第29話 視察

 早速、数日後に地方へ出張に行く職員たちに同行することになった。

「まぁ、局長の指示だからいいけど、あまり目立つような行動は控えてね」

 そんなことを言われつつ、志木たちは簡素な馬車に乗って地方へと向かう。

「それで、これから行く場所ってどんな場所?」

 志木がルーナに聞く。

「そうねぇ。これから行く場所は、オリスト伯爵の領地になるわ。オリスト伯爵は植物に関心を寄せていて、いろんな国のいろんな植物をそこら中に植えているの」

「領地が実家の庭みたいになってる」

「一応、今回の悩みの種でもあるエビント王国と国境を接している土地でもあるわ。それゆえに強大な軍隊である伯爵軍を有しているの」

「はぇー」

 移動すること約半日。道中の宿場町にて一泊する。

 日が変わって、一行は再び移動する。

 そしてさらに半日ほど移動し、ようやく目的地の伯爵がお住まいになっている街に到着した。

「とりあえず、二日後の昼にはここに集合してくれ。じゃなければ君たちを置いていくことになるから」

 そういって志木とルーナ、各種許可を取り次いでくれるカロンの三人で行動することになった。

「まずはどこに行く?」

 ルーナが志木に聞く。

「そうだなぁ……。とにかく、伯爵が収集している植物をざっと見ておきたいなぁ」

「それなら、オリスト大植物園に行くのが手っ取り早いですな」

 そうカロンがアドバイスする。

「植物園があるのか……。なら、そこに行くべきだな」

「ではこちらへ」

 カロンの案内の元、植物園に向かう。

 オリスト大植物園は、国内外の多種多様な植物が一般に公開されている。さらにこの植物園は、研究施設としても活用されている。その豊富な植物の知識を有していることから、国の補助を受けているとのことだ。

 植物園に到着した志木たちは、受付にて、ミチェット局長と国王エルシャの命令を受けてやってきたことを証明する文書を提示する。向こうの職員は大慌てで上司に確認を取り、結果無料で植物園に入園することが出来た。

「さて、何があるかな?」

 そんな時、志木の頭にある疑問が浮かんできた。

「そういえば、ルーナって植物に詳しいんだっけ?」

「身の回りの植物なら知ってるけど……。さすがにここまでの植物の知識はないわね」

「残念ながら、小生も知識はありません」

 ルーナとカロンが答える。

「……これは解説員を用意したほうが良さそうだなぁ……」

「そもそも、この植物園の展示物を見て回るくらいなら、職員や研究員に話を聞いたほうが早いと思うの」

「それは言えてる」

 結局受付に戻った志木たちは、植物園の職員に事情を説明して、研究員に植物園の中を案内してもらうことにした。

 そしてその研究員に、今回の目的である「油を多く採取出来る植物」のことについて聞いた。当然、本当のことを伝えずにボカした上で聞いている。

「そうですねぇ……。オリーブやごま、ひまわりといった主要な植物から油は取れますが、それ以外となるとなかなかないんですよねぇ……」

「そうなんですか……」

「例えばこのオデロアマクサは、種から油を搾り取ることが出来ますが、オリーブに比べるとかなり少ないんですね」

「採算を考えると厳しいってことですか?」

「そうなります」

「うーん、参ったな……」

 志木は頭をかく。研究員にないと言われた以上、代わりの油を探すのは困難だ。

「他に搾ったことのない植物ってないんですか?」

 ルーナが研究員に聞く。

「とは言いましても、この植物園で所有している植物はほぼ全て研究されていますからねぇ……。油が取れるといった試験もしているんですよ」

「そのうえで、オリーブのほうが効率よく油が取れる、と?」

「そうなります」

 結局この日は、何の成果を得ることもなく退散することになった。

 この後は、厚生局が準備してくれた安めの宿に宿泊し、翌日に備える。

 二日目。この日の昼までが勝負だ。

 日が昇ると同時に、志木たちは宿を出る。

「それじゃあ、行くか。植物博覧街道に」

 植物博覧街道。それは前日の夜にカロンから聞かされた場所である。

 この場所は、オリスト伯爵がいろんな国の植物を植えている街道のことである。博覧会に出品するような種類があるため、植物博覧街道という名前がつけられた。

 とにかく、ここで何かしらの成果を上げなければならない。でなければ、石鹸作りにおける重要な材料が揃わなくなってしまうからだ。

 宿を出て、南の方角へ数十分ほど歩く。すると、だだっ広い野原に出る。

 そこには多種多様な植物が整然と並んでいた。

「ほー。小さい植物から、樹木のような植物まで、本当にいろんな植物があるなぁ」

「カイトなら、この中に見たことある植物とかあるんじゃない?」

「まぁ、確かにそうかもしれないけど……」

 そういって、植物のことをマジマジと見る。

 そんな時であった。

 志木たちの背中のほうから爆発音が響き渡る。

「な、何だ!?」

 その場から逃げようとした時、志木たちの目の前に何かが降り立つ。

「よう、久しぶりだな」

 全身を黒いローブで覆った、黒ずくめの男。

 いつぞやの爆発現場で見た男だ。

 志木たちに緊張が走る。

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