第28話 相談
マスクの作り方を教えた後、志木たちは一度駐屯地に戻る。
「そろそろ宿とか、もう少しマシな部屋で過ごしたいわね」
「そうだねぇ」
そんなことを言いつつ、志木は寝泊りしている部屋に戻ると石鹸の様子を見る。
約1日置いていたため、石鹸は大方完成していた。
「これでしばらくは大丈夫だな……」
作った石鹸を早速使う志木。
翌日になって、志木とルーナは再び厚生局に向かう。どうもすぐにでも取り掛かってほしい書類関係があるそうだ。
厚生局庁舎の2階にある庶務課にて、色々と書類を書かされる。が、実際に書いてるのはルーナである。
「カイトも早く読み書き出来るようになってよね」
「うす……」
志木はふと、周りのデスクの様子を見る。誰もが書類に目を通している様子が伺えるだろう。
(ここに勤めている人たちは、みんな字が読めるのか……。それだけ国の教育の体勢が整っているのか、それともエリートがここで仕事しているのか、だな……)
そんなことを思いつつ、志木はルーナが書類を書き終わるのを呆然と待つ。
1時間程で書類は書き終わり、志木たちはミチェット局長の元に呼び出された。
「何かありました?」
「あぁ。これはまだ不確定だが、重要な情報だと思ってな」
「それは一体……?」
「実は、石鹸の製造をしている海辺の街から、石鹸製造に必要な植物油が不足しているとのことだ」
「油がない……んですか?」
「あぁ。石鹸を自作しているカイトなら、これの重要性が分かるだろう?」
「分かりますけど……。原因とかは分からないんですか?」
「不確定な情報だから、そこまでは揃っていない。そもそもこの情報が正しいとは限らないからな」
そういってミチェット局長は立ち上がる。
「しかし、これはチャンスでもある。今、海辺の街は利権である石鹸が作れなくなる可能性がある。そこに登場するのがカイトだ。新たな製造元、新たな販路を開拓し、競争を激化させる。そうすれば、海辺の町とエビント王国は大きなダメージを受けるだろう」
(発想が悪人のそれやん)
志木は心の中でツッコミを入れる。
「でも、それってエビント王国から横やりというか、妨害を受けませんか?」
ルーナが疑問をぶつける。
「それは最もな意見だ。そのため、我々ユーエン王国の石鹸製造事業は、その大部分を秘匿状態にする」
「秘匿……?」
「そうだ。つまり、エビント王国には石鹸を作っていると知らせず、悟らせずに作る。油は食用のために、灰を集めるのは衛生のために。全てを偽って石鹸を作るのだ」
(なんだかやってることが軍の参謀みたいだなぁ……)
そんなことを志木は思う。
だが言っていることはまともだ。相手を出し抜くなら、徹底的な秘密主義を貫く必要がある。
「ユーエン王国としての立場は分かりましたが、我々はどうやって油を調達するんですか?」
ルーナが再び疑問をぶつける。
「それはそうなのだが、これといって対策案はない」
「ないんですか?」
志木は思わず聞き返した。
「ない。そこで異世界人のカイトの出番だ。何かいい案はないか?」
(まさかの丸投げ……)
このような展開になるとは思わなかった志木。
だが、こうして意見を求められているのだ。志木は考える。
「うーん……。代用の油を用意するしかないですね……。安価で大量に調達出来るもの……」
「そうなると……。何がある?」
ミチェット局長は、横にいる秘書に聞く。
「オリーブ以外ですと、ごまかひまわりがあります」
「ふむ……。備蓄はどれだけある?」
「それは農業局に聞かなければ分かりませんね」
「そうか……。そうなれば私の出番だな。農業局には私から話を通しておこう」
ミチェット局長の仕事が一つ増えた。
「後は、植物油ではない動物油を使うとか、ですね」
「動物か……。動物油は製造というより回収が難しいと聞く。候補から外したほうがいいかもしれないな」
「これも農業局に聞かないんですか?」
「……なら、一緒に聞いておこう」
ミチェット局長はしぶしぶのようだ。
「アタシたちでも何か出来ないかしら?」
ルーナが志木に言う。
「うーん……。地方で少量だけ生産されている植物油を探してくるとかかなぁ……」
「結構地味ね……」
「それでも、やらないよりはやったほうがいいと思うな」
「ならば、貴様らにはそれをやってもらおう」
そういってミチェット局長が、紙に何かをしたためる。
「ちょうど地方の視察に行く職員たちがいる。そいつらについていくといい。時間さえ守ってくれれば、自由行動を認めよう」
そういって紙を秘書に私、秘書はルーナに紙を渡した。
「分かりました。準備します」
こうして当面の方針は決まった。
「では、各々仕事にかかれ」
こうして志木たちの最初の仕事が始まる。
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