君たちは逃げたほうがいい。ここもじきに混乱に見舞われるだろう」

「それはどうかしら?」

 そういってルーナが急に立ち上がり、手を前に出す。

『ワガンバインゲン、イデンカエン』

 すると、ルーナの手から火炎流が噴き出す。火炎流はシャクローの全身を覆った。

「これでどう……!?」

 ルーナとしては、かなり手ごたえがあったようだ。

 火炎流を止めると、そこには無傷で立っているシャクローの姿があった。

「なっ……!」

 ルーナは驚く。志木も驚いた。あれだけの火力で焼き払ったのに、火の粉一つ付いてないのだから。

「やっぱり敵だったか。それでも問題はない。俺たちの計画に変更はないからな」

 そういってシャクローは、親指と薬指を折り曲げた状態の手のひらをこちらに向ける。

『ワニンギ』

 すると、シャクローの周りに水の球体が複数浮かぶ。そしてそれらが一斉に槍のようになってルーナに襲い掛かる。

 志木の体は、考えるよりも先に動いていた。

『ウォール・モノリス』

 水の槍がルーナに到達する前に、志木の防御魔法が展開される。

 防御魔法の表面に、水の槍が突き刺さる。ちゃんと防御魔法は展開されているようだ。

「おぉ、これがこの間使っていた防御魔法か。ちゃんと防御している」

 シャクローは関心するように言う。

 一方で、ルーナとカロンはかなり驚いた様子でシャクローを見る。

「あの男……かなり強いわ……!」

「なんで?」

 志木はルーナに聞く。

「さっきの呪文、詠唱が短縮されていたわ。こんなこと、魔法を相当極めた人じゃないと出来ない芸当よ」

(そういうのある世界なんだ……)

 志木はこの世界に対する認識を改めた。

「さて、お前の実力は大体分かった。ここからは本気で行くぞ」

 そういうと、シャクローは両手を前に出す。

『ワギンジ』

 すると水の球体がシャクローの周りに浮かぶ。今度は水の球体が槍になった後、氷のように変化した。氷の槍と化して、それらが志木たちのほうに飛んでくる。

 志木は魔法の維持のために、さらに魔法に集中する。

 氷の槍は、志木の防御魔法に命中し、そこで粉々になった。

「ほう、まだ耐えるか。なら次は──」

 その時、ルーナが動く。

 志木の防御魔法の範囲外に出て、両手を前に構えた。

『ワギバインゲン、ホンノオハシラデン』

 シャクローを中心とした広い範囲に、炎の柱が生成される。炎の柱から発せられる強烈な熱は、防御魔法を使用している志木も感じることが出来るほどのものだった。

「これなら少しはダメージを与えられているはず……」

 ルーナは体感でそう感じていた。

 炎の柱が消滅すると、そこには巨大な水の球体で包まれたシャクローの姿があった。

「さすがに今のは危なかったな。これが無ければ死んでいたぞ」

 そういってシャクローは水の球体を消す。

 ルーナは驚いた後、少し悔しそうな顔をする。

「この火力でも倒せないなんて、厄介な相手ね……」

 ルーナは次の手を打とうと、さらに呪文を詠唱しようとする。

 しかしその前に、シャクローが先の呪文を詠唱した。

『ガギン』

 その瞬間、シャクローは姿を消した。

「えっ──」

 ルーナは現在の状況を把握するのに精一杯のようで、呪文の詠唱を止めてしまった。

『今はここで退散しておこう。また会えるのが楽しみだ』

 どこからともなく声が聞こえてくる。

「どうやら、先に退散したようですね」

 カロンが現場の状況を判断して言う。

「それならいいんですけど……」

 志木は防御魔法を解除して、辺りを見渡す。どうやら犠牲になった一般人はいないようだ。

 そんな中、ルーナは自分の手を見つめる。

「全然攻撃が効いてなかった。このままじゃ駄目……」

 そういって手を握りしめた。

 この後は、オリスト伯爵の軍隊が現場に到着し、現場の復旧作業に当たる。

 それに際し、志木たちは彼らから聞き取りを受けるのだった。

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